第171話 鍛冶競技会?④
「どうやらどの工房も剣の打ちかたに入ったみたいですね!!」
「そうだな。どの工房もとても美しい打ちだ」
これまでは全体的に動きがあって、武闘大会のように目まぐるしく状況が変わって実況しがいも観戦し甲斐もあった。しかし、各々が技術やスキルを駆使して剣を打ち始めると、あまり事態に動きがなくなっていく。
国王はそれでも職人の打っている様子が好きなのか熱心に眺めていた。
三日間もかかるこの大会はどうしても動きが少なくなる時間帯が存在する。テレビがないこの世界では録画して編集を行った番組を視聴者が見る、ということできない。そのため席を取った観客は出入り自由となっていた。
もちろん国王のように鍛冶の剣を打つ様が好きすぎてずっと見ている輩もいるだろうが、ほとんどの観客は暫く会場から出ていくだろう、そう思っていた。
しかし、その予想は次の瞬間に裏切られた。
「な、なんだ!?」
「よそ見をするな!!」
「うげっ!?」
会場全体の明かりが薄暗いものに変わり、室内全体が急に暗くなったと思いきや、素材置き場が地面に沈み、そしてその代わりに何やら誰かが乗った舞台がせせりあがってきた。そしてそこにスポットライトのように光が照らされる。
そこに立っていたのはヒラヒラでフリフリな可憐な衣装を身にまとったロリドワーフたちだった。
俺は辺りを見回すと、グオンクにゲンコツを落とされてしまった。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
野太い声が会場中に広がる。
少女たちの後ろには数十人ものオーケストラのような楽器を抱えた集団がおり、スポットライトが集まった後、すぐに演奏が始まった。
これはどこかで聞いたことがあるような音楽。
そう所謂可愛い女の子たちが歌って踊るアイドルグループが歌うような軽快なメロディだ。
「俺は……俺は何を見せられているんだ!?」
「だからよそ見すんなって言ってんだろ!?出遅れちまったじゃねぇか!!」
俺が困惑して手を止めてしまうと、再びグオンクに怒鳴られた。
いやいや意味が分からな過ぎて困惑するのも仕方ないだろ?
それに出遅れたってどういうことだ?
俺は手を止めないようにしながら辺りをチラッチラッと窺うと、火事場の炉の光で照らされた他の参加者たちは、一旦全ての作業をとり止めて観客と同様に真ん中の女の子達に夢中になっている。
多分一旦キリの良い所まで進んで今は休める状態まで作業が進んだということだろう。
「あぁ、くそ間に合わなかった!!」
グオンクが剣を打ちながら悪態をついた。
「なんだよ?どういうことだ?」
「鍛冶競技会はなぁ!!彼女たち『ロリドワクローバーZ』のライブがあるんだよぉ!!ここでしか見れんのだぁ!!そしてここは一番近くで見れる特等席だ!!わかるかぁ!!俺はこの時を楽しみにしていたんだぁ!!お前がへたっぴだからオープニングに間に合わなかっただろうが!!」
「いや、それなら俺以外の助手連れて来いよ……」
「うるせぇ!!男なら言い訳すんじゃねぇ!!」
理不尽すぎる!!
どうやら奉納祭だけライブをする伝説のアイドルグループ?みたいなもんだろうか。非常に人気があるみたいだ。
でも、ちょっと考えてみると、何十年も前から活動しているってことだよな?
それってもうおばさんとかおばあ……おっとこれ以上はイケない……。
なぜか舞台上の少女たちから絶対零度の視線を向けられたので思考を取りやめた。
それにしてもさっきまで真面目な雰囲気はどこに行ったんだぁ!?
俺には困惑しかなかった。
「みんなぁ!!今年も私たちの奉納祭特別ライブに来てくれてあ・り・が・とー!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
一曲終えたぐらいにようやく俺達も作業を終えると、センターの女の子が挨拶をしはじめた。
「皆は元気だったかなぁ?」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「とっても元気みたいね!!私たちも嬉しい!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「それじゃあ早速次の曲に行くね!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「聞いてください『私たちも剣を打ちたいの!!』」
戦隊カラーの衣装を着た女の子が順繰りセリフを言い繋いで次の曲が始まった。
気づけば競技会は最終日を迎えていた。
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