第2話 旧友との再会

 俺のスマホから聞きなれたメール音が鳴る。


 ピロピロロ~~~~ン♪


 ここは轟和荘とどろきわそうの二階、五号室、俺の他にこころ彗夏すいか伊莉愛いりあの三人がいる、社長からのメールはの内容は。


 『再度来たれ我が事務所に!』


 そうだった、これからミーティングだったな、新しい振り付けを考えてきたとかではしゃいでいる二人を見て。


 「お前たち、俺の部屋に来る前に事務所にいる社長に挨拶は済ませたんだろうな」


 彗夏と伊莉愛は顔を見合わせてからこっちを見て首を横に振る。


 「前にも言ったぞ、事務所に顔出す前にここには来るなって! 五号室は窓口じゃないぞ!!」


 すると二人は逃げるように下に降りて行く。


 まったく、大きなため息をついてから部屋を出る、心の様子を見るとどうもこいつも事務所に顔出す前に五号室に来たようだ。


 やれやれ困った娘達だよ・・・・。


 事務所のドアを開けると奥の方で宝城キルトが自分専用の椅子にどっしりと座って待っていた。


 部屋の手前のソファーには臣、彗夏、伊莉愛の三人が座っている、臣はたった今まで遊んでいたケータイゲームをテーブルに置き社長にみんな集まったと伝える、社長が席を立ち俺達の前に来た。



 「今日は君達に伝えることがある」



 四人に緊張が走る、事務所の危機、プリフォーの解散の話をするのかもしれないと内心思っていたが180度違った。


 社長は口ひげの先をちょいちょいと引っ張った後で持っていた扇子をバッと広げ甲高い声でこういった。


 「近々新曲、サードシングルを出すぞ!」


 皆

 「え~っ!」

 と驚きで声を出す。


 俺も違った意味で 

 「え~っ!」

 と声が出る。



 四人が驚くのも無理はない、デビュー曲、二曲目と売れ行きが悪いので三枚目は無いと思っていたからだ、少なくてもこんなに早く出すとは考えていなかったはずだ。


 正直内は出来たばかりの弱小事務所、CDもメジャーではなくインディーズ販売だし知名度もいまいちだ、もっとメディアの力を使えば違うんだろうけど・・・・。


 そういったこともあり四人とも浮かれている様には見えなかった、むしろ表情は沈んでいる、ただ一人リーダーの須賀彗夏すがすいかだけは力強い目つきをしているように見えた。


 社長の話はそれだけで今日の所は解散となった、皆何か言いたそうな様子だったが今後について社長と二人で話があると伝えると、今から四人で会議をするから五号室を使うと言い出したので小遣いやってファミレスにでも行くように背中を押した、やたらと臣がブーブー言ってたが・・。


 俺の部屋を荒らされたくはないのでね、わかるだろ、女の子には見られたくないものもあるんだよ。


 四人が轟和荘とどろきわそうを出たのを確認し、社長の真意を確かめる。


 「赤字続きの状態で新曲出すって何考えているんですか?」

社長は鋭い目つきをして力強く言い返してくる。


 「それだからなのだよ! 今出さなくては2枚のシングルは腐ってしまう、新曲が売れれば一緒に売れる! いや売らなければならない!」


 俺は反論する

 「今あるCDの在庫を無くしてからの方がいいと思いますよ」


 「それではせっかくの勢いが失速してしまう、やるなら今だ!」



 ・・・・この人こうなると言うこと聞かないからな・・・・。



 両目をつぶり腕組みしていると社長は静かに、でも力強くこう告げた。



 「千個の環ちゃん人形を完売した時の大変さを思い出せば今回の事なんて大したことなかろう」



 このセリフを聞いて4年前、18歳の時生きる気力をなくしていた時に社長、宝城キルトとの出会いを思い出した。




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 雨木川還流あまぎかわかえる18歳、宝城ほうじょうキルト30歳、宝城ほうじょうリル18歳、今から4年前の話である。


 俺の彼女水ノ森環みずのもりたまき18歳、高校3年生の時に子供が川で溺れていたのを助けるために飛び込み流されて亡くなった、幸い子供は助けることが出来たが彼女は溺れてしまったというわけだ。


 俺と彼女は生まれた日、病院が同じで隣同士のベッドで寝かされていた、家も近くて小、中学生迄一緒の学校に登校していた、いわゆる幼馴染ってやつだ。


 そばにいて当たり前という存在だったので突然目の前からいなくなったときは世界が真っ暗闇に包まれた、一緒に入る予定だった大学は入学を取り止めた、俺は生る気力を失っていたのだ。


 高校卒業後、彼女の死を受け入れることが出来ず目的なく毎日ダラダラ生きていた、ただ生きるだけの日が数日続いたときブラブラ街を歩いていたら大道芸やフリーマーケット等やっているイベント広場にいた、別に目的があって来たわけでなく気付いたらそこにいた感じだ、手品や似顔絵描き、バルーンアートなどしている人たちの中でやたら目立つ格好の人物に目が行った、ピンク色の頭に真っ赤な衣装、目元が隠れる金の仮面を着け腹話術をしている、腹話術人形は死神? なのかちょっと不気味な感じだが親子連れ等ギャラリーは多く凄く賑わっていた、腹話術師は小柄で声は高く女の子なのかと思いきや人形の方はドスがきいたような声で男じゃないと出せないような声だ、周りで見ている観客たちと一緒に興味深く見ていると腹話術師の動きがピタッと止まり俺を見る。



 数秒目が合った気がしたが再び腹話術師はパフォーマンスを続ける、ショーが終わり多くの子供たちの拍手喝采、腹話術師の前にはおひねりと書かれた箱が置いてあり次々とお金が入れられていく、俺もタダ見は申し訳ないと感じてポケットにあった百円をおひねり箱に入れてその場を去る、すると後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。



 「還流君、雨木川還流君じゃない?」



 振り返ると先ほどの金仮面の腹話術師が声をかけてきた、腹話術師は仮面を取ると、


 「僕だよ、僕、宝城ほうじょうリル、小学校の時一緒だった宝城リルだよ!」


 一瞬にして思い出した、小学校の頃一緒のクラスで良く遊んだ宝城リルだ!



 懐かしさで胸がいっぱいになった、なにせリルとは俺だけでなく環ちゃんとも一緒に遊んだこともある仲だからだ、楽しかったことが一気に思い出されて、そして環ちゃんの事も思い出し涙がとめどなくあふれてきた、リルは戸惑う、それでも気にせず泣いた・・・・。

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