第374話 母vs娘?
「おはよう。ユイ、でいいのかしら?まずはこれを着なさい」
「ママ。うん、私はユイ」
ユイはひとまずといった感じでリンネの持った貫頭衣や病院の検査着のような見た目の服を万歳して着せられた。
微妙に性徴期に差し掛かった未成熟な肢体に、反応はしないものの気まずさがあったので、すぐにリンネが服を着せてくれて助かった。
しかし、この子?も羞恥心があまりないように感じる。
同性の子供たちはともかくとして大人である俺に見られても全く動じることがないのだから。
それにしてもこの子は最初こそ突然目覚めて少し慌てたようだけど、今は落ち着いているようだ。この状況も予め想定されていたのかもしれない。
「ねぇ、お姉ちゃんはなんていう名前なの?」
「ユイ」
「ふーん。あ、私はリリ。よろしくね」
「私はルーンだよ」
「僕はヘインズ」
「俺はキースだ」
「うん、よろしく」
服をきたユイの元に子供たちが集まり自己紹介をしあっている。
子供たちがいい子たちでよかった。ユイも口数はあまり多くはないものの馴染めないということはないようだ。
俺はホッと一息をつく。
「バレッタ、目的はユイの覚醒でいいのか?」
「ええ、まぁ。そろそろ頃合いかと思っておりましたので」
間違っていないと思うが、バレッタに一応確認したら、予想通りの答えが返ってくる。
「そうか、それならもうここに用はないな。ちゃんとした服も着せたいし、そろそろ部屋に戻ろう」
「そうね」
「うむ」
転生に興味がないことはないが、今はそれよりもユイのことをいろいろ済ませる方が先だろう。
カエデとリンネも同意してくれたので船に戻り、自動サイズ調整機能がついた小学生女子が好みそうな服へと着替えさせ、髪の毛もかなり長かったので、彼女が望む長さに切り揃えて、整えた。
主にバレッタが。
そして完成したのは黒髪をハーフアップにして後ろで結っていて、ジト目に近い印象を感じさせるその憂いを含んだ瞳を持つ、日本人らしい特徴をもった美少女だった。
「これってパパの趣味?」
ユイが自分の服を見下ろしたり、鏡に映る自分の姿を見て、そんなことを言う。
「いや、別にそういう――」
「おっしゃる通りです。お嬢様」
「え!?」
俺としてはそんなつもりは一切なかったのに、なぜかバレッタに俺の言葉は封殺され、いかにも俺が望んだみたいな形になった。
いやいやいや、何を言っているのかな、バレッタさん!?
俺はあまりに突然の事態に思わず目を見開いてバレッタを見る。
「そっか。それならいいや」
はぁ……まぁ何か知らないが、ユイが納得したのならそれでいいか。
なぜか満足したらしいユイはとことこと俺に近づいてきて、俺の前で振り返り、俺の膝の上へとぴょんとお尻から飛び乗った。
その危うい果実である桃の感触が俺の太ももに伝わってくるし、女の子の匂いが香る。
「な!?」
その様子を見て驚いたのはリンネ。彼女はユイの行動に目を丸くする。
「おいおい、どうしたんだ?」
俺はいきなりの行動に面食らって尋ねた。
「子供はパパにこうやって甘えるものじゃないの?」
「ま、まぁ確かにな」
俺に娘はいたことがないから分からないけど、こういうシーンはアニメや漫画でよく見るからそうなのかもしれない。
俺はユイの答えに納得し、ユイの頭を撫でてやる。
「うふふ~」
ユイは俺に背を預けて見上げると、目を細めて気持ちよさそうにしていた。
「それにしても近すぎるんじゃないかしら?」
ユイを可愛がる俺にリンネの視線が突き刺さる。どうやら俺がユイとイチャイチャしているように見えて嫉妬したみたいだ。
そのせいか、俺の横にぴったりとくっついて俺に腕を絡ませている。
それにしても今まで俺に近づく女はほぼいなかったせいか、リンネが嫉妬する姿はなかなか見られないので微笑ましくてかわいい。
「ママも近い」
「私はいいのよ。妻だもの」
ユイが言い返すとリンネが勝ち誇ったような顔で返事する。
「それなら私もくっついてもいい。娘兼妻だし」
「どういうことよ!?」
「いや、俺に言われても知らないぞ!?」
しかしユイが突拍子もないことを言うものだから、なぜか俺にとばっちりが来て俺は困惑するしかない。
「分からないの?それじゃあ、説明してあげる。私とママは元々同一人物。遺伝子上もほとんど区別がつかない。つまりママとパパが夫婦であるということは、私とパパが夫婦であるということと同じ。だから私もパパに愛してもらう」
ユイは俺の方を振り返りながらリンネに勝ち誇ったかのように説明した。
「いや、それはさすがに――」
ユイの言いたいことは分からなくはないけど、それは暴論じゃないだろうか。体の情報としては確かに同一人物かもしれないけど、中身違って入ればそれは別人だろう。
「パパは黙ってて!!」
「あ、はい」
しかし、俺が意見はユイによって黙らされた。
「そんなことが許される筈ないでしょう!!ケンゴは私のものよ!!それは娘にだって、たとえ自分自身だとしても渡さないわ!!」
「なんですって!!」
『ムムムムムムムムッ』
リンネが俺をギュッと引き寄せるようにすると、ユイが反対側の腕に移動して俺を引っ張り合いながらお互いににらみ合って威嚇しあっている。
それと同時にユイから凄まじい魔力の高まりを感じた。
「きゃああああああああああっ!?」
しかし、その怖くとも平穏な時間がユイの悲鳴によって突如破られた。
いったい何が!?
「ケンゴ様、お嬢様は魔力暴走されております」
俺が疑問に思ったのもつかの間、冷静なバレッタがユイを見てそう言い放った。
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