第232話 崩壊の四重奏(第三者Side)

「一体どういうことだ!?」

「分かりません!!何者かが自軍に忍び込み、食事に毒を盛ってほとんどの兵がその毒にやられて腹を下して戦力外になっている所を、装備を怪しげな雨によって溶かされ、そうやって慌てている内に気付いたら兵站を積んでいた荷馬車の中身がからっぽになっていたようです!!」

「なんだと!?わが軍は賊に侵入を許し、あまつさえ壊滅の危機に追い込まれたというのか!!」

「ひ、ひぃ!!」


 ヒュマルス王国の国王は報告を持ってきた兵士を怒鳴りつける。兵士はそのあまりに殺意のこもった叱責に顔を真っ青にして悲鳴を上げた。


 兵士は報告を持っていくように上司から指示されただけというのに、ひどい八つ当たりである。彼には何の落ち度もない。


 しかし、その報告はまさに青天の霹靂。昨日まで元気だった自軍がいきなり全軍がほとんど戦えない状況に追い込まれたと言われれば、誰かに八つ当たりせざるを得ない気持ちも分からなくないので同情の余地は残されている。


「こんなモノ偽物の情報に決まっておる!!即刻処刑する!!」

「ぐわぁ!?」


 その同情も次の行動で、全くする必要がないものへとなり下がった。持ってきた情報を信じることが出来ずに嘘だと断じて兵士を切ったのだ。


 明らかに正気じゃないだろう。


「全くウチの兵士は報告もまともにできんのか!?」


 そんな間抜けな兵士がいたら、当然敵に忍び込まれる軍にも間抜けがいてもおかしくはないのだが、そんなことにも気が付く様子がない。


―ドンドンドンッ


「誰だ!!」

「教会です!!」

「入れ!!」

「はっ」


 教会関係者がドアを開け、入室する。


「ひぃ!?」


 急いでいた兵士だが、血だらけで倒れている兵士を見て悲鳴を上げ、その場に留まった。


「どうした!!早く報告せよ!!」

「は、はひ!!」


 教会関係者は恐怖を押し殺し、王の近くまで言って改めて報告する。


「教会に侵入した何者かにより、魔王種や実験体が全て消えてしまいました。侵入者や侵入経路、手段などを現在目下捜索中です!!」

「なにぃ!?」


 国王は耳を疑った。


 教会上層部と王族と一部の兵しか知らない研究所が襲撃され、その研究成果である実験体と、実験に使うための素材として拉致してきた魔族達が奪われた、という報告は信じがたかった。


 しかもそれに誰一人、あの大司教でさえ気づかなかったという。


 国王の頭の中は、ありえない、という文字で一杯になった。


 しかし、目の前にいるのは教会の合成獣の計画を進めている一人。自分に嘘をつく理由はない。国王は混乱して訳が分からなくなった。


「一体どういうことなんだ!!」

「それが、なんと申しますか……」


 国王は詰め寄るが、教会関係者は言いよどむ。


 言いにくいことがあるのが明白だ。


「早く言え!!」

「は、はひ!!気づいたらすべて消えていました!!」


 あまりの迫力に教会関係者は直立不動になって答えた。


「ふざけるな!!この愚か者がぁ!!」

「ぐはぁ!?」


 あんまりにあんまりな報告に国王は再び切り捨てる。そこに冷静な思考はすでになかった。


「はぁ……はぁ……」


 国王の前には二つの死体。


―ドンドンドンッ


「またか……誰だ!!」

「はっ。至急の報告があります!!」

「今度は一体何だというだ……入れ!!」

「はっ!!」


 再び兵士が入室する。


「ひ、ひぃ~!?」


 二つの死体に兵士は同じように悲鳴を上げる。無理もない。自分も同じ末路を辿る可能性があるからだ。


「それで、何の報告だ?」

「は、はひ……実は異世界の化け物の人質がいなくなりました……」


 オドオドと怯えながら答える兵士。まるで肉食獣に怯えるウサギのようだ。


「逃げられたというのか!?」

「い、いえ、それも調査中でして……」

「この無能がぁああああ!!」

「ぐわぁ!?」


 二度ある事は三度ある。ふざけた報告に国王は再び報告に来た者を切り捨ててしまった。


「この国には無能しかおらんのか!?」


 国王は吐き捨てるように叫ぶ。


「こうしちゃおれん。すぐに対応策を考えねば……」


―チリーンッ


 国王は人を呼び寄せるベルを鳴らすと、外から侍女がやって来る。


「ひっ!?」

「人を呼んで片づけさせろ」


 侍女は他の人物達と同様の反応を示すが、国王は意に介すことなく指示を出す。


「失礼します!!」


 侍女は指示に従い兵士を呼びに行こうとするが、その流れはすぐにもう一人の来訪者によって断ち切られた。


「ひっ。報告します!!国境付近に展開していたわが軍が壊滅しました!!」


 3つの死体に悲鳴を上げながらも、それよも重大な報告があると思い直してすぐに伝える兵士。


『は?』


 あまりに理解不能なその報告に、奇しくもその場にいた最後の兵士以外の同様の間抜けが声が漏れた。

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