彼女たちをトップアイドルに育てるのが俺が生まれた大きな理由の一つだったりするわけであり。

てたまろ

第1話 俺は敏腕マネージャーになれるのか?

 「還流かえるよ、事務所をたたまなければならないかもかも」



 物語が始まっていきなり大ピンチを迎えるわけであり・・・・。 



 俺の名前は雨木川還流あまぎかわかえる、22歳、独身、彼女無し、安月給で働いている、しかも超ブラックだ・・・・。



 職業はアイドルグループのマネージャー兼世話係、事務所は、2階建アパートの一階の隅にある部屋、ちなみに管理人室を入れて9部屋しかない、隣の部屋に行くのも廊下を渡って行くという今時珍しい作りの建物になっている。



 何でも漫画家の神様やレジェンド達が住んでいたというト〇ワ壮? とか言うアパートと同じ作りになっている、あっ、でも風呂とトイレは各部屋に付いているし築5年と全然綺麗なアパートではあるけどな。



 このアパート轟和荘とどろきわそうは事務所の社長が持ち主なので無料で住まわせてもらっている、その点は有難い、ちなみに2階に上がって直ぐ正面の5号室、6畳一間が俺の部屋だ、机の上にノートパソコン、本棚、趣味で引いてるホークギター、生活に必要な家電が有る、基本物を持たないのでそこそこ広く使わせてもらっている。



 自室にこもって今日のスケジュール確認をしていると社長からのメール音鳴る。




 『来たれ我が事務所に!』




 何が我が事務所だよ、1階の管理人室じゃないか、そう思いながら下に降りていく。




 コンコン、




 「社長、入りますよ」




 ドアを開けると部屋全体に金の配色が多く、妙なオブジェが飾ってあったりと一見ゴージャスに見える、このアパートの外観にそぐわない一室だ、管理人室兼事務所は12畳あって結構広い、部屋の奥に座っているのが社長の宝城ほうじょうキルトだ。



 女性のようなロングのストレートヘアー、しかも金髪、チャップリンの様な口ひげを生やし黒いスーツを着用、身長185㎝と長身でスリムな体系だ、一見モデルのようでかっこいい容姿なのだが・・・・。




 社長は俺の目を見ながら珍しく真剣な顔でこう言った。




 「還流かえるよ、事務所をたたまなければならないかもかも・・・・」




 いきなりの倒産宣言!




 マジかと思いながら冷静になって考えた、退職金なぞ出るわけもないよな、事務所をスタートしたのが五年前、俺と社長と社長の弟で俺の友人でもある宝城リルの三人で始め、その後四人の女の子が加わりグループでCDデビューをさせたのだが、そんなに甘くはなかったというわけだ。




 倒産寸前の原因はCDが思ったより売れずそれにかかった製作費が問題とのこと、実はシングル二枚出したのだが不発で終わったデビュー曲の挽回のために出したセカンドシングルも思ったより売れなかったのが大赤字を招いたようだ。




 社長と話し、会社の危機に関しては、これから事務所に集まることになっている四人組女の子グループ、プリミアムフォーには内緒にしておくことにした。




 ちなみにプリミアムフォーという名は社長が命名、プリティー(可愛い)とプレミアム(貴重)をドッキングさせてプリミアムとの事だ、四人いるのでプリミアムの後ろにフォーを付けてプリミアムフォーと名づけている。




 今後はプリフォーと呼ばせてもらう。




 ここ数年、我が事務所は不運続きだ、社長の弟のリルが番組の顔の『教えてリル先生♡』が終了したのが大きかった。




 このTV番組は事務所にとって大きな収入の柱でもあった、3年間続いて視聴率も良く、4年目も当然のように続くと思っていたのだが突然の打ち切り、正直マネージャーである俺は納得できずに抗議したのだが話が通じずやむなく終わることとなった。






 その番組にプリフォーの一人であり最年少かつ一番最初に事務所入りした王城臣おうぎおみも出演しており視聴者からも壮大な支持を得ていた、特に同世代、十代からの支持は圧倒的なものがあった、それだけに番組終了は惜しいし臣の人気があるのにCDが売れなかったのも大きな痛手だったのだ。




 どのようなバラエティー番組だったかというとひとつの教室に18人の生徒がいて、小学一年生~六年生(各三名)迄の子供たちに道徳的な授業をする番組で、メインは子供たちの悩み相談を聞く形だ。




