第170話 鍛冶競技会③
「他の参加者たちのも見ていきましょう。やはりまず目を引くのは筆頭優勝候補のアルバトロン選手。流れるような動きで火事場を整えていきます。その様はすでに一種の踊りかのように華麗です。一方で機械的と言いますか、極限まで効率化されたように精密な動きを見せるアニマ選手。この二人は対極的なスタイルをもっているようですね。」
キュクロンの言葉に釣られて精錬がてら二人を見ると、まさに実況通りの動きを見せる二人がいた。
どちらも明らかに一つの物事を極めた、というのはおこがましいかもしれないが、一般人からみればそう言われて差し支えないほどの技術をもっているのが窺える。そこに至るまでの研鑽を思うと思わずため息がでる。
だがしかし!!俺にはそんな経験値は一切ない。だから使えるモノは使わせてもらうつもりだ。
「おい、さっさと終わらせろ!!気を抜かしてんじゃねぇぞ!!」
俺の考えを見抜いたかのようにグオンクが俺を叱咤する。
「わりぃ、すぐ終わらせる」
俺は気を取り直して精錬に集中した。
「よっし、こっちも終わったぞ」
「了解!!」
精錬が終わった俺は金属をグオンクに手渡した。
グオンクは火床ではない炉で金属を掛け合わせ始める。これも他の参加者たちにはない合金化の知識と経験のなせる業だ。
グオンクは無限図書館で得た知識と1か月近い修練で合金の比率をある程度修めた。中でもミスリル合金に関しては特に力を入れたため、かなり細かな調整まで可能になっていた。
「おっと!!またしてもグオンク選手の所はおかしなことをしていますね!!ミスリルに別の金属をまぜちゃいましたぁああああああ!!これは勝負を捨てているのかぁ!?」
「いや、腐ってもアイツは一流の鍛冶師だ。そんなことせんだろう。おそらくなんらかの意図があるに違いない」
ここでキュクロンが俺達の突拍子もない行動に愕然とするが、国王は弟を信頼しているからか顎に手をやって擦っている。
兄弟だけに何か通じるものがあるのだろう。そして俺たちの行動に注目する奴らが他にもいた。
「むっ。あれは……まさか……失われし技法ではないでしょうか?これは気が抜けないようですね、ふふふ」
「ほほう。あれは俺も試してみたが、いまだに完成してない金属の掛け合わせか?やつらは技術こそ俺やアルバトロンに及ばねぇが、精錬といい、今回の技法といい、俺より先の手法を知ってやがるらしい。負けてられねぇな!!」
二人も武器の設計や鍛冶の準備をしながら俺たちを見ている。
そしてなぜかやる気が増していた。
これだから職人って奴らは!!
未知の技術に眼が無かったり、異常に負けず嫌いだったりしやがって。
「ケンゴ、金属を冷ましてくれ」
「了解」
金属の合金化を終えたグオンクは俺に指示をだし、俺は金属の質を損なわないように注意を払いながらゆっくりと温度を調整していく。その間グオンクは火床の温度を上げ、いつでも金属を投入して置けるようにしていた。
―キンッキンッ
そこまで来て他の参加者がすでに金属を叩き始める音が会場内に響き始める。
やはり他の所も準備が速い。こっちは精錬と合金化の分作業が遅れるから仕方がないが。しかし、この競技会は速さを競うモノではない。きっちり時間制限内に武器を仕上げれば問題ないから焦る必要はないだろう。
「準備できたぞ!!」
「おう!!」
俺は温度を調節した金属をプレート状に引き伸ばしてグオンクに渡した。
その後、プレートを受け取ったグオンクはふいごで炉の温度を調節しながらプレートを熱して叩くのに適した温度へと熱していく。
俺は本来の意味での相槌を行うための槌をもって準備完了。
「やるぞ!!」
「任せろ!!」
俺達もついに鍛造に辿り着き、甲高いを音を響かせ始めた。
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