第365話 選択

「おお!!これが一番有名だという姫路城か。なるほど。我が里にある城とどことなく似ているな」

「忍びの里に城があるとはこれいかに……」


 秋葉原を堪能した俺達は翌日から神社仏閣をメインに観光を行っていた。


 北は北海道から南は沖縄まで網羅するつもりだ。やはり最初に姫路城は見ておかなければならないだろうと思い、皆を連れてきた。


「それにやはりテレビや写真で見るのと違って迫力が違う。テレビや写真が悪いというわけではないし、その良さもあるが、やはり生で見るに限る」


 カエデは城を見上げながら腕を組んでウンウンと頷いていた。


 それから転移で移動しながら一週間かけて様々な神社仏閣を回り倒した。


「きゃー!!」

「面白ーい!!」

「速い速ーい!!」

「肉ぅうううううう!!」


 その後でやってきたのは、千葉にあるのに、東京の名のつく「東京ハムバラーランド」。ハムスターなのかカピバラなのかどっちなのか未だに謎の生物がマスコットの遊園地だ。


 子供たちはジェットコースター系の乗り物に乗りまくってはしゃぎまくっている。


 一方でリンネとカエデはキャラクターやストーリー性を感じさせるアトラクションにテンションを上げていた。


 それに遊園地はここだけでなく、「ユニバーサル・ポータル・ジャパン」通称UPJにも「富士急ローランド」にも、その他の遊園地も制覇した。


「あぁ~、あの動物さん可愛いね」

「白黒模様不思議~」

「魔物とは全然違うねぇ」


 それに遊園地だけでなく、動物園を含む、テーマパークやアミューズメントパーク、そしてレジャー施設は粗方制覇した。


「あいつの肉美味いのか?」


 動物園でキースが各動物の前でそう言うたびに動物たちがビクリと体を震わせて怯えていたのは印象的だった。


「パオーンッ(僕は美味しくないよ!!)」

「ガォーンッ(肉食獣だから肉臭いぞ!!)」

「ウッキーッ(俺達より牛を食え!!)」


 そもそも獣人達は動物たちにとって上位の存在で、耳や尻尾は隠していたが、動物の本能で何かを感じ取っていたのだと思う。


 どの動物も食べられまいと必死だった。


「はぁ~……温泉は気持ちいいわね」

「あぁそうだな……」


 それから宿は毎日各地の評判の高い旅館で部屋に備え付けの温泉につかったり、ある日は温泉街を観光したりして癒されつくした。


 そして気づけば一カ月以上たっていた。


「おじさん遅すぎ……」

「すまん」


 地球を堪能しまくった俺は、異世界へ帰る日を伝えたら、皆からようやくかよ、といった返事が滅茶苦茶ついていた。


 そして、一番最初にパンツちゃんを迎えに行った時にそんな風に言われてしまい、謝る事しかできなかった。


「ご両親は大丈夫なのか?」

「ええ。問題ないですよ。元々私にあまり興味がない両親でしたし、出ていくと言ったら好きにしろと言われました」

「なんだか複雑そうだな」

「まぁ色々ありましたけど、これからはもう関係ないので大丈夫です」


 どうやらパンツちゃんの家は何やら複雑な事情がありそうだが、彼女が話したくは無さそうだったので、すぐに船に送った。


「君は本当にあっちに行っていいのか?」

「はい」


 次に迎えに行ったのはカリスマイケメンの光野君。彼なら日本でも勝ち組人生を送ることが出来ると思うんだが、どうやら異世界が気に入ったようで、あっちで生きていくことに決めたらしい。


「君ならこっちで上手くやれるだろうに」

「嫌ですよ。自分を取り繕ったり、親や上司のご機嫌を取りながら過ごす毎日なんて。あっちなら冒険者で好き勝手に生きていけますからね。それに娯楽もおじさんが定期的に持ってきてくれそうですし」


 俺が勿体ないなぁと呟くと、光野君は肩を竦めてため息を吐き、首を振りながら答えた。


 イケメンはイケメンで何やら悩みを抱えてんだなぁ。


 俺は呪詛をまき散らすのではなく、もう少しイケメンにも優しくしてやろうと思った。


「はぁ……ちゃっかりしてんなぁ。まぁいい。君が決めたことだからとやかく言わないし、関りがあった人たちの事は俺達に任せておけ」

「よろしくお願いします」


 勝手に異世界に連れていくのは駄目だし、当然何も言わないのも駄目だ。しかし、異世界に行くと言っても信じられないと思うので、バレッタに記憶などを色々弄ってもらえばどうにかなるだろう。


 それから俺達は異世界に戻ると決めた高校生を全員迎えに行ってメサイアに連れて帰ってきた。その数は約半数になっていた。特にウチに従業員になった子達の帰還率は百%で、全員が異世界での生活を望んだ。


 嬉しい反面、本当にこれでいいのかと不安になる。


「もう、こっちの家族や友達に未練はないか?」

『はい!!』

「もう戻って来れないが、後悔しないな?」

『はい!!』


 俺はその不安を払拭するように尋ねると、全員がはっきりとした返事をしたのでこれ以上何も言わないことに決めた。


「それじゃあ、バレッタ。帰還だ」

『承知しました。次元転移システムと因果律操作システムを起動。調整完了。転移します』


 俺達は目の前に浮かぶ地球を見つめながら、彼の星にしばしの別れを告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る