 真剣な話から笑いがあったり時には子供たちの意見が衝突して喧嘩になったり、(ハプニングがある方がテレビ的には良いようだが)同世代だけでなく大人が見ても考えさせられる番組でもあった。




 また教師役の宝城リルが男でありながらそこらのアイドル顔負けの可愛い容姿、さらに腹話術という特技で授業をするのも大きな見どころになっていた。




 その中で臣は二、三年生の二年間出演し活躍していた、ひいき目でなくても高学年の子供たちもいる中18名中一番目立っていた存在だったと思う。




 最初の頃、目立つ臣に意地悪をする子達がいたが後に打ち解けて一緒に番組を盛り上げたり、高学年と低学年の意見が衝突した際は間に入りお互い納得する形で番組を成立させたり、とにかくエネルギッシュで明るい性格でクラスメイトやその両親、スタッフ達にも好かれていた。




 リルや臣が在籍する事務所のマネージャーとしては会社を大きくしていくことが喜びでもあった。




 この番組が終わって、リルはテレビの露出は大きく減ったがイベントを中心に活動しているし、臣は「教えてリル先生♡」の二年間の活躍で舞台出演が決まったり、ティーン雑誌等でちょくちょく活動している。




 社長から会社の状況を聞いた後、自室で今後の活動について考えているとノックもなしにドアをガチャっと開ける音が聞こえた。




 「かえる~、遊ぼう~!」




 元気のいい声で俺に飛びかかってきた、この娘が先ほど紹介した王城臣おうぎおみ、現在小学5年生だ。





 「いい加減ノックすること覚えなさい!」

 「面白いゲーム借りたの、一緒にやろう!」




 本当にいつも人の話を聞かないやつだ、




 「学校終わったら先ず家に帰れと言ってるだろう」




 臣はまたかっていう顔をして、




 「だ~か~ら~帰りがけに事務所あるからいいの!」





 毎回毎回同じことを言わせるなという感じで返事をする、ここは相手をしてやらないとうるさいのでしぶしぶ遊んでやることにした、二人で協力していく携帯パズルゲームで単純だが奥深い、ゲーム中に臣に最近の芸能活動はどうかと聞いてみる、(タレントの話を聞いてやるのも仕事の一つなのだ)




 「仕事は楽しいよ、でも昔ほどは楽しめてないかも・・・・」




 意外な返事だった、いつも笑顔で楽しそうにしているからだ。




 「昔程ってリルと番組持っていた時ほどってことか?」





 「うん、それ!教えてリル先生はとっても楽しかった!!あんな番組またやりたいよ」





 顔をやたら近づけて目をキラキラしながら言ってくる、近い近いと俺は臣を遠ざける。




 「確かにあの番組は楽しかったな、また違う形でやって欲しいな」




 俺は素直にそういった。





 「リル先生が終わった後直ぐ舞台出演の話が来たんだったな」




 少女はゲーム画面を見ながらうんと頷く。




 「そのころに心お姉ちゃんが事務所入ったんだよね?」




 心お姉ちゃんというのはプリフォーの一人で、許斐心このみこころ16才、現在高校1年生の事である。






 「かえるってさぁ、心お姉ちゃんを初めて見たときポーっとして見惚れていたよね~」





 「はぁ? 何バカなこと言ってんだ、初めてあった時って心が中学生の時だぞ中坊相手に何故ときめかなきゃいかん」





 臣がジト目で俺を見る、そうこんな目だ(-_-)少女はそのままの目でぼそぼそと呟いた。



 「リル先生に聞いたらなんとなく理解はしたけど・・・・」




 「ん? 今なんて言った? リルが何て言ったって!?」





 臣はヤバって顔になり何も言ってませーんっと言いながらゲームをほっぽり出して部屋を出て行った。




 あのガキ来るときもだけど帰る時も騒々しいな・・・・。





 ・・・・一つ言っておくけど俺はロリコンではないぞ、ましてやJCやJKなぞ興味もないね、女は同じ年か年上しか興味はない! 断じてだ! 以上!





