第213話 御威光

 俺達は勇者達をアルクィナスに届け、再び魔族の集落の近くにやってきた。


「このやろー!!」

「やっちまえ!!」

「隣村の仇!!」


 すると、転がしていた兵士達のいる場所から怒号が聞こえてきた。


 うわっ。放置しちゃまずかったな。


 俺たちはお互いの顔を見合わせるとすぐに声の元に駆け寄った。


「おい、やめろ!!」


 今にでも兵士たちを殺そうとしている魔族達に叫んだ。


 他の魔族に被害が出ている現状、こういう行動に出ても仕方がないが、それは俺が許さん。


「うるせぇ!!こいつらは許さねぇ!!」

「そうよそうよ!!余所者は黙ってなさい!!」

「こいつらと同じ人間がしゃしゃりでてくんじゃねぇ!!」


 魔族達が揃いも揃って俺たちに向かって抗議する。


 いや俺だって自分達の力でどうにかしたなら止める気はない。しかし、他人の獲物を横取りするのは頂けないな。


「お前たちこそうるせぇよ。こいつらを倒して拘束したのは俺たちだ。お前たちも見えていただろ。他人の物はとっちゃいけないと教わらなかったのか?」


 魔族は身体能力や魔力が一般的な人間に比べて高い。もちろん視力もいいので俺たちが倒していたのも見えていたはずだ。


「くっ」


 何も言えないのか、悔しげに黙り込む。


「でも、お前達はあいつらの仲間を何処かに連れて行ったじゃないか!!お前たちもこいつらの仲間なんだろ!?」

「こいつらの仲間?んじゃなんでこいつらを拘束しなきゃなんねぇんだ?このクソ野郎達と俺たちが仲間なわけねぇだろ。俺は同郷の奴らがこいつらに奴隷にされて良いように使われていたから助けただけだ」

「そんな話信じられるか!!」

「俺は別に信じて貰わなくても構わない。やりたいようにするだけだ。こいつらがどうしても欲しいっていうなら俺達から奪うか?」


 俺に向かって抗議を続ける魔族に俺は武器を抜いて威圧を放った。


『ひっ』


 俺が威圧した途端、魔族達はガクガクと震え出してその場にへたり込んでしまった。


 いや、ほんのかるーく威圧しただけなんだよ、俺は。


「今のケンゴが威圧したら、みんなああなるわよ。同郷の子たちもそうだったでしょ?」


 リンネが呆れ気味に呟く。


 え!?マジで!?だからあいつらもこんなに怯えてたのか!?

 確かに色々戦ってきた印象はあるけど、最初とそんなに変わった印象ないんだよなぁ。これも常に体が最適化されてる弊害か?

 それよりもなんで俺の考えてることがリンネにも分かるんだ?

 まさかバレッタたちに改造でもされたのか?


「違うわよ。ケンゴが分かりやすいだけよ」


 な、なんだと!?


「皆の衆やめるのじゃ」


 俺が一人で混乱していると、どこかの星の緑色の人類を彷彿とさせる小さな老人がやってきた。


「な、なんでですか、村長!!」

「そうです!!こんなやつらの言うことなんて!!」

「静まれ!!」


 村長に縋るように村人たちが声を上げるが、村長は一顧だにせずに大人しくさせる。


「その御姿……あなたは邪龍戦役の英雄リンネ様ですね?お久しぶりでございます」


 そしてリンネの前に片膝をついて頭を下げた。


「んーっと。確かに私はリンネだけど……あなたは?」


 リンネは思い出すように視線を中空を彷徨わせるが、思い出せなかったようで目の前の老人に尋ねる。


「はい。私は当時、邪龍戦役において部隊を率いておりましたロンブスと申します。あわや邪龍の一匹のブレスによって消し飛ばされるというところをリンネ様にたすけていただきました」

「うーん……。あっ思い出したわ!!確かに助けた覚えがあるわね!!」


 村長の言葉にリンネは腕を組んでウンウンと唸りながら当時を思い浮かべていると、しばらくしたら頭の上に電球でも出たかのように思い出したようだ。


 邪龍戦役とかリンネはそんな物騒な戦いに参加してたのかよ。流石SSSランク冒険者だなぁ。


「やはりそうでしたか……。此度は村の者達がご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「んーん、気にしないでいいわ。どうせケンゴを止めることなんてあなたたちにできないのだし」

「まぁそうでしょうな。そちらの方が本気を出せば、私たちなど一瞬で消し炭でしょう」

「当然ね。私より強いんだから」


 そりゃあ色々な武器だとか竜気などを使えばリンネよりも強いかもしれないが、技術面で言えばリンネの方が全然上だと思うけどな。


「なんと!?リンネ様より……。いや貴方様がそういうのならそうなのでしょう。どうか村の者達のことはご容赦いただけませんでしょうか?こやつらに侵攻のあった者達を攫われた者達もいますゆえ」

「大丈夫よ。それよりこの人たちの身柄は私たちが預かるけど、いいわね?」

「はい、あなた様方が倒されたのですから当然の権利でしょう」


 リンネの過去の御威光のおかげで俺たちは兵士たちの身柄を問題なく手に入れることが出来た。


 リンネさまさまである。


「おい、あの方がリンネ様らしいぞ?」

「俺達そんな方たちに逆らっていたのか?逆に罰せられるんじゃ?」

「国の救世主にたてついたとかヤバいぞ?」


 今になって事の重大さに気付いた村人たちが戦々恐々と言った感じで呟き合う。


 知らなかったんだ、じゃすまないのが社会だけども。

 幸いどっちにも被害はないからな。


「お前たちに危害を加えるつもりはない。お前たちの心情的にいろいろあるだろう。俺たちが攫われた魔族たちは元の場所へ返してやるから安心しろ」

「なんと!?そんなことができるので!?」


 俺が安心させるように述べると、村長の糸のように細い目が見開いて驚きを現した。他の魔族たちも信じられない、という驚愕の表情を浮かべている。


「ああ、問題ない。任せておけ」

「ははぁ。やはり英雄様の隣にいるのは英雄様でございますね」

「いや俺はそんな高尚なもんじゃない。自分勝手に好きなことをやっているだけの中年だ」

「ははは、謙虚ですな」


 俺たちは魔族たちから兵士の身柄を引きとり、船の牢屋へと転送し、俺達も船へと帰還を果たした。


 

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