第274話 観光地巡り 中編
俺達は一般公開されている寺院の中に入る。
中は確かに寺院形をしているんだが、使われている素材が水だけに、緩やかに流れていたり、こちらから外が薄らと見えたりと非常に不思議な内部構造をしていた。
「空中に浮かぶ水流と同じ技術で作られているっぽいな」
「そうね。確かに似てるわね」
俺とリンネが内部のあちこちを眺めながら確認し合う。
「私には当たり前なんだけどなぁ」
ラムがそんな事を言いながら俺たちを見上げた。
確かにこの街から出たことがない人間にとってはこれが当たり前なんだろうな。日本でだってそう言うことは沢山あるから、異世界だと全く常識じゃないレベル事を常識だと思ってしまうってことはありそうだ。今回の件みたいに。
「そんなこと言うけどな、これってここでしか見れないんだぞ?」
「そうなの?」
俺がラムに諭すように囁くと、ラムは不思議そうに首を傾げる。
「ああ。俺とリンネは結構沢山の国を見てきだけど、こんなの見たことないぞ?な?」
「ええ、少なくとも街の中がこんな風になっている街は生きて来た中で見たことないわ」
俺に話を振られたリンネは、過去を思い出しながらラムに答えてやる。
俺以上に沢山の国や街を見て来たはずだからな。いろんな事を知っているだろう。
「へぇ〜、お姉ちゃんは沢山の国を見て来たの?」
ラムは興味深そうにリンネに顔を向けた。
「ええ、私は冒険者だからね。世界中を旅して来たわ。面白い物や見たことがない物が沢山あったわよ?そして私は面白い物を見るために世界を回ってるからね。これからももっと楽しい事を見つけてみせるわ!!」
「面白そう!!私も大きくなったら冒険者になろうかなぁ!!」
リンネがワクワクしながら語るので、ラムも興味を持ってしまったらしい。これはもしかしたらレイムには悪いことをしてしまったかもしれない。
ただ、ラムは女の子。冒険者は実力がモノをいう世界。しかも男が圧倒的に多い。そんな中で女の子一人が自分の身を守りながら生きて行くのは本当に大変だ。
「いいと思うわ」
リンネは一言呟く。
「たぁだぁし、これくらいは出来るようにならないと男達に勝てないわよ?」
「え?」
リンネが一呼吸置いて呟いた後、消えた……ようにラムには見えたようだ。ラムは間抜けな顔をしている。
子供の上に一般人のラムには、手加減しているとは言え、リンネの動きは見えはしないだろう。
「後ろよ」
「うひゃあ!?」
リンネがラムの後ろから肩を叩くと、ラムが飛び上がって驚く。
いつの間にかリンネが消えて、突然後ろに現れたように見えれば驚くのも無理はない。
「……いつ移動したの?」
しばらくして落ち着いたラムがリンネに尋ねる。
「私はほんのちょっとだけ早く動いただけよ」
「すっごーい!!」
リンネがウインクしながら宣うと、ラムは今度は喜びを含んだ驚きでぴょんぴょん飛び跳ねた。
ラムは物凄く素直で可愛いな。
「いい?このくらいは出来るようにならないとなっちゃダメよ?」
「わかったぁ!!私頑張るね!!」
リンネが目線が合わせて言い聞かせるように言うが、ラムはニコニコと笑い、体の前で拳を握って答えた。フンスと鼻息を荒くしてやる気を漲らせている。
こりゃあ本格的にレイムには悪いことをしたかもしれない。しかし、レイムを説得するのも、冒険に行く訓練もラムが頑張らなければならない。そこに俺達が力を貸すことは出来ない。
「しょうがないわね……。私がたまに見にきてあげるわ」
「やったぁ!!絶対だよ!!」
「分かってるわ。でも私が来た時のために強くなる訓練をどこかの施設で始めるのよ?」
リンネがレイムに悪いと思ったのか、たまに強くなってるかどうかの確認をしに来ると約束すると、ラムは飛び跳ねた後でリンネに抱き着いた。
「はーい」
上目遣いで念押しして返事をもらうとにこやかな笑顔を浮かべるラム。
「それじゃあ続きを見ましょ」
「うん!!案内してしてあげる!!」
リンネがラムの頭を撫でて促すと、ラムはリンネから離れて俺達を先導し始めた。それから俺たちはラムの先導の下、寺院の中の一般公開している部分を順繰り回って観覧し終える。
中でも水の影の濃淡のみで描かれた絵画やステンドグラス風に採光している窓っぽい部分がとても幻想的で感動した。
俺たちはゴンドラに揺られ、次の目的地へと進んでいった。
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