 何故かそう呟かずにはいられなかった、するとドアの方からコンコンとノックする音が響いた。




 「どうぞー、空いてるよ」




 ドアの向こうから綺麗というよりは可愛いという言葉が似合う美少女が部屋に入ってくる。




 「失礼します」




 「おう、どうした」




 「・・実は・・・・」




 この何か言いたそうにしている娘が先ほど話の出た許斐心このみこころである。




 「えーと・・っあ、この前の舞台の感想聞かせて頂けますか?」




 なんとなく言いたいこととは違うような気がしたのだが話を合わせてやることにした、




 それから5分程度話しをし、落ち着いたところで本当は何を言いたいのかをそれとなく聞き出してみる。





 「私、歌は向いてないと思うんです・・・・」





 うつむきながらか細い声でそう言った、俺はそうか・・・・というだけで特に何も言わなかった、心は顔を上げ俺の眼を見て今度は力強く、




 「お芝居だけをさせて頂けませんか!」




 そう訴えてくる、さらに続けて、




 「自分はアイドル・・・・臣ちゃんの様に愛想よくふるまったりするのは苦手なんです、他の二人と違ってダンスも下手だし・・・・」




 真剣な眼差しの美少女の顔をまじまじと見ながらふと思う、アイドルに向いてないかなぁ・・・・。





 「俺から見ると四人の中で一番アイドル顔っていうか可愛い顔してると思うけどなぁ」




ボソッとつぶやいた。





心は『えっ!』って顔で俺を見る。





 「~~あ~あ~~いやいやプリフォーはみんな可愛いと思うぞ、心はアイドルとしてやっていけると充分思っているけどなぁ」






 「・・・・・・」






 美少女はセリフの続きを待っているようだったので、





 「お芝居も良いがアイドル活動も芝居の勉強につながると思うぞ、なんでも勉強だと思ってやってみるのも良いんじゃないのか?」





 そういうとしばらくうつむいていたがやがてスッと顔を上げて、





 「ありがとうございます、そうですね、アドバイスありがとうございます」





 そう返事をする心の表情は部屋に入ってきた時に比べるとずいぶん明るくなったように見える。(タレントの話を聞いてやるのも仕事の一つなのだ)





 許斐心このみこころが事務所に入ったいきさつはこうだ。





 リルと臣が出演していた『教えてリル先生♡』の番組終了後、臣のキャラクターを気に入ってくれていたディレクターが今度する舞台で臣にぴったりの役があるから使いたいとの事で出演依頼をしてきた、臣も芝居に興味があったようなので初の舞台出演が決まった、舞台初日、臣のお姉さん役の子が事故に合い骨折したことで芝居が出来ず降板することになった。




 代役はどうするか、臣の初舞台を見に来ていた心を見て臣が監督にお願いして心を使って欲しいと訴えたのだ、心は当然の様に断ったのだが臣が。




 「出演シーンも少なく長セリフがあるわけではないので心お姉ちゃん出て! お願い!」




 と半ば強引に連れ出し何とか舞台を成功させる。




 心は臣の近所に住んでいて小さい時から姉妹のような関係だったこともあり姉役を自然にこなした。




 監督も代役とは思えない位素晴らしい演技だったと、称賛していた。




 舞台は隔週日曜で3か月間(全6回)続くとのことで監督の要望で心が臣の姉役として全ての日程に参加することになった。




 その間の3か月はうちの事務所に仮に入って活動することになった、心も最初の頃は戸惑いもあったようだが演技力もすごい勢いで上達し千秋楽せんしゅうらくには出番やセリフも多くなり次回作も出てくれないかと声をかけて頂くまでになっていた。





