ヴァルコローゼ①
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熱い湯に浸かりすっかり身嗜みを整えた俺は、リリティアが風呂に入っているあいだに予定を立てることにした。アルシュレイのこともあるし、早くなんとかしないとな。
ちなみに、先に入るか聞いたら拒んだのはリリティアだ。
自分の浸かった湯を使われるのが嫌だと主張してきたからだけど……そんなこと言われたら俺は新しい湯を張っておくしかないじゃないか……。
なんとなく腑に落ちない。
『リヒト! 今日の予定は決まったか?』
すると、洗面所のほうから声がした。
なにとは言わないけど水音もして、なんというか……ちょっとそわそわするんだけどなぁ。
俺はぶんぶんと頭を振って「はぁ」とため息を付いた。違う、いまは今日の予定――予定だ。
……俺たち王子は十八歳まで授業が組まれているんだけど、以降は王都や地方の町の状況とその運営についてを学ぶ。
これは時間が決められているわけではなく、各々が深く学ぶ分野を決め、専門の『師』のもとで課題を熟したりするんだ。
その年齢になってくると、自ずと向かう先が見えてくるしな。
勿論――というのかは俺にはわからないけど――『師』は何人持っていてもよく、アルシュレイやメルセデスにはたくさんの『師』が付いていたりする。
ただ皆がバラバラすぎても困るため、週に一度は王子たちが情報交換のために集まる時間があり――それが今日だった。
「今日は夜に王子の食事会だから……それまでは――リリティア、少し書庫に行ってみないか? なにか手掛かりが見つけられるかも」
『ほう、名案だな。私が眠っていた数百年の歴史も学べよう。……それにしても、王子が襲われたと聞いて王はなにをしている? 顔すら見にこないつもりか』
「当然だよ。王は忙しくて俺たちも殆ど会ったことがないから。アルがいなくなった――いまはそれだけだし。はっきりとわからない状況なら、筆頭侍女長のユーリィが動いてくれる」
『……ふむ。数百年もすればそこまで変わることもあるのか? ……腑に落ちないがまあいい。――たしか書庫はふたつあったな』
そこでまたもや水音。俺は知らず唇を引き結びながら、上着を羽織る。
「……残念だけど、俺が知っている書庫はひとつしか……いや、待てよ」
俺は少し考えて――口にした。
「リリティア。その書庫、どの花弁にある?」
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「湯浴みはいいな、先日までは大浴場だった……ふふ、ひとり専用というのも悪くない」
頬をほんのり赤らめて上機嫌で出てきたリリティアは、袖のない白いドレスに紅色のケープ姿のままだ。替えがないから当然だけど……かといって俺じゃ用意できる気がしないな……。
彼女は眉間に皺を寄せている俺を見て首を傾げた。
「なんだ、変な顔をして」
「あ、すまない……リリティアも着替えたいだろうけど、服の替えをどうやったら用意できるかなって思って。……俺の服ってわけにもいかないよな」
「ああ、それなら衣装部屋の場所を教えてもらえるか? そこから使っていない服を貸りるのであれば問題なかろう。ふふ、けれど気遣いは嬉しい。感謝するリヒト」
リリティアはふわりと笑顔を浮かべ、さらりと言ってのける。
……なるほど。見えないなら入ることもできるし、最悪は地下の通路を使えばいいもんな。
そう思いつつ、俺は口元を右腕でゴシゴシと擦った。
「……どうした?」
「あ、いや……」
笑顔で嬉しいとか言われたらそわそわする。頬が緩んでいるのがバレるのは癪だった。
「と、とりあえず第四片の書庫に行こう」
俺が言うと、彼女は不思議そうに首を傾げてから応えた。
「そうだな。……まさか入口が開かずの扉になっているとは予想外だった。余程隠したい本でもあるのだろう。よく気が付いたなリヒト!」
「――アルがよく言っていたからな、開かずの扉の話」
あの扉の内側には見られたくないものが隠されているんだ……禁忌や神世の秘密かもしれない! なんて話を何十回も聞かされていたら嫌でも思い付くよな。
部屋の前にいる騎士には「腹が膨れて眠くなったから休む」と伝え、扉に鍵を掛けてダガーを装備した俺は、懐から鍵を取り出して姿鏡の白い薔薇に差し込んだ。
「……待ってろよ、アル。すぐに解決方法を見つけるからな」
右半身に濃い紫色の『
……『首謀者』もここを使って移動しているのかもしれない。
そいつは呪いのことをどれだけ知っているんだろう。
もし呪いが溢れたらこの国は終わりだと知っていたなら、どうしてリリティアの胸を穿っていた『黒いダガー』を抜いたんだろう。
わからないことだらけだけど、はっきりしているのはこのままじゃまずいってことだ。
「案ずるなリヒト。私もいろいろと考えている」
顔にでも出ていたのかもしれない。
ポツポツと灯っていく松明に照らされ、笑みを浮かべてそう言ったリリティアの影が躍る。
俺は頼もしい
「うん。なんとかなるよな、きっと!」
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