第233話 因果

『おかえり』

「あぁ、ただいま」


 穴から出て地上に戻るとマジマジコノハに乗ったリンネが出迎えてくれた。


 辺りを見回すと、ドラゴンゾンビが消えたおかげか紫色の毒々しい霧は消え去り、ゾンビ達もいなくなっていた。ドラゴンゾンビが召喚していたか、あの魔石の力によって姿を現したのだろう。


 魔族達は抱き合ったり、笑いあったりしてお互いが生き残ったことを喜び合っている。危機の終わりを告げた方が魔族達も安心するだろう。


「聞け!!魔族軍よ!!」


 魔族軍に向かってイクスヴェルトの通信機能を使って呼びかける。突然戦場に響き渡る俺の声にギョッとして魔族達はイクスヴェルトの方に視線を向けた。


 それから十分に時間を空けてから口を開く。


「ドラゴンゾンビは打ち取った!!残りはヒュマルス王国の残党だけだ!!まだ戦いは終わっていない気を引き締めて最後まで戦え!!」

『……』


 俺の言葉にしばし沈黙が広がった。


 うわっ、ここで滑ったとかマジで辛い!!どんな罰ゲームだよ!!


『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 しかし次の瞬間、音が爆発した。


『剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!剣神!!』


 そして合唱が始まった。


 あれ?いつの間に俺の二つ名がここに広がったの?

 昨日まで俺の事知らなかったよね?ね?

 しかも合唱してる場合じゃないからな?


「さっさと捕らえにいけ!!」

『わぁああああああああああああああああ!!』


 蜘蛛の子を散らすように魔族達はヒュマルス王国軍の捕縛へと向かっていった。


「全く……一体誰から漏れたのやら……」

『私が言っておいたわよ?』

「え!?」


 俺の呟きにシレっと何事もないように答えるリンネ。


 犯人はなんとリンネでした!!

 何してくれちゃってんのもう!!


「はぁ……まぁいい。それはさておき俺たちのやるべきことは終わっただろう。後は魔族達に任せよう」

『ええ』

『うむ』


 俺達は、人型機動兵器から降りてカードに戻した後、陣地に戻って馬車を取り出して中でゆっくり待つことにした。


「やっぱり、何度見てもこのはは良いわねぇ!!」

「一体何回見てるんだよ……」

「何回見ても良いモノは良いのよ!!」


 すっかり操作を覚えたリンネは何度目になるか分からない『魔法少女マジマジこのは』を無印から見始めて、目をキラキラさせて俺に宣う。


「ふむ。あの敵の忍者の動きは取り入れるべきかもしれないな」


 カエデもこのはに出てくる敵のくノ一忍者の動きに注目して頷き、お茶受けを食べながらお茶をすすっている。


 全く自分達のことながら、外では戦いが続いているというのに、何と気の抜けたことか。二人に限って気を抜きすぎることはない……とは思うが、それでいいのか、SSSランク冒険者と忍者の里の娘。


 まぁ二人の間でのんびりとお茶をすすっている俺も似たような物か。


「それよりも、ドラゴンゾンビはなんでアンデッドになったんだろうな?」

「うーん、確かにきちんとアンデッドにならないように消滅させたはずなんだけどね」

「やはり誰か第三者が絡んでいるのではないか?」

「確かにその線が一番可能性が高いか」


 俺たちは今回の件を話し合う。


 リンネは邪龍戦役の時にきちんと処理をしていたと言っている。にもかかわらず今回の事件が起こったというのなら誰か俺たちの知らない者が関係している可能性がある……か。


「俺達が知らない誰か……か」

「まさかそんな相手がいるとは思えないが……」

「とにかく油断しない方がよさそうね」

「そうだな……」


 俺たちにバレないで行動できる奴がいるとすれば、それは脅威だ。超古代文明の力を手に入れた俺だが、それに甘んじて気を緩めてはいけないな。


 俺たちはそれから他愛のない話をしながら魔族達が帰るのを待った。



■■■■■



 二人の人物が淡く輝く水晶の前で語っている。その姿は判然としない。水晶には風景が映っており、そこに何かを映す道具であることが窺える。


「うーん、上手く行かなったかぁ。まぁ仕方ないね」

「申し訳ございません。マスター」


 ヤレヤレと呆れるように述べる少年らしき人物と頭を下げる少女らしき人物。


 関係性を見れば主人と従者であろうか。


「いや、お前のせいじゃない。僕の考えが足りなかっただけさ。せっかく地上の生物を間引いて僕たちの下僕にしようと思ったんだけどなぁ。なかなかうまくいかないもんだよ。でも、次は上手くやって見せるさ」


 少年は手をひらひらさせて投げやりに返事をする。


 今回の計画の失敗もどうでもいいのかもしれない。


「はい、マスター」


 返事をする彼女をよそに、少年は水晶に顔を近づけた。


 マスターと呼ばれた少年の口元が水晶の光に照らされてあらわになると、醜悪に歪んでいた。


 


 

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