第208話 困惑
あれれ~、おかしいぞぉ?
どこぞの頭は大人、体は子供の迷探偵ばりの演技を脳内で再生するも、俺というイレギュラーな存在によって魔族側もヒュマルス王国側も騒然とし、魔族への攻撃を中断している。
なんで分からないんだろう。
俺は少し考える。そういえば俺って今ほとんど当時の面影がないんじゃないかということに思い至った。思えばあの時の俺は30キロ以上太っていたし、筋肉とか老化とか魔導ナノマシンによって体を作り変えられている。その上、散髪したり、リンネに服を選んでもらったりして当時とは全くの別人とも言えるべき変化をしていた。
「おじさん?」
説明のため口を開こうとしたその時、どこからともなく一度しか聞いたことがない声が聞こえた。振り向くとはその声の主はパンツちゃんだった。
改めてマジマジとみると、俺が起こしたころとは違って身も心もボロボロという状態に見える。他の面々も同様だ。簡単な貫頭衣のような衣服しか身につけておらず、環境や食事も悪いのか、肌はカサカサで、全体的に痩せている者ばかりだ。それに目の下には隈が出来ており、なんらかが原因で睡眠もロクに取れていないのだろう。
「パンツちゃんか、元気……ではなさそうだな」
「パ、パンツ!?」
俺の言葉にパンツちゃんは、顔を赤らめて狼狽える。それと同時に自分の貫頭衣を下に伸ばすように押し付ける。
やっべ!!ついつい召喚された当時に心の中でそう呼んでいたせいで思わず口に出てしまった。
「あ、いや、気のせいだ……コホン。良くわかったな、見た目は大分変っただろうに」
「……見れば分かります」
「ある意味凄いと思うが……」
俺を元からジト目に近いその眼をさらにジトっとさせて俺を見るパンツちゃんに俺は苦笑する。
おそらく別人とも言えるほどに変化した俺を一発で見抜くなんて普通に凄いと思う。
「さて、他の奴らは俺が誰か分かっていないやつが多いみたいだが、端的に言えばあの時がステータスが低くてスキルもしょぼくて君たちが馬鹿にしてくれたおじさんだよ」
それを聞いた近くの高校生たちは申し訳なさそうな表情になっている。
ただ事実を説明しただけだったが、これじゃあ非難されているように感じてもおかしくないか。
「あ、別に責めたいわけじゃない。もう気にしてないしな。分かりやすいように言っただけだ。それでさっきも言ったようにお前たちを同郷のよしみとして助けにきた。面倒なことに巻き込まれているようだからな」
『え!?』
自分たちの状況を正確に理解していることに驚いたのか、それとも助けに来てくれたという事実に驚いたのかは定かではないが、近くいた者達は一様に驚きとほんの少しの期待を含んだ声を上げた。
「それはさておき、そろそろ起きろ、リンネ、カエデ」
「う、うーん」
「ここは……」
俺の腕の中でぐったりとしていた二人を揺さぶって起こす。
二人とも意識を取り戻して辺りを見回すとどうやら地上であると理解したと同時に徐々に顔を赤くした。もちろん照れているわけではない。
「ケンゴ!!あんた何してくれてんのよ!!なんの確認もなく、空から落ちるとか死ぬかと思ったわ!!」
「主君、流石にあれは酷いと思うぞ?」
リンネとカエデは俺の腕から抜け出して二人で詰め寄ってくる。
二人とも俺が飛行魔法が使えることは知っているはずだが、流石にフリーフォールはそれが分かっていたとしても万が一があるし、気が気じゃなかったか。
「すまんすまん。今度埋め合わせするから許してくれ」
「はぁ~、全くしょうがないわね」
「ホントだぞ?主君?」
俺の平謝りに二人は腕を組んでジト目で俺を睨む。
「悪かったって。それよりも仕事だ」
「ああ、そうだったわね。あの子たちがあなたの同郷なのかしら?」
「そうだ」
「へぇ」
全く仕方ないと呆れ気味になりながら、近くにいた高校生たちを観察しながら興味深そうに問いかけるリンネ。
こっちとあっちじゃ顔の作りが違い過ぎるからな。それでもリンネの顔は俺のドストライクの造りをしていたが。
「黒髪黒目ばかりだな。私と同じと同時に、主君とも同じか」
カエデは少し値踏みするように彼らを見つめる。
「ええっと……」
パンツちゃんが、知らない人間に見られていることに困惑しているようなので、二人を紹介することにする。
「俺の仲間のリンネとカエデだ。今回の救出作戦に協力してくれるからよろしくな」
「リンネよ。よろしくね」
「カエデという。よろしく」
俺が二人を紹介し、二人も簡潔に自己紹介をする。
「さて、早速ここから離脱しようと思うが……」
「お、おじさん、私たちは行けないんです。だって隷属の首輪を付けられている上、人質を取られています」
「え!?マジかよ……」
なんと隷属の首輪のことは分かっていたが、まさか人質まで取られていたとは……思ったより知恵が回るというかなんというか。
まぁいい。連絡がいくのは時間がかかるだろうし。
連絡員を含む兵士すべてを全員ここで潰しておけば問題ないだろう。
「心配無用だ。どちらもどうとでも出来る。何も問題ないぞ?」
『やったぁ!!』
俺の自信に満ちた言葉に、聞こえる範囲の高校生たちは手を取り合って喜んだ。
「何をしている!!」
しかし、俺達の元にヒュマルス王国の紋章旗を掲げた一団が俺達に近づき、いい雰囲気に水を差すように怒鳴り声を上げた。
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