第265話 熱風襲来
『ありがとうございましたぁ!!』
それからさらに一週間。店は繁盛を続け、行列で町中で迷惑が発生してしまうほどになってしまった。
俺は仕方なく、営業後に両方の店を魔法で敷地目いっぱいに広げ、商店の方は食材のジャンルによって二階も売り場を広げ、食事処は二階にも席を用意するようにした。
しかし、そこで問題になってくるのが従業員の数。今の状態では正直全く回らない。
俺がいた頃の日本のようにタブレットで注文させる、という選択肢もあるが、あまりになじみがなさ過ぎて慣れるのに多大な時間がかかるだろうし、他の店のシステムと違いすぎると受け入れにくいだろう。
だから従業員を増やしたいんだが、今のところ当てがない。
「ケンゴ様ぁあああああああ!!」
「リンネ様ぁあああああああ!!」
そんなことを考えていると、店の外からなじみ深い暑苦しい声が聞こえてきた。
「はぁ……あいつら何しに来たんだ?」
俺は一人残業で店を拡張したり整えたりしていた作業を止め、店の外に出ると、森林守備隊の面々が十人程やってきていた。
「よぉ。ここには俺しかないぞ?」
「おお!!ケンゴ様!!我ら元森林守備隊一同参上いたしました」
俺が全員の前に立つと、既に薄暗い店の前で全員が片膝をついて頭を下げる。
ホントそういうの止めてほしい。
言っても聞かないからどうしようもないけど。
「まず目立つからさっさと立て」
『はっ』
俺が指示を出すと全員が立ち上がった。
毎回毎回忠誠心が高すぎるんだよ。
「何しに来たんだよ。お前たちの仕事は森を守ることだろ」
「ちっちっち。違います。リンネ様、そしてその伴侶たりケンゴ様の生活を全面的にサポートするのが私たちの仕事です」
いやいや、お前らの答えおかしいからな。
森林守備隊なんだから森林を守るのが仕事なんだよ!!
「特にお前たちがするような仕事はない。帰れ」
「全く……ケンゴ様も水臭い。従業員が足りないのなら私どもに言ってくださればすぐに駆け付けましたのに」
俺が素気無くあしらうと、代表して隊長が話をしながら、全員でヤレヤレと呆れるような仕草をとった。
なんで俺が呆れられてんの!?
こっちが呆れてんだよ!!
「いや、お前たちは森林守備隊はどうしたんだよ……」
「辞めました」
「辞めましたじゃねぇよ!!」
俺は内心を隠しつつも疲れた表情で彼らに尋ねると、あまりに清々しい表情で簡単に言うので、思わず突っ込みを入れてしまった。
こいつらなんとかしないと……。
「森林守備隊、改め剣神夫妻を守り隊となりましたのでよろしくお願いします」
「人の話を聞け」
「いつからどんな仕事をすればよろしいのでしょうか」
全く人の話が聞こえていない。
もう手遅れみたいだ……。
「おーい、アレナは何て言ったんだ?」
「幸せならOKです、だそうです」
アレナは良いって言ってんのかよ。
結婚祝いか何かのつもりか?
全くはた迷惑なご祝犠だ。
「全く都合のいい時は聞こえるんだな、その耳は」
その長い耳は飾りなのかぁ!?
「お褒めいただき光栄です」
「褒めてねぇ!!はぁ……まぁいい。アレナが良いって言うなら雇ってやる」
何を言っても暖簾に腕押しで意味をなさない。
俺はこれ以上付き合っても埒が明かないし、上司の許可も取れていると言うので仕方なく許可することにした。
「本当ですか!?」
「ああ。だが、仕事はめちゃくちゃ忙しいから覚悟しておけよ」
「任せてください。なぁ皆!!」
『おう!!』
嬉しさで目を見開く彼らに意地の悪い笑みを浮かべて脅しをかけておくが、隊長の呼びかけに隊員たちが夜にもかかわらず大きな声で叫んだ。
「うるさい」
『申し訳ございませんでした』
俺が怒気を含んだ声色で呟くと彼らは近隣の人に頭を下げた。
こうして俺は森林守備隊もとい、剣神夫妻を守り隊のエルフの面々を更なる従業員として招き入れることになった。彼らは言動こそアレだが、店の接客では大いに役立ってくれたので、良しとしておいた。
しばらく働くと俺とリンネが抜けても問題なく、店は回るようになっていった。俺たちはオーナーとして経営に参加していくことが多くなり、最終的には殆ど仕事がなくなってしまった。
今では週に一度くらい顔を出せばいい程度。俺は店を高校生メンバーと彼らにほぼ完全に任せることにした。
商店側の店長はカエデ。『剣神』の店長はパンツちゃん。
「主君よ、任せておけ」
「おじさん私頑張るね」
二人は快く引き受けてくれた。
こうして予てより考えていた計画を実行に移すことに決めた。
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