第270話 水の都へ
「にゃーん(ばいばーい)」
次の日の朝、イナホは満足して帰っていった。
全く欲望に忠実な奴である。
ヴァレンティーナは、水の国というだけあって河川や湖などが非常に豊か、というよりは過剰なくらいの国だった。
河川や湖が多いにも関わらず、それぞれが長い年月をかけても融合することもなく存在し続けているのは謎である。きっとファンタジーの魔法的な何かでそうなっているに違いない。
集落もその畔に出来ていることが多く、住民が水棲のモンスターを手懐け、飼いならして暮らしていた。
その住人は上半身が魚類や両生類の姿をした魚人や下半身が魚類の人魚、体がスライムのような液体で出来ている魔族、そして人間が共存している不思議な国だった。
「この世界は人間だけって国はほとんどないんだな」
「そうね。こないだ行ったヒュマルス王国と神聖アールナト皇国。……そしてグラン帝国の三つくらいじゃないかしら?ヒュマルス王国やグラン帝国は奴隷という意味では人間じゃない種族もいるし、実質神聖アールナト皇国だけね、人間しか住んでいないという国は。小国にもいくつかあるのかもしれないけど、私も流石に全ての国に行ったことがあるわけじゃないから分からないわね」
「そうなのか……」
思った以上にこの世界の人間は、他のラノベのように世界中で繁殖し、世界最大数の種族になっている、ということはあまりないらしい。
「お、ようやく全貌が見えてきたな」
「あれがヴァレンティーナの首都ヴェーネね!!聞いたことはあったけど、とても幻想的な街だわ」
先ほどまで豆粒のように見えていたヴェーネだが、今や街全体がどのようになっているかみることが出来る。まちは半透明の青色の膜に街全体が覆われていて、小さな球体に覆われたジオラマが、そのまま大きくなったような形をしていた。
さらに中には街の上空の至る所に球体らしい水が浮かび、その間を水の川が走っている。他の国や街でも大なり小なりファンタジー要素は有れど、ここまで日本の常識を逸脱した街は初めてだった。
リンネは話に聞いたことはあったみたいだが、来るのは初めてのようで目をキラキラと輝かせていた。眩い太陽に照らされて金瀑布のごときその金髪を燦燦と煌めかせ、その深い赤い瞳に好奇心を宿した姿は、まるで全ての男を魅了する、美女神が降臨したようだった。
「見て見て!!空に川があるわよ?どうやって浮いてるのかしら?不思議ねぇ!?」
「ケンゴ!!あの膜も水で出来ていて、城壁の代わりの役目をはたしているらしいわ!!どうやって維持しているのかしら?」
リンネは俺に興奮気味に話しかける。その無邪気な姿がまた俺を虜にする。
へへへ、俺の嫁可愛すぎるな。
俺はそんな彼女の隣にいられることを心の中で誰とも知らない人々に自慢した。
『爆発しろ!!』
そんな声が聞こえたような気がしないでもないが、おそらく気のせいだろう。
街はどんどん大きくなり、より鮮明に見えるようになってくる。街道の先には、水のドームの一部を切り取るように城門が建っていて、訪問者達はそこを潜ることで街の中に入るらしい。
「クルルルルゥウウウウウウウウウウ!!」
「ファイヤーバードが出たぞぉおおおお!!」
しかし、もうすぐ門に辿り着くというところで、モンスターの声と誰かの声によって俺たちの気分が台無しになる。
辺りの様子を見ると、慌てている人とそうでもない人に分かれていた。おそらく初めてこの街を訪れる者とそうではない者なんじゃないだろうか。
「あの糞鳥。ぶっ殺してやるわ!!」
「まぁまぁ落ち着けって。もしかしたら面白いものが見れるかもしれないし、少し様子を見よう」
「ケンゴが言うなら仕方ないわね……」
リンネが空に浮かぶ真っ赤な鳥を睨みつけて剣を抜こうとするが、俺は何が起こるか見て見たいので宥めて止めさせた。
「ピィイイイイイイイヒョロロロロロロ!!」
ファイヤーバードが急降下して俺たちのような旅行者か何かに襲い掛かろうとした。
「うわぁあああああ助けてくれぇえええええ!!」
その人物が助けを求めるが、誰も動かない。
そう動く必要がなかった。
「ビィイイイイイイイ!!」
急降下してきたファイヤーバードは水の串にめった刺しにされたのだ。
「へぇ。ああいう風にして街や人を守るのか」
「ホント不思議で面白い街ね」
「そうだな」
いざとなれば動くつもりでいた俺達だが、全くの杞憂で問題なかった。
「助……かった……?」
助かった当の本人だけが困惑で呆然としていた。
「S、S、SSSランク冒険者、ケンゴ様、リンネ様、水の都ヴェーネへ、よ、ようこそ!!」
『よ、ようこそ!!』
その後俺たちは、滅茶苦茶緊張されながらも快く街に入場することができた。
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