第316話 胸糞悪い第二の街ローグル
出発した俺達は休憩をするために地上に降りると、この辺りはスライム状の植物やモンスターばかりの地域だった。
確かに斬撃に対する耐性が高かったが、子供たちの腕力と特製の武器の前になす術なく切り裂かれ、あっけなく死んでしまうのであった。
ただ、これはスライムではなく、実際はゼリーだったというのが正解だ。
様々な味のゼリーがあって非常に美味しい上に、分析の結果とてもヘルシーであることが分かって、特に女性陣が喜んだ。そのせいで全員総出で色んな種類のゼリーモンスターを狩りまくることになった。
中には中々見つからないレアゼリーモンスターも存在していて、そのモンスターは他のモンスターに比べてもさらに美味。しかし、中々見つけられないので、そのモンスターゼリーの数を揃えるのにかなり手間取ってしまった。
そのため、昨日は日が暮れてしまい、野宿するはめになったのだった。
「あのゼリー本当に美味しいわね」
「そうだな」
女性陣の中でもことさらにゼリーを気に入ったのはリンネだった。ヘルシーということもあって四六時中、飲むゼリーの容器のようなモノに入れてチューチューと食べている。
美味いのは分かるけど、それは流石食べ過ぎだろう。
次の日、俺達は王都の前の街に辿り着いた。
印象としては、城壁がアーピアよりも堅牢そうに見えることだ。半透明の結界のような部分が少なく、より高いところまで壁で覆われていて、天辺付近の一帯が覆われていないのと、城壁の所々に窓のようなモノがあり、そこから採光しているようだ。
しかも外からの何かに備えるというよりは中からの衝撃に備えるために、城壁の壁の外に根が張っているように見える造りになっていた。
「止まれ!!」
俺達がドームの天辺付近に向かうと、トーガの上からきちんと武装した兵士に止められる。
「ふむ、天翼族で間違いないようだな。通ってよし」
俺達はじっくりと嘗め回すように体のあちこちを観察された後、入り口の通行を許可された。
「アーピアと違って検査が厳しいんだな、ここは」
「お前さんたちはここにはきたことがないのか。ああ、ここには羽無しどもが沢山居るからな、たまに脱走しようとしたりする奴がいるんだ。しかもご丁寧に俺達のような立派な羽を偽装してな。全く俺達の羽を模するなど愚弄もいいところだ。そんな偽物に俺達が騙されるわけがない。な?そう思うだろ?」
「そうか……そうだな」
俺が衛兵に尋ねると、驚愕の事実が齎される。脱走する、という表現にあまりいい扱いをされていないことを悟り、俺は一瞬怒りが吹き出しそうになるが、こらえて適当に返事を返してそのまま入り口を通った。
地面に降り立つと、至る所に目を疑うような光景が広がっていた。
「なんだこれは……」
「酷いわね……」
「私達よりも扱いが酷い……」
「可哀そう……」
「痛そう……」
「酷い……」
「肉がマズくなる……」
羽の無い、人間を含む地上の人型の生物が首に黒いチョーカーを嵌め、トーガ以上に簡素でみすぼらしい衣服を着せられ、体中がうす汚れ、体はガリガりになっていて衛生状態も健康状態もすこぶる悪そうに見える。
そしてその人達を天翼族たちをわが物顔でこき使ったり、痛めつけたりするという事が、日常的に行われていると感じさせられた。人達が逆らう様子が見られない様子を見るに強制的に従わさせられているようだ。
その光景を見た仲間たちは顔を顰めるか、悲し気な表情を浮かべた。
「あのチョーカーは……」
「どうしたの……」
俺が呟くと、リンネが小さな声で俺の耳元に顔を寄せて呟く。
「ちょっとここはマズい。移動しよう」
「ええ」
「うむ」
『はーい』
俺はこれだけ人がいる広場で話すのは誰が聞いているのか分からないので場所を変えることにした。
人通りが少ない場所に移動し、誰もいなくなった瞬間を見計らってインフィレーネで全員を覆う。そして誰からも見えなくなるように隠し、通る人の邪魔にならないような場所に円になった。
「それで、一体どうしたのかしら?」
「ああ、地上の人達の首に見覚えのあるチョーカーが巻かれていた」
「それって……」
「ああ、十中八九隷属の首輪だろうな」
誰かに聞かれる恐れがなくなったところで、リンネが促すので本題に入る。
話し始めた内容にリンネは感づいたようで俺の眼を見てきたので、俺は頷きながら地上人達につけられていたチョーカーの正体を述べた。
「こんな所にもあるなんて、全く忌々しい道具ね」
人を強制的に従わせるチョーカーを思い浮かべて顔を顰めるリンネ。
「いや、それは違うかもしれないぞ?」
「どういうこと?」
俺が別の可能性を示唆すると、リンネは首を傾げた。
「むしろこうは考えられないか?あのチョーカーをヒュマルス王国に融通したのがこの国の誰かだった、とかな」
「つまりヒュマルス王国を先導して魔族と争わせ、他種族とも仲が悪くなるように仕向けたのは天翼族ってこと?」
「そうだ。あくまで今はその可能性があるってことだけどな」
俺はその可能性も充分あると思っている。
地上人がいなくなれば、地上の土地が全て自分たちの者に出来るわけだしな。そこまでいかなくても地上の人が減れば減るほど、地上に侵略して土地を奪うということも容易くなる。
天翼族にとって地上人がつぶし合う状況は非常に都合がいい。それに他の種族に比べて信仰に付け入る隙があるのが人間だ。
それを考えれば教会あたりをどうにかできれば人間至上主義なども簡単に作り上げられるだろうし、魔族に対する間違った知識や情報を植え付けることも容易い。
そこを利用して地上人達を減らそうとしたのではないかと睨んでいる。
「とにかく、今はあの奴隷たちを出来るだけ早く助けてやりたいと思う」
「分かったわ。私もあんな状況にしてはおけないし協力する」
ひとまず王都への移動は一旦お休みして奴隷たちを解放することから始めることにする。
地上であれば、奴隷制度が整っているし、きちんとした理由があって奴隷になる訳だが、ここにいる奴隷は全て地上の者たち。どうやって連れてきたかといえば、ほぼ百%攫ってきたのだと考えられる。
お菓子の森の管理者たちの言葉や先程の門番の台詞が、地上人達は奴隷だと思っていることを物語っていたのでほぼ間違いないだろう。
「勿論私も協力するぞ?ただ、子供たちとイナホには少し今回の件は難しいだろうな」
「そうだな。今回は少し小難しい話だから近くに船を呼んでそこで待機してもらおうか」
カエデも頷いて話に乗ることになったが、モンスターを倒せばいいというシンプルなことでもないため、イナホと子供たちは船でのお留守番が決定する。
『はーい』
子供たちとイナホは元気に了承の返事をした。
本当に聞き分けのいい子達で助かる。
俺達は宿をとり、再び外に出かけた
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