第174話 奉納

「剣の奉納の準備が整いましたので明日中枢区画へお越しいただけますか?」


 奉納祭が終わり、数日というか一週間程経ってようやく人々が普段より少し多い程度まで落ち着いた頃、俺達が止まっている宿屋に使いがやってきた。


 今年はいつもよりも人手がさらに多かったせいか、人が捌けるのに時間がかかったから今日になったのは仕方ないだろう。


 その間も手持ち無沙汰になってしまったので船に戻ってゲームしたり、DVDを鑑賞したり、プールで遊んだり、トレーニングや模擬線をしたりしながら時間をつぶした。


 ようやく船が空を飛べるようになるのか。めちゃくちゃ楽しみだな。


 俺は期待を胸に馳せた。


「それではこちらへ」


 そして次の日、俺達は王族区画にやってくると、待っていたドワーフ兵士に案内され、区画の奥へと案内される。


 以前宰相と会談した時の部屋よりさらに奥。王族が暮らす宮を抜け、そのさらに奥には、全て岩を掘って建てられた日本の神社のような形式の建物がそびえたっていた。


「うーむ。懐かしい感じがするな」

「あら、ああいう建物を見た事があるの?」


 俺が呟くと隣に並ぶリンネがこちらを見て尋ねる。


「ああ。俺の住んで国にある建物に似ている」

「そうなのね」


 俺が懐かし気に眺めているとリンネも同じように神社をマジマジと眺めた。鳥居のような境界付近には一人のドワーフの女性が立っているが見える。


「ここからは巫女様がご案内いたします」

「私はローリーと申します。宜しくお願いいたします」


 鳥居まで来ると巫女と呼ばれたロリドワーフを紹介され、ここまで案内してくれた兵士ドワーフさんは持ち場へと帰った。


「ワシがこの境界を超える日がくるとはなぁ……うっ」


 先頭を歩くグオンクが鳥居をくぐる際に感慨深げに少し上を向いて涙ぐむ。


 それだけ鍛冶競技会には思い入れがあったんだろうなぁ。


 と以前の俺だったらそう思っていただろうが、あの競技会を経験した後ではなんとも言えない気分になる。


「どうぞ、この先の祭壇の上にある台座の上に剣をお乗せください」


 神社らしき建物に入ると、陰陽師とかが儀式に使いそうな祭壇があった。俺たちは祭壇に上り台座の前までやってくる。


「ちょっと待て」


 グオンクが巫女の指示に従ってそのまま剣を置こうとしたがそれを俺が止める。


『開け』


 俺が超古代の暗号で書かれていた指示の通りに呪文を唱えると、空中に半透明の半透明のウィンドウが表示された。そこには呪文が表示されている。


「いったい何が……」

「なんなんだこれは……」


 突然現れたウィンドウにうろたえるグオンクと神社の入り口の巫女。俺達一行は目を輝かせ居ているが、俺の行動になれているので特に驚く様子はない。


『我、万物の創造を望むもの。至高の剣を鍵として万能の工房への扉を開錠せん』

『詠唱を確認。前所有者のオーダーにより、新しい所有者情報の入力をお願いします』


 超古代文明の魔法言語による呪文を唱えると、祭壇画光り輝いた後、前回同様に半透明のキーボードが表示され、同じように入力した。


『鍵を台座に乗せてください』

「グオンク、剣を載せてくれ」

「……」


 グオンクは目の前の現実に付いて来れず、茫然として動こうとしない。


「おい!!しっかりしろ!!」

「はっ!?ああ……なんだ?」


 俺に大声で怒鳴られるとグオンクは目をパチクリさせながらようやく現実に帰還した。


「もういいから剣を台座に乗せてくれって言ってんだよ!!」

「あ、ああ」


 もう一度強めに指示を出すと、うろたえながらもグオンクは剣を祭壇の上へと置いた。


『鍵の要件を確認。……確認完了。要件を満たしています。転送を開始します』


 鍵を確認したシステムからの音声が聞こえると、俺達のいる祭壇の床が赤く光り輝く。そして次の瞬間俺たちは赤い光と共に地面に吸い込まれるように地下へと下っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る