第298話 牧場の主
「こんにちはー!!」
俺たちはぞろぞろと連れだってログハウスが建てられている敷地内へと侵入していき、扉を叩いてみる。
すると、中にあった気配が一斉に移動を始め、扉の前に集まってきた。一人が扉の前に立ち、残りの四人は壁の裏側に左右に並ぶ。
「誰だ?」
中から聞こえてきたのは男の声。
「通りすがりの者だが?」
「はぁ!?」
俺が返事をすると、驚く声が聞こえた後、扉が開いた。
「なんだ、お前らは。危うく買い取り業者来たのかと思ったぜ」
中から出てきたのはでっぷりと太り、醜い顔をした中年の男。その男の背中には黒寄りの灰色の鳥のような大きな翼が畳まれていた。俺たちはその分、後ろに下がり、ウッドデッキ位のような部分から外に降りる。
これが天翼族か。やっぱり結構鳥人族と似ているな。でもそれを言うと烈火のごとく怒るらしいから止めておこう。
「俺達は旅行者だ。この大陸には初めて来たんでな。この辺りの事を教えてもらおうと思ってな」
「初めてきただぁ?」
俺がここに来た理由を述べると、片方の眉毛を器用に吊り上げる。そして、訝しがる様子であごに手を当てながら俺達を値踏みするように観察してきた。
「ははーん。お前ら地上からきた羽無しかぁ。こりゃあちょうどいい」
俺達に羽が無い事に気付いた途端、虫を見るような侮蔑を含んだ目で俺達を見下ろす男。
全く……羽がないだけで見下すなんて。
「ん?何がちょうどいいんだ?」
「口ごたえすんじゃねぇ!!この羽無しども!!お前ら出てこい!!羽無しが奴隷になりに来たぞ!!」
俺が質問すると、それに聞く耳を持つことも無く、後ろに並んでいた男達が外に現れる。
「お、ホントか?」
「おお、羽がないな」
「羽がないけど飼ってやっていいくらい良い女がいるじゃねぇか」
「俺はあっちの女が良い」
四人の男もリーダー同様、羽が黒寄りの灰色で、醜い顔をしていた。
「奴隷に落としたら好きにして構わん。やれ」
『へーい』
ニヤニヤした気持ちの悪い笑みを浮かべてこちらにやってくる四人。
こいつらは一体何を言ってるんだ!?
俺は思わずブチ切れる。
「あ゛あ゛ん?お前ら一体誰にそんな口きいてんだ?それになんだって?俺の女と部下に手を出すだぁ!?上等じゃねぇか!!生きてきたことを後悔させてやる!!」
「羽無しに何が出来るんだ?空も飛べねぇくせによぉ」
男たちは啖呵を切る俺を鼻で笑い、折り畳んでいた羽を広げて羽ばたかせ、空へと上昇していく。そして数十メートル程の高度でくるりと回転して俺たちの方に向きなおった。
そこで落としてやっても良かったが、一瞬くらいは絶対的に優位にあると勘違いさせてから落とさないと面白くない。
「お前ら、やっちまえ!!」
『うっす!!』
敵のリーダー格らしい男の号令従って、他の四人が風系統の魔法を使用してきた。
―キンキンキンキンッ
しかし、インフィレーネの障壁によって阻まれてしまう。
「な、なにぃ!?」
「なんだ?それだけか?」
自分たちの攻撃が全く効かなくて驚く敵リーダー。
俺はニヤリと笑って煽る。
「まだまだこれからだ!!羽無し風情が舐めるなよ!!やれ!!」
次に放ってきたのは炎の魔法インフェルノ。五人分の炎の柱がまとまって一本の極太な炎となって俺達に降り注ぐ。
「ぐははははっ。これで羽無しどもも一溜まりもあるまい!!」
高笑いしてはしゃぐ敵リーダー。俺たちはというと、結界内であくびをしていた。
「ば、ばかな!?」
炎の噴射が止まり、炎が晴れて俺たちが無傷で姿を現すと、敵リーダーは信じられないという表情を浮かべて叫んだ。
「全然届いてないぞ~」
「くそっ!!バカにしおって!!とっておきを見せてやる!!やるぞ!!」
俺たちが皆呆れるような表情で見ていると、敵リーダーが顔を真っ赤にして何やら唱え始め、バチバチという稲光が走り、十メートルを超える巨大な光球が五人の頭上に生成されていく。
『ボルテックスストーム!!』
最大まで大きくなった後、全員で魔法名を叫んだ。
―ゴォオオオオオオオオッ!!
すさまじい轟音と共に俺達に雷が降り注ぐ。
―ドォオオオオオオオオオンッ!!
俺達―障壁―にぶつかりすさまじい音を鳴らし、その場で弾ける雷。
その凄まじい威力に、辺りに煙が立ち込める。
「はぁ……はぁ……ふはははははははっ。流石にこれで跡形も残るまい……はぁ……はぁ」
息を上げて勝ち誇る敵リーダー。
しかし、その顔も煙が晴れるまで。
「な!?そ、そんなことが、あ、ありえるか!?」
「うぃーっす」
『うぃーっす』
俺が手をあげて驚愕の表情の敵リーダーに挨拶すると、他の皆も真似をして同じ仕草をする。
もうそろそろいいだろう。
俺は浮かび上がって敵リーダーと同じ位置に辿り着いた。
「え?な?は?」
「そろそろ満足したか?」
絶賛混乱中の敵リーダーにニヤリと笑いかける。
今起こっていることが理解できなくて表情が変わりすぎて面白い。
「え?なんで……?」
「何が?」
「なんで羽無しが空を?」
敵リーダーが冷や汗を流して怯えながら俺に尋ねるので、俺は首を傾げて問い返すと、俺達が空を飛んでいるのが余程不思議らしい。
飛べないなんて言った覚えないのにな。
「いつ飛べないって言ったんだ?まぁいい。しばらく大人しくしてろ」
『ギャッ』
これ以上面白い事にはならなそうなので、五人を殴って意識を失った。
そのままだと落ちてしまうのでインフィレーネの障壁で支える。
一応殺すのは微妙なので気絶にとどめておいた。
後で情報を聞き出そう。
俺はリンネ達がいる場所へと下降した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます