第234話 元を断つ
馬車でまったりと過ごした俺たちは、しばらくすると兵士たちが馬車に近づいてきたので、馬車を降りた。ほとんどのヒュマルス王国軍の兵士を捕らえ、ある程度分散させて見張りを立てているらしい。
その人数は万を超えるので俺の方で預かることにした。船の中の牢屋はかなり収容力がある。数万人程度なら余裕で入れられるだろう。
俺は各グループを回り、牢屋へと強制転送を行った。
「助かりました。これで私たちも自由に行動できます」
「おう、気にするな」
人間の兵士たちに人員を割く必要がなくなった魔族軍は首都へと撤退を始めた。戦後処理はオネエと話をして少し待ってもらっている。その方が魔族側に色々都合がいいからだ。
ひとまずヒュマルス王国側は国境に派遣していたほとんどすべての戦力を失い、数少ない人員が逃げ延びて、どこかから王都に報告をしていることだろう。
一応ヒュマルス王国軍も魔族軍にも死んだという人は見つかっていない。魔族軍はともかく、ヒュマルス王国軍の中にはゾンビに襲われたり、平原からヒュマルス王国側の森を抜ける際に動物や魔物に襲われたりして死んでいる可能性がある人間がいるかもしれないが、流石にそこまでは面倒見切れない。
それで魔族側に恨みを持つ家族がいるようなら諦めるしかないだろう。
魔族と別れた俺たちはすぐに転移でヒュマルス王国の城の近くに転移し、とある場所へと向かった。
それは召還魔法陣があった部屋だ。
「これがケンゴたちを異世界から拉致した魔法陣なのね」
赤黒い、まるで血で書かれているような魔法陣を見ながらリンネが感慨深そうに眺めている。
リンネにしてみれば俺と出会うきっかけになったものだからマイナスの感情はないだろうな。
「ああそうだ。今でこそリンネはもちろん、いろんな人と出会えたからよかったものの、そうじゃなかったら俺はこの世界を確実に呪っていた。今後、そういう人物が出ないようにこれは破壊しておくべき負の遺産だろうな」
しかし、俺にとっては『奈落』に追放されることになった元凶だ。あんな思いをするのは俺で終わりにしたいし、家族や友人と引き離される地球人ももう見たくはない。
そして何より、地球人があのくそったれのこの国の人間達に俺の同郷の人間が利用されるのは我慢ならない。
だから破壊して二度と使えなくすることに決めた。
『浄化!!』
まぁ破壊というよりは、書かれている魔法陣を綺麗さっぱり消してしまうだけなんだがな。
でもそれだけじゃつまらないな。
「何するつもり?」
「別の魔法が発動する魔法陣をかいてるんだよ」
俺は見た目はそれほど変わらない色のインクを使って、召喚とは別の魔法が発動する魔法陣をできるだけ召還魔法陣に似せて描いていく。地面に描く道具は、学校などでよく見かける石灰で白いラインを引くあの道具に良く似た物を使用した。
手書きだとしゃがむ必要があるので腰や足が辛いし、全体像を捉えづらくなってしまうのだ。
魔法で光を操って図形を描き、その上に沿ってラインを引く。
「綺麗に描けたな」
下書きした上をなぞっただけのようなものだから綺麗に描けて当然なのだが、出来上がった魔法陣を見てついついドヤ顔をしてしまった。
だって滅茶苦茶綺麗に描けたんだもん。
これで召還は二度と起こすことができないだろう。それどころか次回からは起動すると後悔することになるに違いない。
早くその場が来てくれることを望む。
次に俺たちがやってきたのは、俺が奈落へと飛ばされた転移装置があった部屋だ。
「ここに連れてこられたのが随分昔のように感じられるな」
今度は俺が転移装置の祭壇を感慨深く眺める。
ただ、今生きているから良いものの、やはり当時を思い出すと
「ちょっと殺気が漏れてるわよ?」
「おっとすまん」
どうやら漏れ出した殺気がリンネにも飛んでいたらしい。
一度深呼吸をして落ち着く。
「こっちはどうしてやろうかなぁ」
こっちは超古代の技術が使われていて言語が分かるだけではどうしようもない部分が多々あるので、手っ取り早く破壊することにした。
「せいっ!!」
俺は黒刀を抜いて祭壇ごと細切れに切り裂く。
「また、つまらぬものを斬ってしまった……」
後ろを振り返り、人生で言ってみたい言葉ランキングに入っているセリフを述べて刀を鞘に納めると、チンッと小気味の良い音が室内に響き渡った。
一仕事終えた俺たちは気分よく船へと帰投するのであった。
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