第261話 盛況と雇用

「ありがとうございます!!」

「ありがとうな」

「感謝する」

「にゃーん(もっと買ってってねぇ)」


 爛れた生活が明け、家の少し離れた場所にカエデたちの家を作ってあげたり、店舗の準備を整えたりしながら過ごしていた俺達だが、ついに店がオープンした。


 プレオープンで知り合いを呼んで実際に買い物してもらい、足りない部分の洗い出しと本オープンまでに修正できることから修正して開店と相成った。


 当初はこの街で知り合った人たちや知り合いの紹介で来てくれた人がメインだったが、次第にこの街で手に入らない食材や商品が手に入ることが分かると、こぞって人が訪れるようになった。


 本来ではあればバカみたいな輸送費や安全に運ぶための護衛費用などがかかる商品が滅茶苦茶安く手に入るのもウケた要因の一つだった。


 俺が死ねば転移が使えなくなるわけでもなく、後継者にはバレッタ達が手を貸すだろうし、リンネももはや名実ともに俺の身内になったわけだからバレッタは彼女にもきちんと従うだろう。


 そもそも毎日ちびちび食べて延命している俺の寿命がどれほどなのか想像もつかない。即死でない限り治療薬を飲めば治るので、俺が寿命以外で死ぬことがあるのかさえ謎だ。


『ありませんよ』


 そんなバレッタの声が聞こえた気がするが、幻聴だろう。


 話が逸れたが、今や俺の店は俺とリンネとカエデとイナホ、子供たちだけでは回らなくなりそうなほどに盛況である。今日もあっという間に品切れになってしまった。明日の分はまた明日出すので今日出すようなことをするつもりはない。


 ただ、仕入れの量はもっと増やしておいた方がいいかもしれない。倉庫に入れておけば消費期限を気にする必要もないし、どれだけ在庫を持っていても問題はない。


 そろそろ人を雇い入れる必要があるだろう。


 しかし、本当に信頼できる人間かどうかを見極めるのは非常に難しい。本人が何を考え、どう行動しているのかは本人にしか分からないからな。雇う人物の一定期間の素行調査は必須になるだろう。主に隠密のカエデと『バレッタの微笑み』を使って。


「そういえば、あの子達を雇ってあげればいいんじゃない?」


 仕事が終わった後、リンネがご飯を食べている時にそんなことを言った。


「あの子達?」

「ほら、あなたと同郷の子達よ」


 俺が思い当たらずにきょとんとしていると、リンネが人差し指を立てて答える。


「あぁ。あいつ等か。確かにこの世界の人間よりも元の世界の倫理感や道徳観を持っている奴の方がこの世界の奴らよりは信用できるか。なんだか結構大変な経験をして変わっていたみたいだし」

「でしょ。それにあの話もあるじゃない」

「そういえばそうだな」


 あの話と言うは、今ある店舗に食事処を併設するという話だ。こちらの世界の食事水準は結構低い場合が多いので、街中で美味しい店を探すのに一苦労する。アルクィナスでロドスの串焼きばかり食べてるのもそれが大いに関係している。


 確かに俺と同郷の高校生達なら食事の水準も分かってるし、料理が出来る人間も少しくらいはいるだろう。それに戦いなくないという子達もいるだろうからな。受け皿になってやるくらいしてやってもいいかもしれない。


 この世界の人間は他人の命の価値が日本と比べてかなり低いから殺し殺されが当たり前な部分があるからな。この世界の人間を雇うより全然いい。こっちの世界の人間を雇うなら、裏切る心配のない奴隷を買ってしまうのが一番楽だろうな。


「それにあの子たちは私たちに恩があるもの裏切ったりしないでしょ」

「確かにリンネの言う通りだな。あいつらに今度聞いてみるか」

「ええ。お願いね」


 思いがけない提案だったが、すっかり忘れていた俺にとってはとても有益な提案だった。


 同郷だとどうしても自分にとって当たり前のことが多いので気づかないことも多い。今回のリンネの提案は渡りに船だった。


 後日、イケメンこと光野君にそのことを提案してみると、本人も大いに喜び、そして光野君から提案されたクラスメイト達もとても喜んだらしい。


 そして俺の店に手伝いにきた人間の中にはパンツちゃんがいた。

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