Programed Human Engine

黒井真(くろいまこと)

Programed Human Engine

――朝。


//今日一日を乗り切るための、メンタル調整

public Class SelfEnlightenment extends Society{

  //コンストラクタ

  public SelfEnlightenment () {

  ………………

}


――出社。


//仕事開始

public Class Work extends Society{

  //コンストラクタ

   public Work() {

      //インスタンスの生成

      Productivity pr = new Productivity();

      ………………

}


――勤務終了。余暇。


public Class Chill extends Society{

  //コンストラクタ

  public Leisure() {

      //インスタンスの生成

      SocialNetworkService sns= new SocialNetworkService();

      //SNSチェック

      System.out.println(sns);

      ………………

}


――深夜。


 NullPointerExceptionぬるぽエラーが返ってきた。


 感情バイアスや環境ノイズを排除し、合理的かつ整合性のとれた思考を可能にするために、自分自身の思考や意思決定過程を、自覚的に監視するためのたシステム――それが意思決定統合監視システムIntegrated Surveillance System。個人の思考の可視化と管理のために導入された、脳の機能拡張アップグレード


 このsystemが導入されてから、たしかに思考がすっきりできるようになった。犯罪が減って社会は安定し、数々の技術革新がもたらされた。が、更新に伴う不具合デグレードが多い。特に真夜中。Society Classに。


 Society Classは、常識や社会規範など、社会人としての基本を形作る、基本のPublicクラスだ。ほとんどのクラスに継承される、まさにパブリックなクラス。だからエラーが起きたとき、その影響は大きい。

 そのため、Society Classのメンテナンス――DBのバッチ処理やウィルス対策、その他細かなシステムの変更――は、世の多くの人が寝静まり、夢の中に入り込む深夜に更新される。


 私はカーテンを開いて、外の様子を見てみる。今の時間、起きている人はどれくらいいるのだろう。


 窓の向こうに見えるマンションやアパートの、いくつかの窓に明かりが灯くのが見えた。


 隣室か、階下から、物音がし始めた。声が聞こえる。かなり大きな声だ。


 ざわざわとした不安が沸き起こる。


 もしも、このsystemが壊れたらどうなるのだろう。プログラムにより、普段は押さえつけられている人々の不安、懐疑、欲望などのあらゆるネガティブな感情が暴走するのではないか。


 耳鳴りがし始めた。不安で手の平が汗ばんでくる。イライラ感が募る。普段はあまり飲まない酒に手が伸びる。


 私たちは、恐怖と紙一重の、つかの間の理想郷ユートピアを生きているのではないか。自分達が作りあげた、不完全なsystemに、全面的に依存して。


 何かを壊し、叫び、暴れたい衝動が沸き起こる。


 外で誰かが叫んでいる。言い争う声も重なる。


 バタバタと走る物音。


 ドアのすぐそばでドタン! という物音がした。私は台所に行き、包丁を手にとる。






 突然、全てがクリアになった。

 おそらく、システムが正常に戻ったのだろう。

 私は包丁を元に戻した。


 考えたところで、どうしようもない。もはや、世界は、人類はこの体制システムに慣れ切ってしまった。それを変えるコストを考えると、考えることすら無駄というものだ。


 私はカーテンを閉め、布団に潜り込んだ。

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Programed Human Engine 黒井真(くろいまこと) @kakuyomist

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