第304話 街へ

 成果を持ち寄った俺達は、宝石ばかりで構成された草原で一夜を過ごし、次の日に再び町へと向かって空を飛んでいく。


「今日こそは街に着きたいな」

「そうね。この大陸の生活にも興味あるし」

「そうだな」


 恐らくこの大陸に住む天翼族。この大陸の不可思議な生態系による資源によって生活しているんだろうけど、どんな風に使われているのか気になる。


「私もこの大陸には気になることがある」


 俺達の会話に割り込むようにカエデが呟く。子供たちがアクロバット飛行にむちゅうになっているので、こっちに来たようだ。


「なんだ?」


 カエデが気にすることなんて決まっているけど、念ために聞いてみる。


「それは食事だ」

「言うと思った」


 案の定食べ物の事だった。


 お菓子のモンスターが出ていた時も人一倍食い意地が張っていたからな。当然と言えば当然の結果だ。


「ふむ。やはりあのスイーツモンスターだけでなく、他にも普通の植物や動物の肉とは違う意味で食べられる生態系があるに違いない。それらをどのように使っているのか気になる」

「まぁな。それは確かに気になるところだ」


 確かに既にスイーツとして完成しているあのモンスターとか植物をどうしているのか興味がある。


「私も天翼族に関しては全然知らないから興味があるわね。昔言い寄ってきた天翼族の男をぼっこぼこにしてやったらそれ以来、全く関わりないからどういう生活しているか全然しらないのよね」

「はぁ……そいつも勇気があると言うかなんというか」


 どうせさっきの天翼族の様子だと、上から目線で、お前は可愛いから俺が飼ってやる、みたいなことを言ってリンネに触れようとしたに違いない。


「そいつは、俺がお前みたいな羽無しを飼ってやるから光栄に思え、とか言ってきたからついやっちゃったわ。そいつ天翼族でも偉い血筋だったらしいんだけど、すでにSSランクだった私は何の責任も取らされなかったけどね。天翼族と言えど、SSランクの強さと権力を知っていたようね」


 リンネは俺の言葉に案の定の答えを返してくれた。


 貴族だけじゃなくて、どこにでもそういう傲慢な奴一定数居るよね。ウチに上司の一人もそんなやつだったし。手伝ってやろうとかいって仕事を達成したら自分の手柄にして上からの評価を掻っ攫っていく糞野郎だった。


「リンネが強くて良かったな」

「そうね、私に力が無かったら、そいつに良いようにされていたかもしれない」

「なんだかそう思うとむかっ腹が立ってくるな」


 リンネが弱ければそいつと出会うことも無かったかもしれないが、もし出会っていてひどい目に合わされたと思うと、なんだかその男のことが無性に憎くなってくる。


 別に何もされていないのに自分の物が侵されているように感じてしまうんだ。


「へぇ。そんな過去の事にも怒ってくれるのね」


 俺の姿をみたリンネが笑みを浮かべながら嬉しそうに声を弾ませる。


「そりゃあそうだ。自分の女が過去に汚されそうになったと聞いたら、男はそいつを憎らしく思う生き物なんだよ」

「そ、そう。私はケンゴの奥さんだし、肌もケンゴ以外には許してないんだから、安心してよね」


 俺が思っていることを素直に話すと、リンネも恥ずかしそうにしながら答えた。


 それが分かってても憎いのが男ってもんなんだよ。

 女々しい事この上ないけどな。


「分かってる。もしそいつが生きてるなら。ちょぉっと痛い目を見てもらうだけで済ませてやるから」

「全く私が好きすぎじゃないかしら?」


 俺がニヤリと口端を吊り上げるのを見て、リンネは呆れるように俺に尋ねた。


「ああ、愛してるけど、文句あるのか?」

「い、いいえ、文句なんてないけど……。そ、その、わ、私も愛してるわ」


 俺が抱き寄せて真剣な表情で返事をして、リンネは俺の言葉に顔を赤くして有無きながら、俺に愛を囁いた。


「はいはい、主君も奥方様もご馳走様。余りに甘い空間になったから、思わず砂糖を吐きそうになったぞ?まぁ砂糖は好物だから飲み込んだがな」

「な!?」


 俺達の甘い空間を切り裂くように、突然カエデにツッコミを入れられ、リンネは顔を真っ赤にした。


 さっきまでカエデと話していたんだから話に入ってくる可能性もあるのにも関わらず、すっかり俺のことに夢中になって周りを忘れてしまうリンネが可愛い。


 これが俺の奥さんなんだぜ?


「あんまりリンネをからかうなよな」

「別にそんなつもりはなかったんだがな。アレが見えてきたから一応報告しておこうと思っただけだ」


 俺が肩を竦めると、カエデはバツの悪そうな顔をしながら先の方を指さした。


「そういうことか」


 カエデの指先を目で追うと、ずっとわき見運転ならぬ、脇見飛行をしていたから気づかなかったが、先にうっすらと街の姿が見え始めていた。


「うむ。街だ」

「昨日のうちに結構進んでいたから比較的早く着いて良かったな」

「そうだな」


 にこりと笑うカエデに俺も頷き、カエデも頷き返す。


「あぁ~!!町だぁ!!」

「ホントだぁ!!」

「どんな街かな!!」

「肉料理あんのか!!」


 俺達の声が聞こえたかのように子供たちも街の姿を発見してキャッキャと騒ぎ合っている。


 そんな中、リンネは街に着くまで顔を真っ赤にして俯いたままだった。

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