第368話 冬

 秋の風物詩を堪能した俺達は秋エリアの家で一泊した後、冬エリアへ。


「雪だぁ!!」

「雪~!!」


 寒いので冬エリアの家から山まで船で移動して着陸した。


 俺たちが普段住んでいるあたりにはあまり雪が降らないようにしていたので、誰も足を踏みいれていないまっさらな状態の雪がもっさりと積もっている。


 子供たちもこれほどの積もった状態の雪は初めてなので、船から降りる前の一面の外の白い景色を見てとてもはしゃいでいた。


「いっちばーん!!」

「あぁ~!!ずっるーい!!」

「私も!!」

「僕も!!」


 扉が開いた途端、キースが飛び出し、それをほかの子たちが追う。


「あ、お前らちょっと待て!!そのまま飛び出したら……」


 俺はまさかすぐに飛び出すとは思っておらず、飛び出していった子供たちに声をかけたが、時すでに遅し。


 子供たちはすでに外に出てしまった。


―スボッ


「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「ふぇ!?」

「のわぁ!?」


 案の定子供たちは外に出るなり雪に下半身が埋まってしまった。


「はぁ……だから言わんこっちゃない」


 俺はため息を吐いて首を横に振った。


 ここは新雪が積もり積もった雪原。誰も足を踏み入れていないということは雪も固まっていないということ。


 だから、そんなところに思いきり飛び出していったら、そりゃあ足がズボッとはまってしまうのは当然だよな。


 俺は子供たちを魔法で浮かせると、足の下にインフィレーネを数枚合わせてかんじきのように張り付かせた。


「わぁ~、これ沈まなーい!!」

「ほんとだぁ!!おもしろーい!!」

「ふしぎ~!!」

「くそっ!!俺はこんなのに頼らなくたって!!」


 子供たちは自分を軽く四股を踏むように体重をかけてみるが雪に深く沈むことはない。


 キースは何とかしてインフィレーネを外そうとするが、それは俺が外そうと思わなければ、外れないぞ?


「面白い履物?ね」

「かんじきっていうんだ。こういう場所で生きてきた人間が考えた知恵みたいなものだな」


 リンネが興味深そうに子供たちの姿を見ているので軽く説明してやる。


「うむ。確か水の上を歩行する際に似たような仕組みのものを履くな」

「原理的には似ているはずだ。地面に触れる面積を増やすことで体重の圧力を分散して沈みにくくするわけだな」

「へぇ~、なるほどね」


 カエデがやはりというべきか忍者道具の一つとして水蜘蛛があげられるが一応原理は似ているはずだ。もちろんあれだけで水上を歩行することは地球では無理なのだが、この世界の身体能力やスキル、魔法があればなんとでもできる気がする。


「とりあえず、少しだけ歩くぞぉ」

『了解』


 俺はみんなを連れて数分程歩いてとある場所に導いた。


「ここは?」

「スキー場ってやつだな」

「あっ。それはアニメで見たことがあるから知ってるわ。足に板を付けて坂を滑り降りるのよね」

「ぬっ。それはなかなか興味深そうだな」

「ああ。ハマる人は滅茶苦茶ハマるな。あいにく俺はそんなに行ったことがないけどな」


 そう。スキー場だ。やっぱり冬といえばスキーとかスノボーはしたいよな。


 俺はみんなに器具の取り付け方と滑り方を教えてやった。やはり身体能力が高いのと、皆若い―リンネは見た目だけだが―ので、すぐに滑り方を吸収して、あっという間に滑られるようになった。


「わぁーい!!」

「あははははっ!!」

「ひゃっほー!!」

「ひゃっはー!!」


 子供達は滑ってはリフトに乗りを繰り返してひたすらに滑りまくっている。


「ちょっと俺達は別の準備をしよう」

「何をするの?」

「かまくらをつくるのさ」

「かまくら?」

「雪を半球状に固めて、中をくり抜いた、雪で作った簡易的な避難場所みたいなものかな。雪で出来てるのに結構頑丈で、中もそこそこあったかいんだ」

「へぇ〜、面白そうじゃない。分かったわ」


 俺は子供たちが遊んでいる間に次の準備をすることにした。その準備とはカマクラのことだ。


 やはり鎌倉の中で餅を焼いたり、豚汁でも食べてあったまるのがいいよな。


 リンネとカエデも手伝ってくれるようなので、二人に手伝ってもらいながら、かまくらを作り、途中で二人に任せて俺は豚汁も善哉を作った。


「お腹すいたー」

「いいにおーい!!」

「美味しそう!!」

「俺はニクマシマシマシ豚汁で!!」


 匂いにつられてやってきた子供達。獣人だけあって皆鼻がいい。


「よーし、お前らもうちょっと待て。もうすぐかまくらが出来るからな」

「かまくら?」

「あれだ」

「なんか洞窟みたい!!」


 ルーンが不思議そうに尋ねてきたので、俺を指で示してやると、子供たちは料理と同じように目を輝かせた。


「あ、おかえりー。もう出来たわよ」

「うむ。沢山遊んだようだな。お前たちは中に入って雪の座面に座るのだ」

『はぁーい!!』

 

 子供達はすぐにかまくらの中に入って、電車の椅子のようになっている場所に腰をかけた。


 俺は出来たての豚汁の鍋と善哉の鍋と火種を移動させ、さらには個人用に七輪を用意してやる。


「それじゃあ、まずは豚汁でもをたーんと食え」

『いただきまーす!!』


 子供達に豚汁をよそって渡すと、早速食べ始めた。


 それから俺たちはかまくらの中で豚汁をたらふく食べてから、デザートに善哉に入れる餅を各々の七輪で焼いて、渡された餡子の入った器に入れてうまうまと頬張った。


 やっぱりかまくらで食べる冬の味覚はとてつもなく、美味しかった。

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