第263話 オープン

 それから一ヶ月後後、ついに食事処『剣神』がオープンすることとなった。 


 ははははっ、なんだその名前はって?知らん!!


 名前を皆で考えて出し合ったが決まらず、あみだくじをした結果パンツちゃんが考えた店名になった。


 もう頭の中ではパンツちゃんという事になってしまった。やはり丸宮さんじゃ違和感しかないからな。それよりもなぜ彼女が剣神なんて店名にしたのかは気になるところではある。


 そんなことはともかく、俺たちはこの一ヶ月の間、仕入れ量を増やしたり、高校生達が各々出来る地球の料理のレシピを書いて一つにまとめて試作したり、接客とキッチンに分けてそれぞれの仕事内容の確認したりした。


 ただ、なぜか接客する女の子達の制服が可愛いという理由でミニスカな浴衣っぽいものになり、男の子は作務衣になった。アルクィナスの辺りは比較的通年で暖かく過ごしやすい気候だし、店内の室温管理は完璧なので寒いことはないだろう。


「これ中々可愛いわね?」

「作りましょうか?」

「ええ、お願いね」

「分かりました」


 リンネも魔法忍者カエデの影響か主人公のくノ一っぽい服装に憧れをもっていたので、羨ましそうにしていると、高校生の中で服飾系のスキルを開花させた子が彼女用の制服も作ってくれた。


「ぐへへ、美少女の服を作れるなんて」


 と、なんだかおっさんみたいな女の子だったけど、リンネの我がままだったので特別手当を出してあげたのは当然である。


「オーナーこれどうですか?」

「ん?ああ、似合うと思うぞ?」

「やった!!」


 パンツちゃんが初めて袖を通すと、はしゃいだ子供のように俺に見せびらかしてきたので褒めておく。


 その服を着た女の子達は可愛いが、やはりリンネが着ていると、ひと際目を引くのは仕方がないことだろう。元々人間離れした容姿の彼女が和装すると、そのギャップが物凄く映えて素晴らしい。


 ただ間違いのないように一言言っておくが、これは俺の趣味ではない。俺が何かを言う前に勝手に決まっていたのだ。オーナーである俺の意見も聞かずにリンネが決めてしまっていたのである。


 彼女が決めてしまったのなら俺は何も言うことはない。


 話はそれたが、すでにプレオープンも終え、後は開店を迎えるばかりである。


「皆、この一カ月よく頑張ってくれた。遂にこの店もオープンにこぎつけた。商店に併設されているこの店にはオープン初日から多数のお客様が来る可能性もあるので心しておいてほしい」

『はい!!』


 俺たちは全員を集めて朝礼のように集まって気を引き締める。


「それから特に女性に関しては、酒も提供するので、酔っ払いや素行の悪い冒険者などが絡んできた場合、容赦なくぶっ飛ばしていいからな。ちゃんと録画用の魔道具を使用しているので、攻撃理由もわかってもらえるだろう」


 ここは冒険者の街、荒くれ者の巣窟だ。中には自身の力を背景にして女性に迫るようなアホもいる。そんな奴らは容赦なくボコボコにしていい。


 たまにお客様は神様だ、と客側のくせに声高らかに言う人間がいるが、あれはお店側がもつ心の持ちようであって、客側が言うようなことじゃない。お店のルールも守れない奴は客ですらないのだ。


 そいつらは只営業妨害をしているだけの迷惑な人間である。


『はい!!』


 女の子達の声が滅茶苦茶大きくて覇気を纏っている。


 あれはそんな奴がボコボコにしてやる、という強い意思表示に違いない。

 俺は全く関係ないのにブルブルと体を震わせた。


「それじゃあ、そろそろ開店の時間だ。準備はいいか!!」

『はい!!』

「食事処『剣神』只今より開店だ」


 俺は店の先に出てクローズになっている板を営業状態に変える。外には滅茶苦茶沢山の人が並んでいて、待ちきれないという様子だった。


「食事処『剣神』開店しました!!どうぞお入りください」


 俺はそう言って道を開けると、ぞろぞろと客たちが店内に入っていく。


 中ではリンネが目を光らせているし、大丈夫だろう。俺はリンネを含む彼女たちに店を任せ、すでにオープンしている商店の方に向かった。


『いらっしゃいませ!!食事処『剣神』へようこそ!!』


 俺の背に女の子達の元気いっぱいな声が響いた。

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