第209話 退場
「何者だ!!」
なんだか偉そうな兵士が俺達の前に馬に乗ってやってきた。
「何者も何もそっちが呼んだくせに覚えてもいないとかホントに胸糞悪い連中だな、おい」
「何を言ってる!!さっさと質問に答えろ」
「あいにく腐れ外道に名乗る名などない。さっさと失せろ、今なら見逃してやるぞ?」
呆れたように肩をすくめて首を振る俺に対して喚き散らす兵士。
面倒なので殺気を放って脅してみる。
「くっくっく。何を言ってる。貴様こそこれだけの人数から逃げられると思っているのか!!」
「はぁ……やれやれ、自分と相手の力量差も見極められないとか」
鈍感なのかなんのか分からないが、他の兵士たちは俺達の殺気を浴びて冷や汗をながして息を上げて動けないでいるのに対して、こいつはそういうそぶりも見せない。
一切精神的な動揺が見られなかったが、一体どういう精神をしているんだ?もしかして強いのだろうか?
「私を侮辱するか!!何をやっている貴様ら!!さっさとこいつを捕まえろ!!」
『うぐっ!!ぐがっががががが』
俺の態度にキレてしまったのか、偉そうな兵士は高校生たちに命令を下す。
高校生たちは俺に対する負い目や助けてもらっているからか、俺に対して攻撃するのに躊躇する。そのせいで隷属の首輪の罰をその身に受ける。
おおう。この子達も意外と義理堅いというか、おじさんでも人として扱おうという気持ちがあったんだな。初めて会った時は酷い有様だったけど。
もちろん突然の出来事だったとか、憧れていた異世界召還だとか、チート気味なステータスだとか、帰れない不安だとか、いろいろ要因はあるだろうけど、調子に乗ってしまったり、弱者を攻撃して自分の安定を保とうとするのは仕方ないよな、若いんだし。
「くっ。無駄な真似を!!我らが直接鉄槌を下してやろう!!いくぞ!!」
高校生たちが動かないので今度は自分の部下たちと突撃して来ようとしたようだが、彼に続くものがいない。
それはなぜか。
「弱いわねぇ」
「大したことはないな」
そう。リンネとカエデは全て倒してしまったからだ。
俺に目を奪われている間にひっそりと気配を消して偉そうな兵士の後ろに回り、兵士たちを一人残らず気絶させてしまった。さっきから兵士を煽っているのも俺にヘイトを集めてリンネとカエデから注目をそらすためだったのだ。
「すごい……」
どこからともなく、そんなつぶやきが漏れる。
「はぁ!?」
それとは対照的に一人残った偉そうな兵士が素っ頓狂な声を上げて辺りを見回した。
俺に注意を引き付けられすぎだよ。
「おいおいどうした?鉄槌とやらを下してくれるんじゃかなったのか?」
「いったい何が……」
俺がなおも煽るが、未だに呆然としてしまってあまり効果がない様だ。
「ええい、こうなったら!!『強制命令』!!ヒュマルス王国に仇なすこやつを捕らえよ!!」
『ぐっ……あれ?』
我に返った兵士が何やらキーワードを唱えて高校生たちに指示を出す。
『強制命令』は隷属の首輪の機能の一つで、相手に行動を強制する。これはただの命令と何が違うのかと思われるかもしれないが、『強制命令』は自分の意志とは関係なく、命令を実行してしまうのだ。その上抵抗すれば痛みを伴う。
ただの命令では痛みと苦しみはあるが、我慢すればその命令を守らなくて問題はない。もちろん痛みと苦しみはあまりにひどいのでそんな痛みを我慢するくらいなら命令に従う人間がほとんどである。
しかし、一瞬痛みをこらえるような表情をしたものの、その後は不思議そうに自分の体を見つめる。なぜなら彼らは『強制命令』を使われたにも関わらず、自分の意志に反して体を強制的に動かそうする謎の力の存在も確認することができない
「バカな!!『強制命令!!』『強制命令!!』『強制命令!!』『強制命令!!』」
その事実を否定するようになんども『強制命令』を連発するが、クラスメイト達には特に効果がなかった。簡単には信じられない光景を認められなかったのだろう。
「おいおいどうしたんだ?何かするつもりだったのか?それなら早くしてほしいもんだけどな?」
「ま、まさか貴様が何かしたのか!?」
俺がさらにあおると、偉そうな兵士は信じられない光景に他者、今回の場合は俺にその原因を求めた。
まぁ正解だけど。
隷属の首輪は付与魔法で破壊した。付与できるということは、付与された効果を無効化したり、消したりすることもできておかしくないわけだ。
「俺が何をどうしたっていうんだよ?」
「くそこうなったら私自ら引導を渡してくれる。はぁあああああ!!」
「うるさい!!」
「ぐはぁ」
俺が煽り続けた結果、偉そうな兵士は俺に一人で挑み、そしてそのまま意識を失った。
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