第241話 未来
ヒュマルス王国の上層部の終わりを見届けた俺たちは船へと帰還し、少しのんびりしていた。
「いや~、今回はあちこち動いて結構疲れたな」
「そうね。戦争なんて面倒な物を回避するためにいろいろ奔走したわ」
「結果としてあの国は魔族の国の属国みたいな立ち位置になったわけだ」
あの国の王都上層部は、聖職者たちも含めて夢魔連中達によって押さえられている。王都以外の貴族連中の家にも随時お届けされる予定だ。これで腐った政治は徐々に改善していくだろう。ただ、すでに国民の中に根付いている価値観に関してはゆっくりと変化させるしかない。
特に人間至上主義で他種族を迫害する精神性に関しては、宗教と共に緩やかに変えていくつもりだ。時間と共に柔らかくなっていくことを願うばかりである。
また、国王に関しては、俺はアイツに殺されそうになったわけだが、すでにそれ以上にキツイ仕打ちを受けさせているし、アイツの情けない顔も見れたので非常に晴れやかな気分だ。
もちろんインフィラグメの録画機能でバッチリ録画済みなので、好きなタイミングで国中にばら撒いて破滅させることも可能だ。しかも長命種の夢魔達が国の実権を握っているようなモノなので、アイツらがこの先悪さをすることは当分ないだろう。
ただ、長命種達が同じ場所、同じポジションに居続けると、政治の腐敗や教育の失敗を招く可能性があるので、定期的に別の人に交代するように指示出しを行っている。
これからあの国はオネエが裏の王として国を動かす。きっとそのうち誰もが偏見に晒されない国が造られていくことだろう。
人を至上としていた国が、怨敵である魔王の手によって、差別のない国に変わる。
最高に皮肉の効いた復讐だと思わないか?
「最後に高校生に報告しに行くか。少し心配だしな」
「そうね、あの子達はまだ若いもの」
「私はここで留守番するとしよう。二人で行ってくるいい」
「了解」「分かったわ」
一応高校生たちに対して最低限の義理を果たしたつもり俺だが、最後にあの国がどうなったくらいは報告しに行って、数日たった今の様子を見に行こう。
俺とリンネはアルクィナスへと飛んだ。
そろそろ夕暮れに差し掛かり、世界全体が山吹色に染まり始める時間だ。
「おや?剣神様とリンネ様ではないですか。今日はお二人デートですか?」
「まぁ似たようなもんだ」
「そうよ」
リンネも随分慣れたように答えるようになった。
それが悲しくもあり、嬉しくもある。
「あら残念。リンネ様が狼狽えるところを見たかったのですが」
「ふふん、成長したのよ」
ドヤ顔のリンネ。
恥じらいのリンネはどこに行ったのかな?
「それなら仕方ありませんね。それではお通りください、剣神様と剣神ふ・じ・ん・さ・ま♪」
「~!?」
いつものように門番にからかわれるのはお約束だ。
最後の最後で顔を真っ赤にしたリンネは可愛かった。
「先程お帰りになった方たちは冒険者ギルドに向かったと思いますよ」
「わかった、ありがとう」
「いえいえ」
街の中に入場した俺達はすぐに冒険者ギルドへと向かい、中に入ると、とある場所で見知った背中を見つけた。
「光野君」
俺が声を掛けると、椅子に座ったイケメンが振り返って笑顔を浮かべた。その顔はすっかり赤くなっている。
「これはこれは俺達の救世主のおじさんじゃないですか?」
「おまえ飲んでるな?」
「ええ!!こっちじゃ成人ですからね!!さっき仕事から帰ってきて仲間たちと打ち上げしてるところですよ!!」
辺りを見回すと、冒険者として活動を始めている者達が同じように酒盛りを始めていた。
こいつら、すっかりこっちに溶け込んでやがる……。早く何とかしないと……。いやもう手遅れか……。
「お前らもうどうするか決まったのか?」
脳内小芝居を終えた俺はイケメンに尋ねる。
「そうですね。元々冒険者活動していた人たちはそのまま活動を続けて、まだやりたいことが見つからない人や別にやりたいことがある人は、俺達が支えながら就きたい仕事に付いてもらおうと考えています」
「おお、立派な考えじゃないか」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいですね。それで今日はどうされたんですか?」
こいつらのあまりのナチュラルな様子に、すっかりここに来た理由を忘れていた。
でも……俺が心配する必要もなかったかもな。
「おっとそうだったな。用件だが、ヒュマルス王国のこれからについて話そうと思ってな」
「あの国どうなったんですか?」
ヒュマルス王国の名前を出すと、イケメンは顔つきが変わった。
「うーん、魔族の国の属国みたいなものになった。というのが一番近いかな」
「それは凄いですね。これは僕たちだけで聞くことでもないようです。ちょっとお高めの酒場を貸切るのでそこで話をしてもらえますか?」
「いや、あの宿のバーでも貸切ればいいだろ」
俺の話を聞いてどこか別の場所に移動しようという話になったが、ホテルにいる奴がいるならそこでいいと提案した。
わざわざ来させるのも悪いしな。
「滅茶苦茶高いですよ?」
「なーに、問題ない、俺のおごりだ」
「さっすがー!!」
金は有り余るほどある。あのホテルで驕ったからと言って大したことはない。
俺たちはホテルに向かい、ホテルのバーを貸切ってヒュマルス王国での顛末を語った。
すると、高校生達全員が、
『ざまぁ!!』
と叫んで笑いあった。
それから俺は最近の高校生たちに起こった出来事を聞いたり、リンネは俺との関係を根掘り葉掘り聞かれたりしながら、酒を浴びるほど飲んだ。
こうして夜は更けていく。
死屍累々になっているバーで一人、ちびちびと酒を傾ける。
そういえば、俺の目標の大半は叶った。そして、一番の心のしこりであった、ヒュマルス王国の事も、高校生たちのことも大よそ解決されたと言っていい。そろそろ一つの区切りをつけてもいいかもしれないな。
その日、俺は一つの大きな決断をした。
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