第173話 後夜祭
何とも言えない気持ちを残して終わりを迎えた鍛冶競技会。
「本年の奉納祭の閉祭を宣言する!!」
そしてそんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま奉納祭は終わりを向かえた。
「ガッハッハッ!!ガーハッハッハッハ!!」
上機嫌で笑うグオンク。
俺たちは今、国主催の後夜祭というか祝勝会ような催しに参加していた。グオンクは競技会での優勝ですっかり舞い上がって閉祭後のこの催しですっかり出来上がっている。その周囲には鍛冶競技会で戦ったライバルたちが集まり、同じように上機嫌に笑いながら鍛冶談義に花を咲かせていた。
まぁ俺としては剣の奉納さえできればそれでいいんだが。
剣の奉納は祭り中ではなく、少し街が落ち着いてから行われるらしい。閉祭したのに、町中で大小いろんな後夜祭と称した酒盛りが行われていた。こんな状態じゃなかなか落ち着いた儀式なんてやってる場合ではないだろうなぁ。
話を聞くにこの後夜祭はなんと、後数日は続くだろうとのこと。なんでも奉納祭が終わってここにやってきていた観光客やら商人やらがある程度街を離れるまで連日酒盛りしながら徐々に片づけをしていくらしい。
なんとものんきで平和な話である。
グオンク以外の俺達一行は酒よりも出された食事に舌鼓を打ちながら後夜祭を楽しんでいた。
「ケンゴ~」
「主君。……ハムハム」
俺は立食パーティーのような会場の隅に併設された休憩スペースでリンネにしな垂れかかれ、カエデに腕を甘噛みされてよだれまみれになっていた。いや、リンネもカエデも酒に呑まれているからグオンク、リンネ、カエデ以外は食事に精を出している、というのが正しいか。
「うまうま」
「おいしいね」
「もぐもぐ」
「もっと肉をもってこぉーい!!」
「にゃー!!(僕も!!)」
俺以外の保護者がデロンデロンなのには目もくれず、子供たちは幸せそうにモグモグと口を動かしている。キースとイナホは目を輝かせながらロリドワーフ侍女に肉を催促していた。
俺はそんな皆の姿を見ながらちびちびと酒を飲みつつ、ドワーフの料理を味わっていた。
「ここいいか?」
そんな時、俺の後ろから声がかけられる。
「もちろん」
四つの席のうちの空席だった席に一人の男が座った。
「こんなところにいていいのか?仮にも一国の主だろ?」
「構わん。この国での王など貴族同様今やただの象徴のようなものだ。人間国家との外交に必要だから残っている程度。そもそも俺たちドワーフは権力にそれほど興味はない。人間の中でも人以外をあまりよく思っていない国家に対するための旗頭という側面が強い」
やってきたのはこの国の国王であり、グオンクの兄グオリス陛下だった。
全くエルフもドワーフも獣人も気の良い奴ばかりだというのに異世界の人間きたら……。もちろんそれが人間全員に当てはまるわけではないが、人間が主な種族の国ではとりわけ身分や権威というものが物を言うことが多いらしい。全く面倒この上ないな。
「それで今日はなんか俺に用でもあるのか?」
「いや、グオンクを連れて帰ってきてくれたことに一言礼をと思ってな。今まで生きてるのかも何をしてたかも分からなかったからな、おかげで家族ともどもアイツの無事と近況を知ることができた。ありがとう」
俺が尋ねると、グオリスが軽く頭を下げた。
グオンクはホントに一切の音沙汰なしで何十年も過ごしていたんだなぁ。全く困ったおじさんドワーフである。
「いや、気にしないでくれ。俺は鍛冶競技会に参加するためにグオンクが必要だっただけだ」
「それでもだ。それに、お前にはダンジョンでの異変でも助けられた。感謝してもしきれない。何か欲しいものはないか?」
そう問われた俺は少し考えてみるが何も浮かばない。
「すでに報酬としてもらっているから新たに何かをもらいたいってのはないんだよなぁ。強いてあげれば剣の奉納をする遺跡への立ち入り許可って所だったんだが、競技会で最優秀に選ばれて問題なく入れるしな」
「ああ、あそこは俺の権限でもどうしようもないからな」
「分かってる。と言う訳で特に何もない」
「そうか……」
俺に対して礼を尽くすことができないと悟り、神妙な顔になるグオリス。
うーん、困った。国としてのメンツとかもありそうだし、なんかないだろうか。
俺はしばらく腕を組んで考えると、唐突に閃いた。
「あ、そうだ。俺をSSランク冒険者に推薦しておいてくれよ。国の代表の推薦が必要だって聞いてたからな」
「おお!!そんなことでいいのか?いくらでも推薦してやるぞ!!ガッハッハッ!!」
「ついでにアレナも推薦してくれよな?」
「あら?気づかれてしまいましたか……せっかく驚かせようと思ったのに。まぁいいですよ、ケンゴとリンネには世話になりましたからね」
俺の背後からこっそり近づいてきていたアレナにも声を掛けながら願望を告げると、二人とも快く了承してくれた。
SSランクに必要な推薦は三つ。すでに一つアルセリオンからは貰っている。だからエルフとドワーフで推薦はそろうことになる。これで俺も晴れてSSランク冒険者ってか。
アレナ用の椅子を持ってきてもらい、俺達は改めて話始める。
「それにしても約束したのにあれから全然会いに来てくれないんですから」
「いや俺たちも結構忙しかったんだぞ?」
可愛らしく拗ねてみせるアレナに俺は苦笑する。
「ふふふ、冗談です。分かっています」
「ケンゴはアレリアーナ女王とも面識があったのか?」
にこやかに笑いながら話す俺とアレナに、グオリスが不思議そうに尋ねた。
「ええ、彼には私の国を救われていまして」
「なるほど。エルフの国も我が国と同じと言う訳か。ガッハッハ!!」
「そのようですね、ふふふ」
俺を話題の中心にして会話が弾む。
そんな風にアレナとの旧交とグオリスとの新たな親交を深めながら、俺達は後夜祭を満喫するのであった。
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