第275話 観光地巡り 後編
「次はここだよ!!」
ラムが次に俺たちを連れてきたのは、何の変哲もない広場。広場を囲うように喫茶店やレストランが円形に並んでいた。
「ここねぇ、ライトシャワー広場っていうの。いつも同じ時間に面白いものが見れるんだよ!!今日はもうすぐだよ」
「そうなのか、楽しみだな」
「そうね!!」
ラムが自身をもって進めるので俺たちは近くの喫茶店のテラス席で広場を眺める。同じ店や他の店含むテラス席には俺たち以外にも多くの人が座っていて、皆広場を注目していた。
「あ、はじまるよ」
俺達と一緒に座っていたラムが何かを感じ取ったのか、さっきまで俺達が買ってやったカフェラテをコクコクと飲んでいたが、急に顔を上げてふと呟いた。
どうやら何かが始まるらしい。
―プシャー!!
ラムが呟いたすぐ後に広場の中心に数十メートルの水柱が上がった。その水柱に合わせるようにその周囲数メートル程離れた場所に次々と螺旋階段を描くように水柱が上がる。そして空中で大なり小なりの水球へと変化し、地面からだけでなく、水球と水球の間にも水柱が走って、それはそれは摩訶不思議な光景を生み出していた。
何らかの音楽を奏でているのではないかというほどにリズミカルに飛び出す水柱と水球のコラボレーションは、オペラでも見ているような気分になった。
「キレイねぇ……」
「そうだな。やっぱりこの街は不思議だらけだ」
俺とリンネはその光景に魅了され、しばしの間言葉を失いつつ、その光景に見入っていた。
「次はここだよ~」
お次にやってきたのは、メインの一番大きな水路にかかる橋。しかし、その橋も只の橋ではなく、水で出来ていた。
しかもトンネル型で中を歩いて渡ることができるらしい。不思議そうにきょろきょろと辺りを見回す人と、スタスタと当たり前のことのようにその水の橋を渡る人に別れ、観光客とここに住んでいる人を明確に分けている。
「これまた不思議な橋が出てきたな」
「ホントね。水龍の回廊ってダンジョンに少し似ているわね。あそこではこういう橋と同じような道をずっと進んでいくわ」
「この橋はねぇ。水路にいくつもかかっている橋の中で、一番美しいって言われてるんだよ」
「へぇ、そうなのね」
外側が水にも関わらず精緻な模様を描いていて、非常に美しいアーチを描いていた。この大きな水路に何個も橋が架かっているが、ほかに見える橋より確かに美しさを感じた。
「最後はここ~」
「ここは水路の上だぞ?」
「いいのぉ~」
水路を移動しての観光でもうすぐ日も暮れるので本日最後の観光スポットに連れてきてもらった。そこは一番太い水路だった。メグが河口に向かってゆっくりと進んでいく。
俺は不思議に思ってラムに尋ねるが、間違っていないらしい。
「一体ここで何が見れるんだろうか?」
「ふふふーん。それはお楽しみだよぉ~」
「キュルルルルルッ(先に行けば分かるわよ)」
ラムが得意げに胸を張ると、メグもそれに合わせるように鳴いた。
そういうなら大人しくゴンドラに乗って待ちますか。
俺たちは暫くの間ゴンドラで揺られていると、大きくカーブする部分に差し掛かる。そこに来て気づく。太陽が沈みかけて街並みを照らし、その光で街そのものが金色に輝き、徐々に海が顔を出す。
海も黄金色に輝いていて所々揺らめいて、その黄金の道が水平線に沈む太陽まで続いていた。
「これは……」
「ええ……」
その光景は思わず黙るには十分な程綺麗で、心のアルバムに刻み込まれた。
「ふぅ……ラム今日はありがとな」
「そうね、ありがとね。とてもいい体験ができたわ」
「えへへ~」
俺達は観光を終えて宿に戻り、今日の余韻に浸りながらラムの頭を撫でる。ラムは嬉しそうに俺とリンネに撫でられ、なすがままにされている。
今日はラムに頼んで本当に良かった。ラムは絶対いい案内人になれると思う。まぁ案内人にならないかもしれないけど。
めちゃくちゃこの街の良い所を見させてもらった。これは一生忘れられない思い出になると思うし、またこの街に来たいと思わせられた。
これをラムが狙ったのなら脱帽だ。
「また明日も頼むな」
「うん、任せて!!」
撫でられながらラムはニカッと笑って頷く。次の日から二日間、ラムの案内で町中を巡り歩いた。一日目と同様に大満足する内容だった。
俺たちはお祭りを除いてヴェーネを満喫しきった。
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