 「心は演技好きだよな、上達の速度を見るとよくわかるよ」




 俺はそう伝えると美少女は、はにかんだように頬をかく、照れながら




 「私が事務所に正式に入った時に言ったこと覚えています?」




 「確か舞台をやり遂げてもっと続けたいってことで入ったんだよな?」




 「そうです、受験生でしたが推薦で高校入学出来そうでしたし高校に入ったら部活は何しようか考えていたので、こちらの方が楽しそうなのでお世話になることに決めました」




 あれから一年も経ったんだなと思った、




 「で、私が事務所に正式に入った時に言ったこと覚えています?」




 心はしつこく聞いてくる、正直何を言っていたかなんて覚えていない、ヒントを要求した。




 正面に座る美少女はむっとした顔をして、社長やリルさん、還流さんの印象を言いました! との事だ。




 何となく思い出した。




 「確か社長は変な人、リルは女の子みたいとかじゃなかったっけ?」




 心はコホンと咳払いしながら、





 「社長の事は、変わってる人だけど面白い人ですね、リルさんの事はその容姿といい美声といいホントに男性ですか? と言いました」 





 そうそう、そんなんだった、と俺は言う。




 で還流さんのことは何て言ったか覚えてます? と詰問してくる。




 う~ん、考えても出てこないので適当に、




 「かっこいいとか」

 「言ってません!」




 うおっっセリフかぶせてきたよ。






 「私、真剣に聞いているんですよ、事務所に入った・・・・おおきな理由の一つでも・・・・あるんですから・・・・」




 そういう心の眼は真剣だった、俺は頭をボリボリかきながら、


 「頼りがいがあるとかそんなんだっけ?」




 心はため息をついて、




 「本当に覚えていないんですね」




 先ほどの臣のようなジト目で俺を見る(-_-)←こんな目だ。




 還流さんの事は、




 「臣ちゃんがワガママ言うのってマネージャーさんだけですよ、それだけ信頼されてる証拠ですと言いました!」






 あ~そうっだたな! という顔をして見せた。




 美少女は真剣な顔で


 「今では・・・私も還流さんの事信頼していますよ」





 ありがとよって答えるが何故か不満そうな顔だ、軽い返事のしかたがまずかったのかなと思っていると。





 「私じゃ代わりになりませんか?」





 聞き耳経ててないと聞こえないような声で言ってきた。





 代わりって? と返事をしようとしたらいきなりガンガンガンとドアを叩く音がして返事をする前にドアがガチャリと開いた。




 「おーす、マネージャー来たよー!」




 「お邪魔します~」




 元気よく入ってきたのはプリフォーの須賀彗夏すがすいか出雲伊莉愛いずもいりあの二人だった。




 「彗夏すいか!お前いい加減俺の返事を待ってからドアを開けろと言ってるのがわからないのか!」




 この158㎝の小柄な身長から出るとは思えない大きな声を出す、ショートカットの似合う娘がプリフォーのリーダーでもある須賀彗夏すがすいか 、高校2年生である。




 「心ちゃん来てたんだ、この前の舞台すごく良かった~」




 「ありがとう、伊莉愛いりあさん」




 そしてこの身長が170㎝以上の長身でおっとりとした口調の娘は出雲伊莉愛いずもいりあ、長身からのダイナミックなダンスはプリフォーの中で一番目立っている。




 彗夏が自信たっぷりに、




 「伊莉愛と二人で新しいダンスの振り付けを考えたんだ! 次出す歌で使えないか見て欲しいんです」




 元気よくそう言うと、隣にいる伊莉愛も自信のある顔をしている。





 二人は同じ中学でチアガール部の部長と副部長をしていたこともありとても仲がいい、高校は別々だが中学卒業後も二人でストリートダンスをしていて動画を撮ってはSNSにアップをしていたくらいだ。





 そんな二人と出会ったのは公園で臣と心の写真や動画を撮影している時だった、何組かダンスを踊っている男女がいる中で身長差のある二人の女の子のダンスに目が留まった。




 ショートカットの女の子の動きは細かく素早くとにかくかっこいい、ポニーテールの女の子はほどくと腰までありそうなロングヘアー、細身で長身を活かしたダイナミックな動き、俺たちだけでなく多くの人が二人のダンスに釘付けになっていた、ダンス終了後多くの拍手があり中にはチップを渡している観客もいた、それはただダンスが良かっただけでなく二人の容姿が光るものがあるのも大きかっただろう。




 俺たちの撮影もひと段落したので休憩していたら先ほど踊っていた二人の声が聞こえてきた。




 「どうしよう、デジカメ壊れてるよ、今日中にアップするってブログに書いたのに・・・・」




 「今からではどうしようもできないね、動画楽しみにしてくれている人に謝るしかないのかな~」




 何やら困っているようだったので休憩の間、二人にカメラを使うか聞いてみた。




 普段二人が使っているデジカメと違い本格的なビデオカメラだったので、ショートカットの女の子とポニーテールの女の子は興奮しありがたく使わせて頂きますと喜んだ。




 ビデオカメラの使い方がいまいちわからないようだったので俺が撮影してあげることになった、臣と心も二人のダンスを間近で見ることが出来て嬉しそうだったので良かったよ。





 この時おみ小学4年生、こころ中学3年生、彗夏すいか伊莉愛いりあは高校1年生である。




 後にトップアイドルとして活躍するプリミアムフォーの四人がそろった日でもあった。

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