第262話 全員まとめて面倒を見る

 高校生組から集まったのは全員で十人。


 商店の従業員用のスペース内にある会議室のような場所に来てもらった。各々口の字に並べられた机の椅子に腰を掛けてもらっている。


 女子が七人で男子が三人。やはり男子連中は冒険者や騎士、兵士などに憧れがあるのか少ない。その分切った張ったの世界が苦手な女の子達が多めということか。


 その中にパンツちゃん、もとい丸宮さんも含まれていた。彼女とは救出に向かって以来全く関わっていなかったが、元気そうで何よりだ。


「えぇっと、君たちが俺の店で働きたいという子達かな?」

「はいそうです」


 高校生たちの中で少しだけ気が強そうな女の子が答えた。


「俺の店は商店と食事処だ。商店の方はすでにオープンしていて、基本的には接客を担当してもらうことになる。食事処は準備中だ。食事処希望の子達は、キッチン担当とフロア担当に分かれてもらうことになると思う。接客が苦手な子達には悪いが、食事処が出来るまでは商店での接客を担当してもらうか、それまで他の所で仕事をしてもらうことになるだろう。これが雇用条件と契約書だ。きちんと内容を確認して、問題なければサインしてくれ。文字は日本語で大丈夫だ」


 俺は一通り話すと、カエデに手伝ってもらって彼らに紙を渡した。


「この紙は日本の物とほとんど変わりませんね」


 気の強そうな女の子はその紙を見るなり、目敏く紙の質について気づいた。


「え、ああ。これは俺が手に入れた力によって造ったものだ。詳細については話すことが出来ない。それは了承しておいてくれ」

「それについては分かりましたが、これも商品として販売できるのではありませんか?」


 彼女は質に付いてはそれ以上聞いてこなかったが、紙を透かせるようにしながら俺に問いかけた。


 それは俺も考えなかったわけではないが、それは既存の紙を扱う商売をしている商人たちへの影響が大きい。廃業に追い込まれたり、そうでなくても大赤字になってしまうような人間もいるだろう。


 それに対して技術を向上させようとしてこないのは怠慢だとか、より便利な商品が世に広まった方がいいに決まっているだとかいう考えをもつ人もいるだろうが、俺は極力そういうことはしたくなかった。


 俺はあくまでその土地で手に入らない物を販売することで利益をあげたいだけなのだ。既存の商品を否定する気なんてさらさらないし、技術向上の意思もない。


「いや、これは商品にするつもりはない。俺は市場を荒らすつもりも、この世界の技術をより高いモノに向上させようなんて気持ちも持ち合わせていないからな」

「そうですか……分かりました。商店の方針まで口を挟んでしまい、すみませんでした」


 俺の考えを聞いた彼女は、それを聞くなり頭を下げる。


「いやいや、気にしないでくれ。自分を客観的に見るのは難しい。今後も何か気づいた事があれば遠慮なく言ってくれ」

「ありがとうございます」


 彼女は礼を言うと、雇用条件と契約書を読み始めた。

 

「できました」

「え?」


 強気の女の子が読み始める頃にサインした契約書を持ってきた少女がいた。丸宮さんだった。


 彼女はそのクールな顔に花が咲いたみたいな笑顔を浮かべて俺に契約書を手渡そうとしている。


「ちゃんと読んだのか?」

「おじさんが私達を騙すわけないじゃないですか。問題ありません」


 俺が訝しげに尋ねると、なぜか全幅の信頼を寄せた返事を返される。


 俺はそこまで信頼されるようなことをした覚えは無いんだが……。

 一体何が起こっているんだ?


『出来ました』


 そのすぐ後に他の面々からも契約書が提出された。彼らも希望に満ちた顔をしている。


 仕方がない全員面倒見てやるか!!


 こうしてやってきた連中を全員雇う事にした。最初からそのつもりだったけどな。

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