第239話 ごたいめ~ん♡

 兵士の案内に従い王城へと辿り着くと、別の兵士に引き継いで俺たちは城内へと招き入れられた。


 俺がこの王城に来るのは四度目。一度目は兵士に脅かされながら城内を歩いた。二度目と三度目はインフィレーネでこそこそと隠れながら、誰にも見つからないように諜報活動を行い、そして四度目はこうして堂々と、兵士たちには丁重扱われて案内されている。


 変われば変わるものだ。しかもこの国に恨みを持った俺を、俺とは知らずに自ら己の近くに招き入れるなんて滑稽以外の何物でもない。


「場内はやはり高ランク冒険者の方でも珍しいですか?」


 辺りをきょろきょろ見回していたのがバレたらしく、案内してくれていた兵士が俺に振り返りながら尋ねた。


「いや、他の国の城との違いを見ていた」

「そうですか。やはり高ランク冒険者は違いますね!!」


 俺の返しに憧れを含んだ視線を送る兵士。


 こんな俺を疑いもしないなんて本当にこの国の上の方が大分参ってるらしい。


「SSSランク冒険者リンネ様、Sランク冒険者ケンゴ様をお連れしました」

「うむ。ご苦労。それではお二人は中にお進みください」

「了解」

「分かったわ」


 ひと際大きな扉の間で待つと扉がゴゴゴゴと重低音を奏でながら開いていく。隙間が大きくなり、中を見通せるようになると、あのクソ国王が玉座に座っていた。


 ただし、その顔色は思った以上に悪く、俺の嫌がらせが非常に効果を発揮してくれたようだ。我ながら良いアイディアだったな!!


 扉が開ききると、俺たちは玉座に向かって歩き出した。中にはほとんど人がおらず、ここを守る近衛隊も十数人程度なら制圧はたやすい。


「SSSランク冒険者リンネ様、Sランク冒険者ケンゴ様、ご来場~!!」


 誰かの声に合わせて俺たちは謁見の間の中を進んでいく。ちょうど玉座を見上げる位置にやってくると俺たちは足を止めた。平伏したりはしない。


「無礼者!!早く膝をついて頭を下げぬか!!」


 中にいた人物の一人が俺達に叫ぶ。しかし俺たちは意に介すことはない。


 確かあれは宰相だったか。


「無礼なんかじゃないわよ?私を誰だと思ってるの?」


 呆れるように肩をすくめるリンネ。


 そうSSSランク冒険者とは六国以上の国の王に認められた冒険者。国を破壊できるだけの力を持つ個人であるため、一国の王如きに遜る必要などないし、実際にそうルールに記載されている。


「抜いたら切るわよ?」


 怒りを露わにして剣を抜こうとする近衛兵たちにリンネが殺気を放つ。


『~!?』


 SSSランクという雲の上の存在の威圧を受けて近衛兵達は剣を抜くのを止めた。その顔には冷や汗が噴出しているのが分かった。


「くっ」


 ぐうの音も出ない宰相。


 全くそんなんだからこの国もおかしくなるんだよ。


「宰相よ、良い」

「しかし……」

「良いのだ……」


 疲弊しきっている国王はすでにこちらに虚勢を張る元気もない様だ。


「それで俺達に何の用だ?」


 俺がリンネと同様にざっくばらんに話始めると再び周りが殺気だつが、リンネが「冒険者ランクは私より低いけど、私より強いわよ?死にたいなら抜きなさい」と言って抑えさせた。


 全く……こらえ性の無い猛獣か何かか?


「うむ、近頃この国に魔物が入り込んでおってな。それを駆除してもらいたい」

「ふーん。それで、その魔物はどんな魔物なんだ?」

「うむ。悪夢を見せる類の夢魔だ。この国中で出没している」


 まぁ俺達が依頼したことだからな。そりゃあ国中に現れるよな。

 その解決を俺たちに頼むなんてマッチポンプもいいところだ。


「そんなの兵士や他の連中にやらせればいいじゃねぇか。俺達である必要はない」

「事情があって他の戦力は動かせないのだ。報酬は金貨百枚でどうだ?」


 そりゃあそうだ。この国の戦力は死んでるも同然。


 俺達以外に頼るほかないだろう。しかしSSSランクとSランクを捕まえて金貨百枚とか舐めてるとしか言いようがない。


「国の各地に散らばる魔物すべてを駆除するのに報酬が金貨百枚?そんなんで足りるわけないだろ。俺達の冒険者ランクも加味すれば千倍はもらわないとな」

「この守銭奴が!!我らが困っているというのに、お前には人情という者はないのか!?」

「ああないね、そんなものは。特にこの国にはな」


 俺が悪魔のように笑うと、宰相が口を挟む。

 だから、盛大に拒絶してやった。


「なんだと!?」

「まだ気づかないのか?」


 どうやら未だに俺の正体に気付いていないらしい。

 痩せはしたもののこの世界であまり多くない黒髪黒目も日本人の顔立ちも隠してるわけじゃないんだけどな。


「一体何に……」

「ケンゴ・フクスという名前に心当たりは?」

「……」


 余りに答えに辿り着かないので、俺はヒントをくれてやった。


 しかし、どうやらそれでも思い当たることはないらしい。

 あんなことをしておいて全くふざけた連中だ。


「心当りなしか……はぁ、全く度し難い。いいぜ、種明かししてやるよ。俺はお前たちに異世界から拉致してこちらに連れて来られた上に、使えないからって『奈落』とやらに転移させられた異世界人だ」

『~!?』


 この場にいた俺とリンネ以外の人間すべてが息を飲んだ。

 そして、国王はただでさえ悪い顔色をさらに真っ青にしている。


「そんなバカな……奈落に行って生きて帰ってきたものなどいない。あの男は死んだはずだ……」

「生きてるっての。だから、殺そうとしてきた相手に協力する義理なんてないし、してやるわけないだろ、バーカ」


 国王の呟きに俺はそう言って口端を大きく釣り上げて笑った。


「こ、この無礼者たちを即刻切り捨てよ!!」


 何をとち狂ったのか国王は俺たちを殺す命令を下す。


 すぐに兵士たちが動き出そうとするが、インフィレーネで動きを封じていたため、誰も動くことができない。


「ざーんねん。俺が相手をするとお前たちは瞬殺だからな。それじゃあ、面白くない。だから特別ゲストを呼んでるぜ?さぁ、出番だ、頼んだぜ」


 けらけらと笑いながら、俺は指をぱちんと鳴らすと、今までインフィレーネで隠れていた人物たちが姿を現した。


「はぁ~い♪ごたいめーん♡」

 

 姿を現したのは屈強な自称サキュバス達。

  

 そう、くだんの夢魔と呼ばれる者達であった。

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