第366話 帰還

 俺達は次元転移してそのままアルクィナスの近くにやってきて、アルクィナスへと戻った。


「あぁ~、こっちに戻ってくると本来は地球が故郷のはずなのに、帰ってきたって感じがするな」


 アルクィナスの城壁が見えてくると、旅行先から自宅に買ってきた時のような懐かしさと安堵を感じた。


「それ分かります。もうこっちでの居場所が出来てたんですね、そんなに長い時間居た訳ではないですけど」

「こっちは人と人の付き合いにメリハリがあるからな。直接会って話す。別れれば次に会うまで連絡を取り合うことがない。そして生きていくには外に出て人と関わらなければならない。結果的に人間関係が太くなる。でも、地球では通信技術によっていつでもどこでも繋がれるし、人と直接関わらなくても宅配サービスで生きていける。それが精神的なストレスになっている部分もあったはずだし、人間関係が希薄になったりもする。特にいつでも連絡が来るという状態は、一日中気持ちが落ち着かないと思うんだよな」

「分からなくもないですね」


 俺のつぶやきに反応した光野君と話をする。


「あら、お早いお帰りですね。てっきり大勢でどこかに遠征でもしているのかと思ったんですが。それに幾人かは姿が見えないようですね」

「まぁな。俺達にも色々あるんだよ」

「そうですか。これ以上は聞かないことにしましょう」

「ああ、それが良いと思うぞ」

「では、お通りください」


 門番に出迎えられた俺達。門番は余りにもすぐに帰ってきたことに驚くが、次元転移で戻ってきた時間が、アルクィナスを出てすぐに時間だったせいだ。


 お互いの次元でタイムロスが発生しないのは良いことだが、うっかり忘れてしまっていて、門番には苦しい言い訳をするしかなかった。


 全員見知った人間だったからか、門番はそれ以上俺達を問い詰める事もせずに街の中への入場を許可するのであった。


 中に入るとさらに郷愁を感じられた。


「よし、ここで別れよう。それじゃあ、またな」

『はい!!ありがとうございました!!』


 冒険者組とは街の途中で分かれ、俺達は自分たちの店へと向かう。


「ただいま戻ったぞぉ~」


 俺が先頭になって食事処の中に入る。


「おぉ~、これはこれはケンゴ様?」


 俺が顔を出すと、隊長エルフが俺を見つけて跪く。ほかのエルフ達もそれに倣った。


「頭を上げて立ってくれ。皆は仕事に戻るように」

『はっ』


 俺はすぐに彼らを立たせて仕事を再開させた。お客様を待たせてはいけない。


「それで、なんだか不思議そうな顔をしていたみたいだが、どうかしたのか?」

「いえ、つい先程出られてすぐ戻ってこられたので、何か忘れ物でもされたのですか?」


 どうやら旅行に行っているはずの俺が店に入ってきたのが理解できずに、不思議そうにしていたようだ。


「ああ。そのことか。ちゃんと行ってきたぞ。旅行先から帰ってくる時に、ここを出発した日に戻ってきたんだ」

「なるほど。どうやら私に難しいことですが、ケンゴ様はついに時間まで操り始めたと言うことですね?流石でございます」


 俺の説明に少し眉間にしわを寄せながら、何とか時間を戻ってきたということを理解した隊長が、俺を褒めたたえる。


「いや、別に俺の力じゃないからな?」

「ケンゴ様自身のお力でなくてもその力を使用できるということは、ケンゴ様のお力であるのと相違ありません」


 流石に大げさだと肩を竦めるが、隊長が俺の称賛を引っ込めることはなかった。


「それはさておき、俺達の目的は達成し、ここで働いていた従業員たちも皆帰ってきてくれたから、応援で来てくれてたやつらは返してもらって構わないぞ」

「かしこまりました。それではまた皆さま宜しくお願いします」

『宜しくお願いします!!』


 俺はちらりと後ろにいるパンツちゃん達に視線を向けてからここに来た目的を告げると、隊長は高校生組に頭を下げ、彼らも同じように声を揃えて頭を下げかえした。


「そんじゃあ、復帰時期とかはお互い話し合って決めてくれ。それまで丸宮さん達は休みで構わない」

『分かりました』

「それじゃあ、俺達は帰るな」

『はい、ありがとうございました!!』


 俺は元高校生組に指示を出すと、店、街を後にして、久方ぶりにアルクィナス近郊にある本邸へと帰ってきた。


「それでは主君また後でな」

「またねぇ」

「またね!!」

「また」

「また肉持ってきてくれよな!!」


 そこでカエデ達と別れ、俺達は自分の家の入り口目指して歩く。


「ちょっと待って」


 お家の扉に近づいた時、リンネが俺に止まるように声をかけた。


「リンネ、どうしたんた?」

「こうするのよ」


 俺が首をかしげて問いかけると、リンネは自分だけ先に家の中に入っていった。


 ああ、そういうことか。


「おかえり」


 俺が遅れて家の中に入ると、彼女が満面の笑みでそう言って俺を出迎えてくれた。


「ただいま」


 俺もまたその笑顔に答えるように顔を歪ませて答えた。こうして俺達は地球観光を終えて異世界への期間を果たした。


 もう地球に思い残すのはこれから発売や更新される小説、ゲーム、アニメの類だけだ。定期的に仕入れに行く以外の用事でもう地球に戻ることはないだろう。

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