第369話 しんそうエリア
各季節を堪能した俺たち。それから一カ月程島を順繰りめぐって楽しみまくった。ただ、それだけ満喫すれば当然少し飽きもする。
「ちょっとメサイアの探検でもするか」
「そうね。まだ見ていないエリアもありそうだし、行きましょうか」
俺たちはメサイアに転移した。
『全条件の達成を確認。全エリアが解放されました』
メサイアに到着した途端、中性的で無機質なメッセージが響き渡った。
「今のは何かしら?」
「いや、分からん。バレッタ?」
突然のよくわからないメッセージに俺はバレッタに尋ねる。
「おかえりなさいケンゴ様。そうですね、先ほどのメッセージはこのメサイアのしんそう区画への入場が可能になりました。実は前回案内した時に行かなかった個人的な研究エリアがそれに当たります」
「そうだったのか……それじゃあ、どうしてあの時はそう言わなかったんだ?」
バレッタは当然のように答えるが、それならどうしてあの時という疑問がわいてきた。
「ああ言っておけば、それほど興味を持たれないかと思ったからです」
「はぁ……なるほどな。よく俺のことが分かっている」
「恐縮です」
俺が興味がありそうな場所だと最初から言っておけば、俺なら行かないと踏んだわけか。
俺は行くな言われれば行きたくなるし、やれと言われればやりたくなくなるからな。これは人間だれしもかもしれないが。
その中間くらいの絶妙な説明だった訳だ。
「それじゃあ、実際はどんな区画なんだ?」
「前に言ったようにものすごく個人的な研究の場所ですよ……規模が大きすぎますが」
改めて行けるようになった場所に関する説明を求めるが、前回と説明は変わらなかった。最後のほうが何やらボソリと言っていたが、気のせいだろう。
「そうか」
「どうされますか?」
「そうだな。せっかく行けるようになったのなら行ってみるか」
「わかりました。ご案内します」
バレッタが行くかどうか尋ねられたので、タイミングよく行けるようになったのだから、この機会にその区画に行ってみることにした。
「こちらです」
以前行かなかった、奥まった場所にある扉が開き、バレッタが俺たち案内して進んでいく。
「おっ」
俺たちが中に入るなり、パッパッパッと奥に向かって明かりが点灯する。点灯した廊下には複数の人物の全身の写真とその成長記録のようなものが映像として映し出されている。
「それでなんの研究をしていたのか教えてはもらえないのか?」
「ここでは転生に関する研究が行われていました」
改めて区画内に入った後でバレッタに確認すると、バレッタはここでの研究について語り始める。
「てんせい?」
「はい」
「てんせいってあれか?ラノベとか漫画でよくあるあの転生か?」
「はい。その通りです」
「確かに超古代文明の技術ならそれも可能そうだな」
今までの超古代文明の技術があれば転生も可能だと思わされる。
「そうですね。ただ、私たちの技術のほとんどはリース・イングリド・ネルヴァ博士の発明によるもので、ここよりも発達した技術があるところはありません。彼女だけがその研究にたどり着けた、という技術レベルです。ここ以外の星の文明レベルはせいぜいワープ航行を実現したレベル。リース・イングリド・ネルヴァ博士は技術を千年進めた天才と呼ばれています」
「ということはここは?」
「そうです。メサイアを発明開発したのはリース・イングリド・ネルヴァ博士になります」
「じゃあ前所有者っていうのも?」
「そうですね。リース・イングリド・ネルヴァ博士が前所有者となります」
なるほどなぁ。ロマンあふれる天才である前所有者はリース・イングリド・ネルヴァ博士だったか。
それにしてもすげぇな。ここが技術の最高地点だったんだ。
「それで、博士は転生の研究は完成させたのか?」
「はい、もちろんです。博士に不可能はございません」
どうやら博士は転生に関しても完全に成功させていたようだ。
「とんでもない天才だったんだな」
という感想に尽きる。
「そうですね。本当に天才でした。私たちを生み出したのも博士ですし。私たちレベルで思考し、行動できるアンドロイドは類をみません。ただ、博士は天才過ぎたと言わざるを得ません」
「確かになぁ。これだけのことを自分だけで開発発明してしまったのなら天才中の天才だ」
ただ、それだけの天才であるなら人生に一片の悔いなしって感じで人生を全うしそうなのに、どうして転生なんていう、まるで人生のやり直しを望んでいるようなことの研究をしていたんだろうか。
「そう、まさに天才中の天才であったことが、彼女を転生の研究をさせる理由になったのです」
「どういうことだ?」
天才であることが転生を望んだ理由?
俺にはさっぱり理解できないが、そこにはどんな理由があるのだろうか。
「それは、博士の過去から話す必要があるでしょう。ちょうどこの先に博士の記録が蓄積している部屋があります。そこで少し語りましょう」
リンネは廊下の先の扉を端末を操作して開き、俺たちの方を振り返ってそう告げた。
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