第240話 傀儡
魔王に依頼して全員に召集をかけてもらっていた。
「あ、あれは!?」
「あれは夢に出てくる化物!!」
「ひ、ひぃ」
突然現れた厳つい集団に見覚えがある連中が狼狽えて野太い悲鳴を上げる。
うん、あんなん現れたら俺でも悲鳴上げるわ。
「あ~ら、化け物とは失礼ね!!私たちは立派なお・と・め・よ!!お・し・お・き、してあげる!!」
『ぎゃ~!!』
各々が担当した人物の所へとすっ飛んでいってふんづかまえる。インフィレーネによって動きを阻害されているヒュマルス王国の人間たちはなす術なく捕らえられ、熱ーいベーゼの洗礼を受けていた。
こいつらと来たら俺の夢にまで入り込もうとしてきたのでボコボコしてたたき出してやってからは大人しくなった。力が無かったらと思うとゾッとする光景だ。
「ま、まさか最近余の計画が悉く邪魔されていたのは……?」
「さて俺は知らないな?」
ようやく気付いた国王が俺に問うが、肩を竦めてとぼけてやった。
「きさま!!きさまのせいで!!余は!!余の計画は!!」
俺の行為を肯定と受け取ったのか、先程まで椅子に座っていた国王が怒りのあまりに立ち上がって俺に詰め寄ろうとするが、その行動は別の者によって阻止されてしまう。
「あ~ら、おいたはだめよん♡」
立ち上がった国王の後ろから抱きしめるように姿を現したは魔王オネエ。
オネエは国王に悪夢を見せる担当をしていた。反応が良くてなかなか気に入ったらしい。今回直接乗り込むぞと言ったら、ぜひ連れてって欲しいとノリノリでお願いされた。俺とはしては特に拒む理由もないので即了承したわけだ。
そして今、彼女?は国王に抱き着いて国王の顔の横に後ろから顔を出している。
「お、おまえは!?ひ、ひぃ~!!助けてくれ!!」
「あらあらどうしたの?あれだけ熱く愛し合ったじゃない?♡」
横目に自分の後ろにいる人物を確認した国王は飛び上がるようにジタバタとするが、がっちりとホールドされた彼は身動きが取れず、涙と鼻水を垂れ流して服を汚した。
その様子を面白そうに見ながらウインクして頬にキスをするオネエは、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。
「謝罪したらやめるようにお願いしてやってもいいんだけどなぁ?どうする?」
俺も意地の悪い質問をして国王を追い詰める。
「余が謝罪だと!?そんなものするわけがなかろう!!」
「そんなこと言っていいのかしら?あの日よりはげしくし・ちゃ・う・わ・よ?ふぅ~♡」
精一杯の虚勢を張った国王に、オネエは耳元で囁いて息を吹き付けた。国王はその好意にブルブルと体を震わせて血の気を失ったように顔が真っ青を通り越して真っ白になっていた。
ちょっとかわいそうになってきたのは内緒だ。
「ひ、ひぃ、止めてくれ、あれ以上など無理だ!!謝る!!謝るからぁ!!」
すでに見栄もプライドもなく、命乞いをする国王。
そこに一国の王として威厳は一切なかった。
「オネエ、止めてやってくれないか?」
「だーめ、今夜は私が美味しくいただくわ!!」
オネエにニヤニヤ笑いながらお願いするが、俺の健闘むなしくオネエに俺の願いは拒否されてしまった。
「すまんな、頼んでみたが駄目だったみたいだ」
「そんなこと許されるのかぁ!?」
ヘラヘラしながら国王に結果を伝えると、憤慨したように彼は叫んだ。
「言っただろ?俺は止めるようにお願いするだけだ。それを受けるか受けないかオネエ次第なんだから、俺はちゃぁーんと約束は守ってるぞ」
そう俺の約束はオネエに頼んでみるだけだ。
それ以降の返事に対して俺は一切の責任を負ってはいない。
「くそぉおおおおおおおおおおお!!」
国王は絶叫しながらオネエに部屋の外へと連れ出され、闇へと消えた。
「これで一件落着か」
「そうね、大分スッとしたわ」
姿が完全に見えなくなった後、俺達はお互い頷き合った。
数日後、ヒュマルス王国は宗教も国の上層部も貴族達もガラリと態度が変わり、非常に真面目に仕事をするようになり、人間以外の種族に対しても差別が大きく減った。もちろん完全に根絶できたわけではないが、かなり改善されたようだ。
そしてその傍らには化粧をした屈強な男たちがいつも佇んでいるのが目撃された。
この政治は数百年先で歴史的に「傀儡政治」ではないかという議論がなされるのだが、その答えはあながち間違ってはいないことだった。
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