第212話 案内

 アルクィナスの近くに飛んだ俺たちは、人数も人数なので歩いて街へと向かった。


「これはこれは剣神殿とリンネ様。久しぶり……ということもないですね。今回はどうされたんですか?」

「ん、まぁ、色々あってな。同郷の者達を連れてきたんだ」


 城門にたどり着くと、仲良くなった門番が俺に話しかけてきた。俺は後ろに視線を向けて辛く説明する。


「んー、なるほど。まぁ剣神殿とリンネ様が連れて来た方達なら問題ないでしょう。お通り下さい」


 俺の顔から視線を逸らして後ろにいた高校生を見るなり物知り顔で納得したように頷く。なんとなく事情を察してくれたようですんなりと検問を通してくれるという。


 なかなか話のわかる門番で助かる。まぁ俺たちだからと信用して通してくれたのだから、後で問題を起こさないようにしっかりと言い含めておく必要があるだろう。


 こいつらが問題を犯せば迷惑がかかるし、その責任は俺にあるということになる。そしてそれを通した門番も責を問われることになるだろう。それは俺の本意じゃない。


 きっちりとわからせておこう。しかし今の状態なら以前のように驕り高ぶることもないと思うが、念の為だ。


 きちんとコミュニケーションをとるのは大事だからな。コミュニケーション不足が原因で問題が起こるというのは少なくない。分かっているだろうと思っていたら全然分かってなかったというのはよくある話だ。


 俺たちはアルクィナスの街へと入場を果たした。


『うわぁ……』


 高校生達が不安やストレスから解放されて少し心の余裕が出来たせいか、数多の種族が入り混じるこの街の状態を見るなり感嘆の声を上げる。


 俺も初めてこの街に訪れた時はこんなんだったのかなぁ。


 懐かしいモノでもみるかのような視線で彼らを俺は眺めていた。


「ケンゴと同じね」


 そんな俺の気持ちを代弁するかのようにリンネが呟く。


「主君もあんな顔をしていたのか」


 微笑ましそうな表情で俺を見つめるのをやめろカエデ。


「おい、お前ら。おのぼりさんしてないでさっさと行くぞ」

『は、はい』


 俺が声を掛けると我に返った高校生達が慌てて俺について来た。俺はリンネが泊まっているホテルへと向かった。


「ようこそ、いらっしゃいました。リンネ様、ケンゴ様」

「支配人久しぶりだな」

「はい、ご無沙汰しております。本日はお二人でお泊まりですか?」

「いや、俺達の後ろにいる奴らの世話を頼みたくてな。三月程頼む。それとこいつらの服とか生活必需品も見繕ってほしい」

「ははっ。ケンゴ様の頼みとあらば万難を廃して臨みましょう」

「これで足りるか?」


 ホテルの支配人自らが俺たちを出迎えてくれたので、要望を伝えて白金貨がパンパンに詰まった小さな皮袋を倉庫から取り出して渡した。


「これだけあれば十分どころか、余るほどでしょう」

「そうか。それなら残りは三月以降分の宿泊費にでも充ててくれ」

「承知しました。それではご案内致しますので少々お待ち頂けますか?」

「了解」


 金を受け取った支配人はテキパキと部下に指示を出し始める。


「あの〜、ケンゴさん?ここ大丈夫なんですか?めちゃくちゃ高そうなんですけど?」


 勇者達の元に戻った途端、イケメン君に小さな声で尋ねられる。


 そういや、ここって超高級宿だもんなぁ。忘れてた。とはいえ、今まで稼いだ金額は殆ど使うこともなく、貯まる一方だからな。むしろこのくらい使うくらいのほうが丁度いいだろう。


「いや、気にしなくていい。大した金額じゃない」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

『ありがとうございます』


 俺が首を振ると、イケメンは頭を深々と下げ、それに気づいた他のクラスメイト達も習うように頭を下げた。


 そこまで頭を下げられるようなことでもない気がする。これ以上手助けしてやるつもりはないしな。


「さっきも言ったが、気にするな。お前達に何かあったら寝覚めが悪いから助けただけだ。それに俺がするのはここまでだ。これから三ヶ月程度はここで過ごす猶予があるが、そこから先は自分たちでどうにかするようにな。冒険者になるなり、他の仕事を探すなり好きにするといい。ただし、以前はその力を笠に着て偉くなったと勘違いした行動をしていた者もいたらしいな?そういう行動は今後慎むようにしろよ。じゃないと俺がお仕置きにやってくるからな」


 俺が強めの威圧を込めて諭すように話すと、全員が首をガクガクと縦に振った。


 ここまでで、高校生達を隷属状態から解放したし、あのクソみたい国から遠い別の国まで運んだ。その上、暫くの生活も困らないようにもした。同郷の義理は十分果たしたと判断する。


「お待たせしました。それではご案内いたします。」

「は、はい。お願いします」


 俺が高校生たちに向けて話していると、支配人含む複数の従業員がやってきて、俺たちへと話しかけてきた。イケメン君が代表として受け答えする。


 話もキリの良いところだったし、丁度いい頃合いと言えるだろう。


「そんじゃあ俺はここまでだ。ちょいちょい顔を見にくるからまたな」

「じゃあね」

「さらばだ」


 後ろで高校生達が何か言っているが、俺たちは軽く挨拶をしてその場を後にした。

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