第376話 契約
イナホの言葉に思わずズッコケそうになるが、今はそれどころじゃない。
「イナホ、訳わからないこと言ってないで黙ってろ!!」
「いやだよ!!僕は思い出したんだ使命を!!」
意味不明な事を言うイナホに駆け寄って抱き上げると、イナホはイヤイヤと暴れる。
「だからって、こんな魔力暴走が起こってる時に言うことないだろ!?」
「だからだよ!!僕を装備すれば、あの子の魔力を安定させられる!!」
「え、本当か!?」
「うん!!」
なんとイナホならこの状況をどうにかできるらしい。あ、道理でバレッタはなんだかんだ焦りもしていなかったわけだ。あれはイナホのことを調査した結果、任せても大丈夫だと判断していたということか。
「分かった。あとはユイの判断次第だ」
「う、うん……私はその子を装備する……」
ユイに判断を任せると、彼女はその場に蹲ったまま、顔を上げてなんとか返事をした。
「やったぁ!!」
「喜んでないで、サッサとやってくれ」
「あ、そうだよね!!」
イナホは喜んでその場で小躍りを始めるが、ユイが苦しそうなので先を促す。
「いいなぁ……」
そんな空気の中リンネは指をくわえてユイのことを羨ましそうにしていた。どうやら本当の魔法少女になれるのがどうしようもなく妬ましい様だ。
その辺りは今後、もっと魔道具を改良して本当の魔法少女と遜色ないものを作ってあげることで許してもらおう。こういう感じの魔法契約は無理でも、リリカルな感じの魔法少女なら限りなく近づけるはずだ。まだまだ改良中だからな。
「それじゃあ、いっくっよぉ!!黄昏よりも昏き――」
「ちょっと待て!!それはダメな奴だ!!」
なんか勢いで唱えてはいけない呪文を唱えそうになったイナホを止める俺。いったいどこでそんな呪文を覚えてきたんだ?
まさか故郷が地球ってことはあるまいし。いや、ここが時空の違う並行世界的な感じだから、並行世界の地球ということも考えられるのか。
「あ、ごめーん!!間違えた!!」
「いい加減真面目にしろ!!」
「はーい!!実は呪文とか必要ないんだよね!!」
見た目猫のくせに器用にてへぺろしてくるイナホに、俺はイラッとして怒鳴りつけると、反省の色を見せずにユイに近づいていき、ふよふよと宙に浮かび上がって、蹲るユイの額と自分の額を合わせた。
「くっ」
「キャッ」
「むっ」
『うわぁ!?』
『眩しい!!』
その瞬間、眩い光が俺たちに襲い掛かる。
その発光が収まると、イナホが消え、ユイが空中に浮かび上がり、体のシルエットはそのままに光に包まれていた。
手先から新たな物質が形成され、薄い藍色のアームカーバーのようなものが現れる。その上から白い手袋が覆いかぶさる。
同じく薄い藍色レオタードのような衣服が首元から下腹部の方へと伸びていき、フリルが沢山ついた藍色のスカートが出現した。
さらに、ニーハイソックスに似た衣装が現れ、その上から白のブーツが形成される。
最後に真っ白なマントをスカーフにリボンでまとめたら、ユイが決めポーズをして、地面に着地した。
そこには魔力暴走など微塵も感じさせない元気な姿があった。
「これが本物の魔法少女……」
リンネも変身機能を体験しているが、やはり天然ものへの憧れがあるんだろうなぁ。そこは魔法的な才能がないリンネには難しい部分だ。俺はより天然ものに近づけるように努力するしかないだろう。
「ユイ、大丈夫か?」
「うん、平気みたい」
俺の問いかけに、ユイはゆっくりと目を開いて、体のあちこちを動かしたり、ひねったりして確認してから、俺の方を向き直って頷く。
ふぅ、どうやら本当に安定したらしい。
「イナホは大丈夫なのか?」
『僕はここだよ!!』
『~~!?』
イナホが光になって消えてしまったので心配になったのだが、どこからともなく声が聞こえた。俺たちは驚いてあたりを見渡すが、どこにいるのか分からない。
『ここだよ、ここ!!』
声が聞こえる方を注意深く探ると、ユイの頭にある猫のヘアピンがピカピカとひかっていた。
「ん、そのヘアピンがイナホなのか?」
『そうだよ。僕を装備している時はこうなるんだ』
「へぇ~、不思議な生態だな」
イナホの体がどうなっているのかものすごく気になった。
「解剖しますか?」
『ひぇ!?』
俺の考えを呼んだらしいバレッタがイナホの方を無表情で見つめながらメスを取り出して軽く掲げると、ヘアピンになってもわかるほどにイナホがビビっていた。
「やめてやれ」
「承知しました」
『ほっ……』
ヤレヤレと首を振る俺の反応で、バレッタはメスをしまい、イナホは安堵したようだ。
『あ!!それよりも早く帰らなきゃ!!』
「ん?一体どういうことだ?」
安堵した矢先にイナホはハッと思い出したように叫んだ。俺は言っている意味が分からないのでその意味を問う。
『僕には使命があるって言ったでしょ?』
「ああ」
『それは僕を装備できる少女を探して、魔法少女になってもらった人を故郷に一緒に行ってもらうことなんだ』
「ユイがその魔法少女で、彼女が見つかったから帰りたいと?」
『そういうこと』
なるほどな。
「俺はユイの判断に任せるぞ」
俺は一応ユイの父親ということになったわけだけど、別に何かを強制しようとは思わないので、ユイの好きにさせることにした。
ユイは俺の言葉に少し考え込む。
「めんどくさそう。行きたくない」
『えぇ~!?』
その結果、一蹴されることになり、まさかそんなことになるとは思っていなかったイナホが信じられないという声色で叫んだ。
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