第276話 水の神の正体

「ラム、他にこの街の見どころって何かあるか?」

「うーん。海底神殿も観光客の人は良く見に行くけど、今はお祭りあるから海に行っちゃダメなの」


 ラムは見どころを教えてくれるが、今は立ち入り禁止らしい。


「そういえば、水の神を祀っているんだったか。でもあの竜の像。どっかで見たことがあるような気がするんだよなぁ」

「そういえば確かにそんな気がするわね」


 寺院に祀ってあった像を見た時なんだか実際に見たことがあるような、そんなデジャヴみたいな感覚に陥った。


 俺とリンネは二人して腕を組んでウンウンと唸って考える。


 海……。


 海と言えば思い出すのは船旅。船旅と言えばドワーフと乗った船。船とクラーケン。そして宴の時に出会ったのが……。


『あ!!』


 俺とリンネの声が重なり、お互いに顔を見合わせて笑った。


「どうする?」

「せーので言いましょ」

「そうだな」


 リンネと俺はタイミングを合わせ一緒に答え合わせをすることにする。


『せーの……リヴァイアサン!!!!』


 思った通り俺達が考えた内容は同じだった。


 そうそう、あの水の神って像がリヴァイアサンにそっくりだったのだ。


 リヴァイアサンとは、俺達が獣王国からドワーフ王国にわたる際、船で海を渡ったんだが、その途中でクラーケンに襲われて討伐した後の宴をしている最中に、料理の匂いに釣られて船の傍に顔を出した、所謂シーサーペントと呼ばれるモンスターを数倍は大きくしたような生物だ。


 あの時、俺達とリヴァイアサンは意気投合して、特に必要があったわけではないが、船を護衛してもらってドワーフの国まで渡ったのである。


「おねぇちゃんとおじさんはいつも仲良しだねぇ」

「そりゃあ夫婦だからな」

「夫婦?」

「ラムのお父さんとお母さんみたいな関係ってことだ」

「そうなんだ!!それじゃあ子供も生まれるの?」

『~!?』


 俺とリンネの会話をぼんやり眺めていたラムがそんなことを言うもんだから俺とリンネはビックリしてお互いの顔を見合わせてしまった。


「いや、まだ生まれないぞ」

「まぁでも……その内生まれると思うわよ?」


 なんとかそんな風に返す俺達。


「そうなんだ。じゃあ生まれたら会わせてね!!」

「勿論だ。ラムには世話になったからな」

「やったぁ!!楽しみ!!」


 俺達の答えに楽しそうに喜ぶラムに水を差すことはせず、もし出来た時にはラムが大きくなっていたとしても会わせてやろうと思った。


 なにせ俺とリンネではいつ子供ができるか分からないからな。リンネは人の姿形をしているけど、多くの種族の遺伝子が混ざっているらしいから中々すぐにはできないって言われているし。


 バレッタに頼れば簡単に妊娠させたりできるんだろうけど、そこで頼るのは何か違うと思うしな。妊娠は自然に任せるのが一番だと思う。


「なぁラム。神様を呼び出せるって言ったらどう思う?」

「えぇ~!?すっごーい!!」

「嘘だと思わないのか?」

「え、嘘なの?」

「いや、そうじゃないけどな?」


 やはり子供だからなんだろうな。


 俺が荒唐無稽な事を言ってもラムは信じてくれる。


 俺たちはリヴァイアサンと別れる際に、リヴァイアサンから角笛のようなものを受け取っていた。その角笛はリヴァイアサンを呼ぶための道具だと教えられている。だから、それを使えば町の近くまで来るのは難しいかもしれないが、ある程度近くまでは来れると思う。


 その際、津波対策は必須だがな。ちょっと動くだけで津波が生まれるくらいには巨大だからな。そのせいで街が沈没しました、とかなったら目も当てられない。


「呼び出したら街の皆は喜んでくれると思うか?」

「うん!!毎年お祈りしてるもん!!」


 俺の質問にラムは真っすぐに答える。


 信仰対象ということもあって、ここに住んでいる人達は熱心にお祈りしているらしい。確かに俺達が寺院行った時も観光客以外の信者が結構参拝していた。


 それほど信心深いなら本物にぜひ会いたいものだろう。


「そっか。そしたらお祭りの時に俺が呼び出してやるよ」

「わぁー!!今年のお祭りはもっと盛り上がるね!!」

「そうだろうな」


 ラムは純粋に楽しみにしているが、本物の神が降臨したとなれば町が大騒ぎになるだろう。特にこの宗教のトップなどがいれば大問題だろうが、水の神は宗教というよりは土着の信仰に近いので、宗教組織があるわけじゃない。


 だから話を通すならこの街のお偉方で問題ないだろう。


「ラム、俺達ちょっとギルドに行ってくるな?」

「わかったぁ!!いってらっしゃーい!!」


 俺達はラムに行き先を告げて、宿を出発した。

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