第238話 意気揚々
「そろそろ頃合いかな」
「ん~、まぁそうかもしれないわね。ケンゴを酷い目に合わせたのだからもっと痛い目に合わせてもいいと思うけど、ケンゴと出会わせてくれたことでチャラにしてあげるわ」
「ふむ。あの国は私たち獣人もひどい扱いをすると聞く。このくらいは当然じゃないか?」
俺とリンネとカエデは船のモニターでヒュマルス王国の様子を見ながらお茶を飲んでいた。子供たちは教育上良くないので、一緒にはいない。イナホは俺の膝の上で丸くなっていて、俺はその背中を撫でたり、そのフワフワの尻尾をモフモフしている。
モフモフ、至福だ……。
リンネはなぜか偉そうだが……。実際かなり偉いんだけど。それにしてはかなり自由人だけどな。カエデも特に思う所はないようだ。
そう、あの夢は俺達が魔王のオネエに頼んでおいたものだ。流石に王や貴族たちを諸共亡き者にしようとは思わないし、実際に殺してしまえば大きな影響が出る。
リンネが言っているように、あの国王が追放してくれたおかげで様々な出会いがあったという側面もあるため、それなら嫌がらせで許してしてやろうと思ったわけだ。
もちろん絶対殺そうと思って『奈落』に転移させたのだから許すつもりはない。
だから、どんな嫌がらせながらあの国王が苦しむだろうかと考えた結果、悪夢を見せ続けるという方法をとった。
ふふふ、殺すなんてもったいないことはしない。現実と見間違うほどにリアルな死と、そっちの気は無いのに掘られるという強烈な経験は何度でもしてもらうがな、はははははは。
殺さないなんて俺は優しいな!!
そんなことを言ったらリンネとカエデにドン引きされたが気にしない。
どれだけの悪夢に晒されたか分からないが、一応千回くらい殺して、千日くらい掘っておいてと頼んでいたので、それくらいはやってくれただろう。だからそろそろ勘弁してやろうと思ったわけだ。
決して飽きた訳ではない、決して。
「んじゃ、正面から堂々と行ってみようぜ」
「いいわね!!」
「楽しみだ!!」
俺たちは船を降り、一度とある場所に寄った後、ヒュマルス王国の王都の近くに転移し、特に隠すこともなく本来の姿のまま城門へと歩いた。
「次の者!!」
前に並んでいた人たちが入場すると、俺達が呼ばれる。俺達のせいではあるが、門番に立っているのは一人しかいないようだ。
今この国はガタガタだからな。体裁を取り繕うのに必要な最低限の兵士くらいしかいない。
「身分証を提示してくれ」
「はいよ」
「ええ」
「うむ」
俺たちはギルドカードを見せる。カエデもいつの間にか登録していたようで、すでにBランクになっていた。
「こ、これは!?」
カエデは獣人のため、人間至上主義の国の兵士である彼は思うところもあり、嫌そうな顔をしていたが、俺達のギルドカード見て兵士は驚愕する。
そりゃあそうだろう、SランクとSSSランクだからな。そんじょそこらではお目に掛かれない。それにこの街の冒険者たちは出払っているからな。さもありなん。
「あの!!ご高名な冒険者様とお見受けいたします。どうか私と一緒に来ていただけないでしょうか?」
先程までとは打って変わって、ひどく丁寧かつ仕立ての対応へと変化した門番。
「うーん、どこに行くんだ?」
「ここではちょっと……。少し待ってもらえますか?」
「ああ」
俺の質問に対して詳しい事情を言い淀んだ兵士は、門番の詰め所に駆け込み、一人の兵士を連れて戻ってきて、改めて俺達を詰め所へと案内した。
「それで?俺達にどこに行ってほしいんだ?」
「えっとですね、王城に向かっていただきたいのです」
俺が本題を切り出すと、兵士は申し訳なさそうに答えた。
「なぜだ?」
「それが……詳しいことは私からは話せないのですが、ぜひお話を聞いていただければと思いまして……」
十中八九魔族との戦争や、この国の防衛などのことだろうが、そんなことを引き受けるつもりはない。
「うーん、どうする?」
「ケンゴに任せるわ」
「私もだ」
「うーん、しょうがない。行ってやるよ」
これ見よがしにリンネとカエデに確認し、物凄く悩んでいる風を装って、苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
王城に向かうことは決定事項だし、元々正面突破で襲ってくるなら、武力を行使してでも謁見するつもりだったので渡りに船ではあるが、あくまでこっちは行きたくないんだけど仕方ない、という態度を取っておく。
こっちが率先して行くと王城へいくことが名誉だと思っていると勘違いされそうだしな。勘違いされれば上手く使おうとするかもしれないので、そうされないための予防線みたいなものだ。
「そ、そうですか!!ありがとうございます!!それでは一緒に王城へ参りましょう」
兵士はひとまず王城へ行くことを了承した俺を見て、ホッと安心した表情で礼を言うと、俺達は一緒に王城へと向かった。
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