第306話 味は悪くない
「これって料理なのかしら」
「うーん、どうだろうな」
リンネが見た目を見て疑問を呈し、俺も同じように悩む。
食材というか生物をそのまま焼く、という観点から見れば、一応焼き魚とか、バーベキューとかあるけど、これも同じようなものだと考えればいいのだろうか。
「匂いは悪くなそうだぞ?」
「うん、良い匂い~」
「香ばしい香り~」
「悪くなさそう」
「肉ならなんでもOKです」
『きっとおいしいよ~』
獣人組プラス獣一匹の嗅覚による判別では問題ないらしい。確かに全体ではなく、部位単体で見れば美味く見えないこともない。
「とりあえず……食ってみるか」
「そ、そうね……」
しかし、このまま何もせずにいるわけにもいかない。
俺達は恐る恐るその料理を食べてみることにした。
「いただきます」
『いただきます』
食前の挨拶をして、俺は目の前の料理に挑む。俺が頼んだ料理は、ベーコンとかウインナーとか燻製した肉類が体の部位になっている生物らしい形をした物体。
ナイフとフォークも並べられたのでそれを持って、ウインナーみたいな足をフォークで押さえて、思い切ってナイフを入れる。
―パリッ
ウインナーをかじった時のような小気味の良い音が鳴ると同時に、切断箇所から透明な肉汁が溢れ出した。その肉汁から俺にも分かるほどに肉の旨味が凝縮されている香りが漂う。
―ゴクリッ
思わず喉が鳴った。
た、確かに匂いは悪くない。
しかし、味はどうか……。
俺達は各々が何とはなしに同じタイミングでせん断した部分をフォークで指し、口に運んだ。
『~~!?』
料理を口に含んだ瞬間、俺達は顔を上げて目を見開いて驚き、お互いの顔を見合わせる。そして、すぐに視線を料理に戻して、一心不乱に料理にナイフを入れては口に運ぶ作業を繰り返した。
『美味い!!』
ある程度食べたところで俺たちは口を揃えて叫ぶ。
そう、モンスターの姿焼きの味は、お菓子モンスター同様に美味かったんだ。
な、なんなんだこれは……。
「普通に美味いわね、これ」
「そうだな。信じられないが、美味い」
俺とリンネが感想を述べるが、他の面々はがっつくように料理を口に運んでいる。獣人達はやはり肉が好みの用で皆俺と同じか似たような肉モンスター料理を食べていた。
ただ、この料理の欠点は、肉ばかりなので野菜との組み合わせた料理のような美味さというよりは、焼肉とか単一のバーベキューを食べているような感覚だろうか。
美味いには美味いけど、その内飽きが来そうな気がする。
こういう時はアレを頼むに限るな。
「ちょっといいか」
「はーい」
俺が手を挙げて店員に呼びかけると、元気のいい返事と共に天翼族の女性店員が俺の所にやってきた。
こうしてみると普通に接してくれて好感が持てるのに、翼がないだけでこの娘も差別するのかと思うと少し悲しくなるな。
「いかがしましたか?」
「酒はあるか?」
俺は余計な考えを頭から追い出し、用件を尋ねる店員に酒があるかを確認する。
「はい、ございます」
「お勧めで美味い酒を選んでくれ」
「あ、ズルい。私も欲しいわ」
「うむ。私も貰おう」
『僕達も~!!』
俺が酒を頼んでいるのを見てリンネもカエデ、そして子供たちまで手を挙げて参戦してきた。
「うふふ、承知しました。皆様の料理に合いそうなお酒をお選びしますね。子供たちはジュースだからね」
『はーい』
店員が微笑ましそうに俺達を見て、子供にウインクして諭してから店の奥へと消える。暫くすると、俺には赤ワインらしき酒、リンネには白ワインらしき酒、カエデにはビール、子供たちには果汁百%らしいジュースが運ばれてきた。
子供たちはカエデとイナホは飲み物が来るなり、再び食事をガツガツと食べ始め、ジュースと酒で流し込むように食べ始めた。とんでもなく良い食べっぷりだ。
俺とリンネはコップに入った酒を光に翳して軽く回して色を確認したり、匂いを改題する。
「これも美味しそうだな」
「ええ、そうね」
その結果、とても高級な酒と同レベルの質がありそうで、悪くはなさそうな代物だった。
「これもやっぱりあれなんだろうなぁ」
「そうだと思うわ」
しかし、よくよく考えると、今まで出てきたのはモンスターをどうにかした料理ばかり。つまりこれも液体モンスターとか、スライムみたいなモンスターか何かがいて、それから搾り取った液体だろうという推測が出来る。
それによって再び若干飲む気が失せるが、今までの品質を鑑みると、味は全く問題ないんだよなと思い直し、口をつけた。
「美味い」
「美味しい」
リンネも俺と同時にワインを煽り、お互いに感想を漏らす。
この謎過ぎる生態系が沢山あるこの大陸は、超古代文明の技術に近いものが使われているように感じた。食材を含む資源がモンスターとか岩とか植物とかになるとかいくらなんでもファンタジーが過ぎる。
バレッタが何も言わない所を見ると、ここにある超古代文明の遺跡に行けば分かる事なのかもしれないな。
俺はそんなことを考えながら、姿焼き料理に舌鼓を打つのであった。
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