第214話 一息

「ひとまず俺達も休憩しよう」

「そうね、少しあっちこっち行って疲れたし」

「私は子供たちの所へ行ってくる」


 船に戻った俺達はリラクゼーションルームで少し休むことにした。一方カエデは子供たちとイナホの元へと向かった。


 体力的には問題ないが、あちこちへと動けば精神的に疲れる。


 ヒュマルス王国と魔族の国の戦争が始まれば、少なくない犠牲が出る。今なら魔族の犠牲者たちをこれから行く施設で分離や蘇生させてやれれば、犠牲者なしということで、勇者たちの件含めて魔族側に話を聞いてもらうことも出来るだろう。


 しかし戦争が始まって犠牲が出てしまえばそうはいかない。勇者たちが下した処断じゃない事に介入する気はないし、流石にそれだけの人数をどうにかする気もないしな。だから、時間はそれほどあるとは言えないが、それでも休息は大切だ。


 俺とリンネは人をダメにしてくれそうなソファーに二人掛けで腰を下ろす。


「ふぁ~」

「ほわぁ~」


 俺とリンネは二人して気の抜けたような出して沈み込むソファーに身を委ねた。


 なんという包容感。身も心も優しく包み込まれるように体そのものを楽な状態にしてくれる。正直ずっとこの状態でいたいと思える心地よさだ。


 しばし俺達その気持ちよさに浸る。


『ふぉわぁ〜』

「おふぅ〜」

「にゃわぁ」


 そんな俺たちの元にカエデ達もやってきて、複数あるソファに同じように座り、腑抜けた声を出して沈んだ。


 全く恐ろしいソファーである。


「ふぅ。これで一応俺の同郷側の問題は解決した」

「そうね。後は、魔族たちの治療と戦争への介入、その後の後始末といった感じかしら」

「そうだな。魔族側に話を聞いてもらうためにも早急に魔族の国の超古代遺跡へと赴く必要がある」


 あまりの気持ちよさから我に返ると今後について話をする。


 まず何よりも急務なのは犠牲になってしまった魔族たちの治療と蘇生だ。つまり研究所と呼ばれる超古代遺跡へのダンジョンを出来るだけ早く攻略する必要があるだろう。


 今回は自分たちで攻略したいなどという自己満足を言うつもりはない。出来うる限り最速で攻略できる方法を使ってダンジョンを踏破する予定だ。


『お任せください』


 バレッタもやる気である。


 それから二人でもう少し先の戦いについての話をした後、ソファーの心地よさに耐えきれず、俺たちは意識を手放してしまうのであった。


『研究所上空に到着しました』

「了解」


 気づけばバレッタに起こされていた。


 どうやら目的地に着いたらしい。


「どれくらい寝てた?」

『ほんの30分程です』


 やはりこのソファーはすごい。たった30分寝ていただけなのに7時間は寝たようなスッキリ具合だ。


『おっしゃる通りの効果があります』


 バレッタによるとまさに俺が言ったような効果を持っているという。


 人生の三分の一は寝てるって言われてるからな。それが30分で済むとなれば、その恩恵は計り知れない。人生の三分の一を有意義に使えるとなれば。それはすなわち人生の三分の一程度寿命が伸びたな等しいのだから。


 売ればバカ売れ間違いないだろうが、俺達しか作れない上に、その効果は絶大で、俺たちのことが露見すれば絶対に厄介事に巻き込まれるだろうからな。


 そんなことは全く望んでいないので売り出すつもりはない。


「そういえば実際はもっと早く着いていたんじゃないか?」

『効果に合わせてゆっくり航行しました』


 研究所なんてすぐに着くと思っていたのだが、遅いと思ったらそういうことだったか。


 流石バレッタ。


 少し遅くなったとはいえ、体と心は万全な状態になった。これでより捗るというものだろう。


「そうか。それじゃあ研究所の近くに降りてくれ」

『承知しました』


 船はゆっくりと下降し、飛行機のように着陸用の足が現れて地面を揺らした。俺たちが降りて目にしたのは岩肌にある巨大な扉だった。

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