第317話 裏切り行為
「プールでもいこうかな!!」
「いいかも!!」
「僕は本を読もう」
「俺は食堂だ!!」
子供たちは船に戻るなり、自分たちがしたいことをするために各々散らばっていっった。
元気な事である。
「よし、まずこれからのことを整理しよう」
「そうね」
「了解」
子供たちを見送った俺達は船の中の会議室に移動して、町の近くに船を呼び寄せ船の中に戻った俺達は奴隷解放の手立てを考え始める。
「地上奴隷を解放する、ということは大前提として情報が必要だな。奴隷商と販売された先。奴隷の首輪の製造元とその在処やそれらを推進している後ろだて。このくらいは欲しいな。それと並行して、船の逃亡先の準備。こっちもやっておく必要がある」
しかし、現状この国の事が分からな過ぎてどうしたらいいか分からない状態だ。だからまずは情報を集めることから始める必要があるだろう。
彼を知り己を知れば百戦殆からず
ともいうし、相手の情報をきちんと知って、対策をとっていればまず負けることはないはずだ。
もちろん俺は超古代文明の力や古代魔法が使えたり、竜気に滅気、はてはロボットまで使えるので、戦闘で負けることはほぼないと言えるが、こういうことは出来るだけ知られることなく行い、正面からぶつかることなく終わらせたい。
そのためにも相手を丸裸にしてしまうのは悪い事じゃないだろう。
「うーん、私は隠れて行動するのは苦手なのよね。かといって船の準備なんてバレッタがすぐに終わらせてしまいそうだし」
リンネが手を挙げて苦笑いを浮かべながら自身が情報収集に不向きなのと、別の事をする意味がないと答える。
『準備は終わりました』
「ほらね?」
それを証明するようにバレッタが奴隷たちの受け入れ準備が終わったと俺達に会話に割り込み、リンネがそら見たことかと肩を竦める。
「そうか、それならリンネは俺と行動しよう。俺とリンネは奴隷の情報を集めて、その後、解放して船に送る。カエデは一人で奴隷の首輪とその製造元の方の情報を当たってみてくれ」
「分かったわ」
「心得た」
うーん、確かに情報収集なら俺とカエデでやってしまうのが早いけど、リンネが一人残ってもやることがないだろうし、俺と一緒に行動することにして奴隷解放の時に力を貸してもらうことにした。
カエデは一人の方が動きやすいし、もう俺以外に見つけられる人がいなそうなくらいには隠密能力に長けているので、どんな場所でも忍び込んで情報を持ってきてくれるだろう。
「それじゃあ、18時頃になったらまたここに戻ってこよう」
『了解』
俺達は二手に分かれて街を探ることになった。カエデは一人、影に沈んだ。
「さて、まずは奴隷商に関してはだが、これは普通に聞いてみるのがいいか。俺達は羽を偽装しているから聞いたら答えてくれそうだし」
「そうね。真探索者ギルドとか聞けば教えてくれるんじゃないかしら?地上じゃ色んな斡旋もしていたし、私達もそれなりの高ランク探索者だもの。奴隷の一人や二人ほしがっていると思われるはずよ」
「なるほどな」
俺達は行動指針は話し合う。
天翼族が奴隷を日常的に使っているなら、天翼族に化けている俺達が奴隷の話を聞いても可笑しくないと思って呟くと、リンネが同意すると同時に提案をする。
確かにその通りだと思ったので、俺達はアーピアの真冒険者ギルドで尋ねることにした。
「奴隷……ですか?」
俺はすでに顔なじみになりつつある受付嬢に奴隷のことを尋ねると彼女は表情を曇らせる。
「なんだ?サランサはあまり好きじゃないみたいだな?俺達も好きなわけじゃない。ちょっと気になってな」
「……ちょっと応接室に来てもらえますか?」
「ん?ああ、いいぞ」
俺の質問に暗に場所を変えたいと言ってきたサランサに俺は頷く。
「それで何かあるのか?」
「えっと、この国は少し前に政権が変わったのはご存じかと思いますが、それ以降突然地上人を奴隷として攫ってくることが推進され始めました。この街ではまだ少ないですが、他の街では多くの地上人の奴隷が町中でこき使われたり、ひどい扱いを受けています。私の家は以前地上人に助けられたことがありまして、正直今のこの国の状況は見ていられません。しかし私には何の力もなく、ただ見ている事しかできないんですよね。あなた達は優しい方のようですし、奴隷には何かお考えがあるようなので、できれば購入しないでもらいたいのです」
サランサの話を聞いてこういう人もいるんだなぁと思う俺。
今まであったやつは皆羽の無い俺達の事を見下していたからな。
どうやら嘘ではなさそうだし、ちょっとだけ好感を持った。
俺はインフィレーネでこの部屋を隔離する。
「はははっ。いや天翼族にそういう奴がいるというのが分かってよかった」
「え?」
「リンネ」
「やりたいようにやったらいいわ」
「了解」
俺とリンネは腕輪は外した。
「ち、地上人!?」
「そういうことだ。俺達は天翼族に偽装していたのさ」
「まさかそんなことができるなんて……」
俺達の羽が背中から消えると、サランサは目を見開いて驚く。
同族たちを欺くほどの偽装できるとは思わなかっただろうからそれも無理はない。
「あ、勘違いしないでね、そんなことできるのケンゴくらいだから」
「そ、そうなんですね。それで、その姿を見せてくれたということは何かあるんでしょうか?」
リンネは口をはさむとサランサが露骨に安堵した表情を見せた。
なんだよ、人を化け物みたいに……。
安堵したままサランサが質問を続ける。
「ああ、俺達は奴隷たちを解放しようと思っている。そこで奴隷がいる場所を探していてな。奴隷商の場所を聞こうと思ったんだ」
「ホントですか!!それは私の願いが天空神に通じたのかもしれませんね。わかりました。私が分かる限りの奴隷商や奴隷を扱っている人間の情報を提供します」
俺達の目的を話すとサランサは身を乗り出して協力を取り付けてくれた。
しかし、それは同族を売る行為。バレれば殺されてもおかしくはないだろう。
それくらい危険な行為だ。
「いいのか?」
「問題ありません。何か罪を犯したとかならまだしもなんの罪もない地上の人たちを攫って奴隷にしているんですから」
俺が真っすぐにサランサを見て尋ねると、彼女は胸に手をかき抱いて目を瞑って懺悔するように呟いた。
「分かった。早速教えてくれ」
「分かりました」
俺はサランサの覚悟を受けて情報をもらい受けることにした。
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