第375話 使命

「え!?それってどうにかできないのか?」


 突然の緊急事態に俺はバレッタに尋ねる。


 魔力暴走ってなんだ!?

 魔力暴走なんてどうやって止めたらいいんだ?

 魔力を吸い取ればいいのか?


「魔力暴走とは、体内に膨大な魔力を宿す存在が稀に起こしてしまう災害です。放っておけば、体から魔力が放出され、辺り一帯を吹き飛ばします。当然本人も木っ端微塵です。申し訳ございません。私たちはパーフェクトメイドではありますが、お嬢様の肉体はリンネ様と対をなす魔法使い特化型となっておりまして、彼女が一億年以上の時の中で拡張、蓄積された魔力は私たちを遥かに超えております。よって私たちでは対処不能です」

「それってマジもんのピンチってことじゃないか!!」


 いきなりそんなことを言うバレッタに憎まれ口をたたく。


 簡単な方法では止められないって事か?

 じゃあ一体どうしろって言うんだ?


 バレッタでも止められないって言う魔力暴走を俺たちがどうこう出来るとは思えないんだが。


 イコール死だ。しかし、このまま放っておくことも出来ない。


「たった一人で太陽系を吹き飛ばすくらいの魔力ですね。一番確実なのは、メサイアの次元転移で何処かに転移させてしまえば、私たちは助かるでしょう」

「でも、それじゃあユイが助からないだろう?」


 バレッタがそんな事を言うけど、ユイが助からないのでは何も意味がない。バレッタも本気で言っているわけではないだろう。


 それに次元転移先に太陽系くらいの範囲で人がいないとは限らない。


 ていうか一人の人間の中に太陽系を吹き飛ばす魔力なんて、リリカルな魔法少女も真っ青じゃないか!?


「そうですが、マスターの命には変えられません」


 いや、どうやら今は所有者である俺の方が優先度が高いらしい。前所有者の転生調整体なのに大事にしなくていいのか!?

 

「パパ……いいよ……」

「よくない!!」


 苦し気にしながらもあきらめたような笑みを浮かべるユイ。さっき会ったばかりだが、目の前で女の子が死のうとしているのを助けないなんて選択肢はない。


 何かできることはないのか……。


「い……い……の。パパに……あえて……良かった……」


 バカな!!

 子供にそんなこと言われても嬉しくない。


 絶対に助けて見せる。


 使いたくない技だが、ここは仕方ない場面だ。


「滅気!!」


 俺は竜気を超えるすべてを消滅させる気を纏う。


 くっくっく。早く我を解放したまえ!!


 俺の中に厨二がそう叫ぶ。


「うるせぇ!!今はお前にかまってる暇はねぇ!!滅気掌!!」


 内面の厨二を吹き飛ばし、ユイに向かって滅気を放つと、滅気がユイの周りを包み込む。


「ケンゴ何を!?」


 俺に向かってリンネが叫ぶ。すでに母親としての自覚と小さな女の子に対する庇護欲が合わさっているのだろう。俺がユイを殺してしまうとでも思っているのかもしれない。それだとちょっと傷つくな。


「大丈夫だ!!まかせろ!!」


 滅気は全てを消滅させる気。それならユイの魔力も消せるはずだ。案の嬢、ユイの体から放出された魔力は滅気によって出る端から消えていく。


「む……。魔力の暴走が止まった?」


 カエデが一見穏やかになったユイを見て呟く。


「いや、まだだ」


 今出来ているのは、放出されてきているものを抑えているだけ。決して暴走を止めているわけじゃない。内側の膨大なエネルギーはどうにもできてない。放っておけば、間違いなくさっきバレッタが言っていたようにこの辺りを太陽系くらいの範囲ごと吹っ飛ばすことになるだろう。


「バレッタどうだ?」

「はい、数時間程度ですが、猶予が生まれたようです」

「ふぅ。ひとまずはこれでいいとしても、何か対策を考えなければならない。何か案はないか?」


 バレッタの見立てに少しだけ落ち着きを取り戻す。とにかく数時間以内に今の状況をどうにかしなければならない。


「一つ……可能性があるとすれば、魔法少女契約ができれば魔力が安定する可能性があります」

「それってファンタジーの話だろ!?」


 バレッタがまじめな顔をしてそんなことを言うものだから、思わず叱責してしまう。


「いえ、実際にいくつかのとある星々で実際に起こっていることです」


 マジかよ!?


「バレッタにそれはできないの!?」

「私では無理です」


 リンネが悲痛な叫びを上げるが、バレッタは無常に首を横に振った。


『……』


 部屋を沈黙が支配する。


「もう……いいよ……どこかに……飛ばして……」


 ユイが難しそうな顔をする俺たちを見てそんなことを言う。絶対に怖いはずなのに。


ーウィイイイインッ


 ウィイイイインッ?


「にゃにゃにゃーん?(こっこはどこになのかなぁ?)」


 俺は俺達以外の何者かがこの部屋に入ってきた事を理解して、バッと振り向いたら、キョロキョロと室内を観察しながらこちらにやってくるイナホの姿があった。


「イナホ!!」

「にゃーん(あ、あるじぃ〜)」


 俺がイナホの名前を呼べば、気づかなかったとでも言うように、こちらに嬉しそうに駆け寄ってきた。


「にゃ、にゃー!?(こ、この魔力は!?)」


 しかし、なぜかユイの方を見るなり彼女の前に走る。


「にゃにゃにゃー!!(お、思い出したぁ!!)」


 唐突に閃いたような表情になってイナホは意味不明なことを口走る。


 しかし、その後の言葉はもっと訳が分からなかった。


「僕を装備して魔法少女になってよ!!」


 確かにイナホはそう言った。


 

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