第169話 鍛冶競技会②
「今回使用するメイン素材はミスリルです!!鉄や低級の魔物の素材と比べると扱いの難易度は段違いの素材として有名ですね。しかし、それ故に鍛冶師としてミスリルを鍛えられて一人前という伝統がある程メジャーな素材でもあります。つまり鍛冶師としての技量が最も問われる素材と言っても過言ではないでしょう。そして今年のテーマは剣です。ミスリルを使って各々が考える最高の剣を作り上げていただきます!!準備はよろしいですか?」
『おう!!』
今回使用する素材と最終確認が行われると、参加者たちから野太い声が張り上げられた。
ミスリルにはそんな歴史があったんだなぁ。それにしてもミスリルか。これは好都合だ。手伝いと称した修行で一番扱った素材だからな。剣も一番作った武器だしな。
それにしても各々非常に真剣な眼差しをしており、この大会に賭ける意思の強さを感じさせられる。俺も改めて気を引き締め直した。
「陛下の号令によって競技開始となります。メイン素材以外の素材は中央にある素材置き場から自由に使用して構いません。最後に、何か質問はございますか?」
ここは念のため、確認しておくべきだろう。
「はい、グオンク選手の助手さん」
俺が手を挙げるとビシッと指を挿されて指名された。
「魔法の使用は構わないんだよな?」
「魔法ですか?それはもちろん構いませんが……」
俺の質問に怪訝な表情を浮かべながら答えるキュクロン。
よし、言質いただきました。
「そうか、それならいいんだ」
「そうですか。他に何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
俺が苦笑いを浮かべて頷くと、キュクロンもまぁいいかと困惑気味に頷いて、他の参加者を見回した。
「……いないようなので国王様お願いいたします」
「うむ。それでは皆の者、位置について……競技開始!!」
―ドーンッ
ルールの質疑が終わると、国王の号令の後にまるで祝砲のように巨大な音が会場内に響き渡って、選手たちが一斉に素材置き場へと走り出した。俺も置いて行かれないようにグオンクについていく。
「ケンゴ、アレとアレとアレとアレとアレをある程度取ってきてくれ」
「了解!!」
グオンクの指示に従って指示された素材を用意された荷車に乗せていく。俺が指示された素材を載せていると、グオンクも持ってきたものを載せては、戻ってを繰り返して必要な材料を集めた。
他の選手たちも同様に自分の思い描いた剣を作るための素材を荷車に乗せていき、必要なものを集め終えると、自分たちに割り当てられた火事場に戻っていく。
俺もグオンクと共に俺たちの火事場に戻った。
「それじゃあ、作業を始める!!ケンゴは精錬を頼むぞ」
「分かった!!」
ここで第一のアドバンテージの俺の古代魔法の錬成魔法を行使する。
この魔法を行使することでミスリルを純度100%に精錬することが可能なのだ。今の時代どんなに頑張っても純度100%にすることは無理だ。しかし俺の古代魔法ならそれを実現できる。
俺はグオンクの指示に従い、ミスリルや他の鉱物のインゴットを純度100%へと精錬した。そして鉱物以外の素材に関しても理想的な状態へと錬成を行い、限りなく品質を高める。
その間にグオンクは火事場の炉や道具の準備などを進めはじめた。
「さぁて始まりました!!今回の鍛冶大会。全員が早速各々素材を目利きし、持ち帰って炉の準備に取り掛かり始めました。しかし、そんな中異質な行動をしているのはグオンク工房。助手が何やら魔法を唱えてインゴットたちの形を変えているようです。一体何が起こっているのでしょうか!?陛下何か分かりますでしょうか?」
他の参加者たちは正攻法で攻めているのに対して俺達の行動はおかしいらしく、隣にいる国王に尋ねている。ここの国王も気軽にゲスト参加してて、俺の知る王様像はあっけなく崩れ去ってしまった。
アレナ同様亜人の王様たちは一体どうなってるんだ!?ほんとにフットワーク軽すぎでしょ。
「うむ。どうやら素材の状態が素晴らしく向上しているようだ。インゴットの純度が上がっているように見えるな」
「そ、そんなことが出来るのですか!?」
国王の調査結果に、驚愕の表情を浮かべながら尋ねるキュクロン。
「出来るかどうかは現状の技術では不可能と言わざるを得ないが、目の前で出来ているのだから出来るのであろう」
「何かルール違反の内容があるのではないでしょうか?」
国王は目の前の事実をそのまま受け入れようとするが、キュクロンは俺達に疑いの目を向けていた。
全く心外なんだが……。
「何を言うか。あやつも言っておったろう?魔法が使えるか?と。つまりはなんらかの魔法ということだ。詳しい効果までは知らぬがな。ワシらドワーフには喉から手が出る程欲しい魔法だな」
「なんということでしょうか!?グオンク選手達は全く無名で下馬評で知る者がいない初めての参加者。素人のグループなのかと思いきやまさかのダークホースがいたようです」
疑いの眼差しを向けるキュクロンに対して、国王がそれを咎め俺を庇うようなことを発言をする。そして俺達に疑いの目で見ていたキュクロンもそれに感心するように頷いてから俺のことを持ち上げるように言った。
つかみはオッケーっと。
俺が精錬を行っている間に鍛治の準備が着々と進んでいた。
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