第264話 進撃のパンツちゃん
『剣神』オープンから一週間、元々の商店の評判や俺達の知名度からやってきた客達も、地球産の料理たちの虜になったおかげで、大変繁盛していた。
商店の方に新人を四人入れて俺とカエデの六人体制プラス子供たち、食事処の方は新人六人とリンネの七人体制で営業を始めた。パンツちゃんは食事処で接客をしている。
食事処にはしばらく教育係としてバレッタも入っていた。彼女の教育によって高校生たちはあっという間に接客を覚え、今では完全にその仕事をこなしている。
裏方に関しては、商店同様ほとんど自動で行ってくれるので、リンネか俺が軽くチェックすれば済む。正直異世界でも地球でも、既存の店の運営に喧嘩を売ってるようなシステムを導入しているが、特に誰かに言うことでもないしバレることもない。
ごくまれに探ろうと侵入を試みる人間や窃盗に入ろうとする人間もいるが、迎撃システムによってすぐにお縄となって詰め所に送られていくので、何も問題はない。
「ちょっと、あっちの様子見てくるな?」
「うむ。気を付けてな」
特に問題はないと思うが、俺は落ち着いた時間を見計らって、『剣神』の様子を眺めにいく。オープンしてまだ一週間、何か不慮の事故が起こったりする可能性は十分にある。
「きゃぁあああああああ!!」
案の定、店に向かうと悲鳴が聞こえたのですぐに店内へと足を踏み入れる。
「ぐふっ」
しかし、そこで見た光景は、ガラの悪そうな男がパンツちゃんに殴り飛ばされているシーンだった。
「いいぞぉ嬢ちゃん!!」
「もっとやったれぇ!!」
「ここがどんな店かもわからない奴は分かるまで体に教え込んでやれぇ!!」
昼間っからウチで酒を飲む他の冒険者たちからヤジが飛ぶ。
「あいつリンネ様と剣神の店の従業員に手を出そうとするなんて命知らずもいいところだよな」
「ホントだよ、最近ここに来たばかりの新参者じゃないのか?」
「ああ、そうかもな。ここを拠点にしている奴らでこの店の主が誰か知らない奴なんていないからな」
他の冒険者たちは野次は飛ばさないが、パンツちゃんに殴り飛ばされた男を見て噂をしている。
「てめぇ、よくもやってくれたな」
殴り飛ばされた男は切れた口元をぬぐって起き上がってパンツちゃんを睨みつける。対するパンツちゃんは表情こそあまり変わらないが、憤怒の怒りが体中からにじみ出ていたので、俺は割り込むことなく、傍観者を決め込む。
「お前わかってんのか?俺は客だぞ?それもCランク冒険者の。痛い目を見ないうちに俺の言う通りにした方がいいんじゃないか?」
ヘラヘラとパンツちゃんを見下すようないやらしい笑みを浮かべながら男が脅そうとしている。
「あいつバカだな……」
「ここの従業員たちのことを何もわかっちゃいねぇ」
「あいつ死んだわ」
他の客は顔の手を当てて男の冥福を祈る者や面白がるものばかりだ。
いやまぁ彼らの言う通りあいつはもう終わりだけど。
俺はついでに店の防犯システムを一時的に切っておいた。
「あなたはお客様じゃない、ただの迷惑な女の敵よ」
「言わせておけば!!もう許さねぇ!!」
素気無くあしらうパンツちゃん。その態度が気に食わなかったのか男は遂に剣を抜いた。
普通なら助けに入るところだろうが、パンツちゃんもやる気なので、割って入るのは無粋ってもんだろう。
「かかってくれば?」
「調子に乗りやがって!!後悔するなよ!!」
挑発するように手招きするパンツちゃんに、男は勢いよく剣を振りかぶり、パンツちゃんに襲い掛かる。
「後悔なんてするはずないじゃない」
襲い掛かってくる男を静かに見据えてパンツちゃんが呟く。怒気を含んだ瞳で男を見据えると、特別な格闘術をたしなんだ者の構えをとった。
―ヒュンッ
パンツちゃんは男の剣を紙一重で躱す。
「はっ!!」
そしてその空いたどてっぱらに思いきり拳を叩き込んだ。バリバリと雷でも走るような音と共に男の来ていた鎧が割れ、男の生身の体に拳が突き刺される。
「ぐぁあああああああああ!!ぐへっ!!」
男は店内の壁にクリーンヒット。普通の店なら壁が壊れるだろうが、この店は付与魔法の力で無傷だ。男はそのままぐったりと床に落ちてとその場にへたり込んだ。
「だって、私負けないもの」
フンっとそっぽ向いて腕を組むパンツちゃん。そのポーズはクール系の彼女に良く似合っていた。そして店内には喝采と口笛が鳴り響いた。
「お疲れ様」
「あ、おじさん」
俺は頃合いを見てパンツちゃんの元に近寄ると、パンツちゃんも俺に気付く。
「見ていたんですか?」
「ああ、いい戦いだったぞ」
問われた俺はニヤリと笑みを浮かべてサムズアップで答える。
「なんで助けてくれなかったんですか?」
「いや、君なら助けなんていらないだろう。戦いたそうだったし」
なおも尋ねる彼女に、俺はきょとんして率直に返答した。
「はぁ……全く乙女心がわかってないんですから」
すると、なぜかパンツちゃんに呆れるように首を振られてしまった。
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