第2章 その3

 放課後。

 家庭科室には準英が、理科室には寿が決戦に備えての仕込みをし始めた。これを許す教師陣も生徒会もどうかしているとしか言いようがない。

 羅を一応引き連れて様子を見に行くことにした。

 家庭科室には、さすが呪術家として街の安寧を護衛している一家の娘ともあって、どこから仕入れて来たのか、豪華な食材が机に並んでいた。

「ゴマは美容にもいい。それを謳えば女子達は必ずなびくはず」

 すり鉢でみずから胡麻を擦っている女帝は、将来サプリメントでも販売するつもりではなかろうな。

「今後は私のことを御政所と呼びなさい、篁。ほら、見るといい、この豚肉。オーガニック飼料で育てられた豚よ。香り、柔らかさ、そして味の深みどれをとっても最高だわ」

 ゴマダレには豚肉。冷しゃぶでも定番だから、それを具材にしようとしているらしい。他にはキュウリ、ネギ、トマトがある。ああまで言ってはいたが、そうおかしなものを作ろうとしているわけではなさそうだ。てか、御政所って。ゴマと政所を足して二で割るなんて。

「ん? 小麦粉? 準さん、もしかして自家製麺にするんですか?」

 ボウルに白色の粉を入れていたので聞くと、

「もちろんよ。そして、これを混ぜ込むのよ」

 自信満々気に一本の小瓶を見せつけた。隠し調味料か、またはハーブ的なものなのだろう。自家製麺+練り込む食材なんてグルメ漫画ではよく見るシーンだ。

「××が〇〇〇する時に分泌する××××を採取して加工した秘薬よ。秘術の時にも使うからきっと効果満点だわ」

 自信満々の顔をよく見れば、瞳孔が完全に開いていた。秘術に使うものを大衆に隠し味として提供することを思いつく呪術師……ヤバい。

「まあ、それはほどほどにしておいた方がいいんじゃないですか? じゃ、俺はこれで」

 完全否定をしてしまえば、「まずは篁から試食してごらんなさい」などと言いかねない。まずは逃げるにしかずだ。

「御主人、あの粉はヤバいぞ。あの呪術師止めた方がいい」

 分かってる、分かっているとも狼よ。でも他に確認しなければならないこともあるのだ。呪術師がこうならば、死神が何をしているのか不安で仕方ない。

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