第2章 その2

 この一連の流れの延長線上で、準と寿との攻防に羅参戦が熾烈を帯び、窮すると翳教諭を頼らざるをない状況が続き、学校に用具やら資材やらを卸し、修繕をしている会社はさぞかし儲かったであろうくらいの破損と修復が繰り返された、丁々発止の二週間を経て、衣替えをして制服がすっかり夏らしさとなった初日の食堂で新たなる火種が勃発したのだった。

 ランチを摂る寿の前にあり、準英の前にないもの。それは。冷やし中華だった。

「どうして! どうしてゴマダレがないの!」

 うなだれ、絶叫した準の前で、

「ゴマダレなんて食ってるから、無駄な脂肪がつくんだ」

 寿が言えば、

「そんな酸っぱい麺なんて食べているから、胸も酸っぱい感じになっているのでしょうが!」

 もう無残な罵り合いが繰り広げられ、これ以上進めば確実に食堂が破壊される戦闘が始まりそうだったので、俺が仲裁に出てみればの準の宣戦布告になったのである。冷やし中華戦争。略して冷戦ということか。もうすぐ夏なのに寒い。 

 全生徒らが取り乱すこともないのは、準家の威光と寿を死神と知らないからであり、俺を巡る三角関係の拡大版くらいにしか受け取っていない。とっとと逃避した方がいいのに。

「準さん、落ち着いて。寿もとっととどっか行っちまえよ」

「では、どちらが冷やし中華にふさわしいか、決着をつけましょう。三日後の正午、この食堂にてどちらが生徒諸氏に多く食されるかで既存のただ酸っぱいだけの冷やし中華を存続させるか、ゴマダレの冷やし中華をメニューとして提供するか決めましょう」

「伝統文化を蔑にする呪術家など聞いたことがない。その浅はかさを思い知らせてやる」

 どっちも俺の話など馬耳東風なわけだ。

「「誰が馬だ!」」

 えらい形相で睨まれた。それにたかが冷やし中華の味でそんな大事なことにせんでも家で自分の好きなスープで食ってりゃいい。

「篁は黙って言うことを聞け」「タカムラは黙って言うことを聞け」

 火に油を注いだようだ。さりとてテーブルにはラー油しかないのだが、この炎天下やっちゃいけないことをしたのは、

「御主人、口を滑らせる癖、直した方がいいぞ」

 化ける能力を失い、俺の血でその能力を取り戻そうと狙っている狼の諫言を余すところなく聞き入れざるを得なかった。

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