第305話 第一の街アーピア

 俺達が町に近づくと、街は地上が全て壁で覆われていて入り口がなく、それより上はドーム型に半透明の何かで覆われ、頂点部分にぽっかりと円形の門が口を開けていた。


「どうやらあそこが入り口みたいだな。行ってみよう」

「ええ」


 俺とリンネを先頭にしてその門へと飛んでいく。


「止まれ!!」


 その門には二人の屈強な男の天翼族が古代ローマにでもいそうな格好で槍を持ち、立っていた。止められた俺たちは大人しく全員が大人しく、その場でホバリングして宙に留まる。


「お前たちはなんだか見慣れない恰好をしているな」


 門番が顎に手を当てて、見定めるように俺達の服をあちこち見回した。


 天翼族はイメージかなんかのせいなのか、白いトーガっぽい服装のやつばかりだから、物珍しいのかもしれない。それに、地上の服を好んで着ていると知られれば色々面倒なので適当な理由を考える。


「ああ。俺たちの親は地上の服装の研究ばかりしていた変人でな。その影響でこういう格好をさせられて、慣れてしまった俺たちはこういう格好をするようになってしまたんだ」

「ふむ。なるほどな。羽無し共の服か。それは確かに変人だ。俺たちみたいな服こそが至高だからな。お前たちも災難だな」


 思い付きの理由を言ったら案外信じてくれて、同情的な目線で見られた。


 まさかこんなに簡単に信じてもらえるとは……。

 かなり危機意識が薄いように見える。


 確かにここには外敵が少ないか。


 空に浮いている大陸である以上、ここに上がってこれる人と同程度の知能を持つ種族なんてほとんどいないだろうし、モンスターの類も余程のモノじゃないとここまで上がってこれない程の高度にある。


 そう考えると、敵がほとんど来ないわけだ。それに、今のやり取りを見る限り、同族で争うことも多くなさそうだ。


「いや、気にしないでくれ。もう慣れてしまったからな」

「そうか。それじゃあ入っていいぞ。ようこそ、アーピアへ」

「ああ、ありがとう」


 俺が肩を竦めると、案外あっさりと通してもらえた。


 俺達は門をくぐってアーピアの中に入る。


「私たちの格好ってここだとかなり目立つわね」

「そうだな。皆同じような服装をしているからな。物珍しいんだろうな」


 街の中に入ると、空を飛ぶ多数の天翼族からの視線が俺達に集まった。


 こんな格好をしているから無理もない。


 それに町の様子を見る限り、文明レベル的なモノは下の街とそれほど変わりないように見えるが、一つ特徴があった。


「ここが天翼の街か。あまり地上と変わらないな」

「そうだな。ただ、家の入り口が上についているのは特徴的だな。ここは雲より上にあるから雨が降らないし、飛ぶのが普通の彼らの特徴だろう。水回りは雨も降らないのにどうやって水を循環させているのか気になるけど、古代の技術のことを考えても仕方ない」


 キョロキョロ街の中を見回すカエデ。


「普段地上の扉から中に入る身としては面倒臭いな」


 俺が予想を述べると、肩を竦めて俺に自嘲気味に言った。


「わかる」


 いくら練習したからと言って翼は慣れないものに過ぎない。使わないのが一番楽だ。


「まずはどこから向かう?」

『飯処で!!』


 俺の質問にリンネ以外の皆がすぐにご飯に食いつく。確かにもうお昼時を過ぎている。食事処に入るのも悪くない選択肢だ。


「カエデ、どこが良いと思う?」

「ちょっと待て」


 俺が食いしん坊カエデに尋ねると、カエデは目を瞑って考えた。


「スゥ~~~~」


 いや違った。匂いで店を探し当てるつもりだったようだ。流石獣人族だ。


「うむ。あそこの店に行ってみよう」

「分かった」

「良いわよ」

『はーい』

 

 俺達はカエデが指さした建物に高度を下ろして中に入った。


 すると、店内は普通の食堂って感じの造りで、人が降り立つ場所は込み合っても良いように広めの広場みたいになっていて、次々人が下りてきても問題ないようになっている。


 席はまばらだが、ある程度埋まっているのでそれほど悪くはなさそうだ。でももうほとんどの客が食べ終わっていて、料理の中身は窺えなかった。


「いらっしゃい」


 俺達に声を掛けてきたのは、渋くてちょい悪な雰囲気のオヤジ。


「飯を食いたいんだが」

「空いてるところに座れ。これがメニューだ」

「了解」


 俺達は適当な席に腰を下ろし、メニューを開く。


 そこに書いてあるのはよく分からない名前ばかりだけど、一応肉っぽいとか野菜っぽいとは判別で来たので、それを頼りに俺たちは料理を頼んだ。


「一体どんな料理がくるのか楽しみね」

「そうだな、奥方様」


 リンネとカエデが料理を待ち遠しい様子で話している。それは子供たちもワクワクしながら来る料理を待っていた。


 しかし、俺達を待ち受けていたのは悲しい現実だった。


「え!?」

「あ!?」

「はぁ!?」

『えぇ~!?』


 俺達の席に運ばれてきた料理を見て衝撃を受け、各々変な声を上げて叫んだ。一時的に他の客の視線を集めることになったが、それも一瞬のこと。


 しかし、目の前にある料理は変わらない。


 俺達の目の前に並べられているのは、料理同士がくっついて動物の形を成しているモンスターをそのまま焼いたらしきモノや、野菜同士がくっついて動物の形を形成しているモノが出てきていた。


 俺はあまりの料理に愕然とした。

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