第271話 異世界×異国
「なんだか、最初から注目されて居心地悪いな」
「アルクィナスはなんだかんだ特別だからね。それ以外の街ではSSSランクはこういう扱いだから慣れておきなさいよ」
「へいへい」
俺達が橋の上の街でもそうだったが、町の中に入ると誰もが俺達に注目してきて気になる。
じっと凝視されながらご飯を食べているみたいな気分だ。リンネは慣れているせいか全く気にした様子はない。地球の芸能人たちもこんな気分だったんだろうか。それなら確かにプライベートはそっとしておいて欲しいという気持ちが凄く分かる。
そんなことはさておき、中に入って間近で空中を流れる川や、ふよふよと漂う球体の水たまりが非常に幻想的な世界を作り上げている。どこかヴェネツィアに似た街の造りも相まって、異世界と海外の雰囲気を同時に味わったような気分になった。
「それじゃあ、まずは宿を頼むか?」
「そうね、それが良いと思うわ」
ここは観光地。宿は大目に作られているだろうが、早めに取っておくに越したことはない。
「ねぇねぇ、おじさんとお姉さん」
リンネと話をしていると、小さな女の子が話しかけていた。誰もが俺達を遠巻きにしている中、トテトテと近づいてきたのである。
「ん、どうした?」
「宿屋探してるの?」
「ん?そうだな。これから探すつもりだったんだ」
「この時期はどこもいっぱいだよ?」
「そうなのか?」
「うん、海の神様をまつるお祭りがあるから人がいっぱいなの」
確かに人が多いとは思ったが、そういう理由があったか。
そこまで調べてはなかったので、その時期に当たってよかったというか、悪かったというか。でも、その祭りが体験できるということは運が良かったということなんだろうな。
「うーん、そっか。高い宿なら空いてるかと思ったが、難しいか」
「うん。だから……」
女の子がもじもじして恥ずかしそうに言いよどむ。
「私の家に泊まりませんか!?」
それから意を決して俺達に女の子はそう言った。
「あなたの家は宿屋なの?」
「うん、一組キャンセルがあったからちょうど空いてるの」
リンネが尋ねると、女の子が俺たちを誘った理由を述べた。
なるほどな。ちょっとでも家の役に立ちかったのかもしれない。現状どんな宿屋か分からないから何とも言えないけど、見て見るくらいはしてもいいか。
「うーん、宿屋次第としか言えないな。行ってみてからでもいいか?」
「うん、もちろん!!」
女の子は俺の返事にパァッと笑顔の花を咲かせて飛び跳ねた。
「それじゃあ、案内してくれ」
「わかったぁ。あ、私はラム。よろしくね」
「おう。よろしくな。俺はケンゴ。こっちはリンネだ」
「よろしくね」
俺達は挨拶を交わした後、女の子の先導で道を歩く。しばらくすると、水路に辿り着いた。
「ここは水路みたいだけど、どうするのかしら?」
「ここに家の船があるんだよ?」
女の子は先導しながら振り返って、リンネの質問に答えた後、ずらりと並ぶゴンドラの中の一つの前に辿り着き、紹介するように腕全体でそのゴンドラを指し示す。
「これがウチのゴンドラ」
「ラムが操作するのか?」
「まっさかぁ!!メグ!!」
俺が疑問に思ってラムに尋ねると、少し小ばかにするような笑みを浮かべて名前らしきものを呼んだ。
「キュゥウウウウ」
すると、ゴンドラの先に水路から超小型の水竜のような生き物が顔を出した。しかもその一匹を皮切りに他の竜たちもザバリと顔を出す。その光景は圧巻だった。
「この子はメグ。私の家で飼ってるの」
「メグが船を曳いてくれるのか?」
「そうだよ。さぁ乗って?」
メグはぴょんと先に船に乗り込むと手を差し出すようにして船に誘う。俺とリンネは船を揺らさないように意識して静かに飛び乗った。
「すっごーい。どうやってるの!?」
俺達が飛び乗っても船を揺らさなかったことに驚くラム。ラムは俺たちの話の夢中になってしまった。メグはそんなラムを見てヤレヤレと言った顔で自分の判断で船を曳き始める。
俺たちはしばしの間、メグの相手をしながら船に揺られ、ファンタジーと異国情緒あふれる街並みを堪能するのであった。
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