第168話 鍛冶競技会①

 そしてやってきました鍛冶大会会場。会場はコロシアムのような作りになっており、中心から放射状のびた延長線上の先に観客たちから見えるように炉や火事場が設置されている。


 リンネたちは賓客用の区画へと移動しており、参加者の待機スペースには俺とグオンクだけがやってきていた。


「さぁやって参りました!!世界一の鍛冶師の祭典!!ヘパス鍛冶競技会の開催です!!」


 大会の準備が整い、品評会や飲み比べ大会の時と同様にマイクのような魔道具を使用し、ハイテンションなドワーフが競技会の口火をきった。


「まずはこの方に開会の言葉をいただきましょう!!国王グオリス・ブラン・ハルトリア陛下!!宜しくお願いいたします!!」

「うむ」


 実況が国王に希うと国王はひと際高い位置に設置された王族専用のバルコニーのような部分にある席から立ちあがって観客や参加者を見下ろす。


「これより、鍛冶神へパスの名のもとに鍛冶競技会の開会を宣言する!!皆の者、正々堂々切磋琢磨し、神にささげるに相応しい逸品を叩きあげて欲しい!!健闘を期待する!!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』


 国王の開会の宣言の後、怒号のような叫び声が会場内にこだました。


 密閉、という訳ではないが、ここは山をくり抜かれて造られた空間。その声は反響して凄まじい音の爆発となって俺たちに降り注いだ。


「こりゃあ品評会の比じゃないな……」


 俺は思わず耳を塞ぐ。


「ガハハハッ!!そりゃあワシたちドワーフと言えば鍛冶のスペシャリスト、というのが誇りだからな。その世界一を競う大会ともなればこうなるのも無理はない」


 俺の隣でワクワクというのがぴったりな雰囲気を醸し出しながらニヤリと笑うグオンク。この中年ドワーフも自分で言った通りこの大会に参加できることに興奮が冷めやらないという状態なのだろう。


 本当に嬉しそうだ。

 打算ありきとはいえ、誘ってみて良かったな。


「ようやく静かになったので、大会のルールを説明いたしましょう!!おっと、その前にこの私は今回の競技会の司会進行兼実況を仰せつかりましたキュクロンと申します!!以後お見知りおきを!!それでは早速ですが、この競技会は鍛冶の技術を競うというのが趣旨の為、参加者同士の技術以外の環境を出来るだけ同じ状態にして武器を作成してもらいます。参加者は主催者が用意した炉、鍛冶道具、素材のみ使用可能です。それと助手を一名つけることが出来ます。作成期間は三日間。最終日の夜の鐘がなるまでに武器のご提出をお願いします。参加者にはそれぞれ監視員がつき、不正を厳しくチェックすることになります。不正を働いた時点で失格。そして大会への参加権を永久に失いますので、きちんとルールを守ってくださいね!!以上です」


 観客たちの叫び声が収まったが、興奮冷めやらぬ中でキュクロンが大会の説明を行った。


 内容に関してはグオンクから聞いていた通りのなので何も問題ない。そして俺だけに出来そうな秘策もあるし、グオンクには今の世の中にはない知識もある。アドバンテージは十分だ。


「今回この大会に参加するのは総勢17組。名だたる鍛冶大会を制してきた強者たちが揃っています」


 それからキュクロンにより参加者の紹介が行われた。


 その中でも気になるのは優勝候補筆頭のアルバトロン。ドワーフの国一の鍛冶屋と名高く、ドワーフの国の創始の頃から続くと言われる鍛冶屋の現在の当主だ。


 グオンク曰く、間違いなく技術では今ここにいる誰よりも上だろうとのことだ。鍛冶の腕に自信を持つグオンクがそこまでいう相手だ。全力で臨むしかないだろう。


 次点はさすらいの特急鍛冶師と呼ばれる人間族の男アニマ。この男も品評会で審査員をしていたソーマ同様世界中を回る武力があるSSランク冒険者という肩書をもつ。世界中の武器を求めて世界をさ迷い歩いているという武器マニアだ。武器好きが功を奏していつの間にか自分で作るようになり、世界中を巡りながら工房に弟子入りなどもして、いつしかドワーフ随一と呼ばれる実力者にも負けずとも劣らない技術を手に入れたようだ。


 グオンクがこいつの造ったものを見る限り、こちらもかなりの強敵だそうだ。


 もちろん他の参加者も実力ある猛者たち。何があるか分からない。気を引き締めてかからないといけないだろう。


 俺たちの鍛冶競技会は幕を開けた。 

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