第163話 連行
品評会が終わり会場を後にすると、あちこちで酒と料理をたしなむ地元民と観光客の姿が見られ、すっかり地球の海外の屋台街のような夜の喧騒というにふさわしい光景が広がっていた。
「ケンゴォ~、宿に戻ったらまた飲むわよ~」
「へいへい」
すっかり酒の飲まれてへべれけになったリンネは、俺の左腕を巻き込むように抱いて体を俺に預けている。
完全無欠の酔っ払いだった。
「それで?……カエデはなんで俺の腕をかじってるんだ?」
それは良いとして、リンネとは反対の右腕にはカエデがハムハムと噛み付いていた。
まぁ甘噛みだが。
「いや、私も酒によってだな……」
俺がジト目で睨むと、目を逸らして苦しい言い訳をする。
顔色も全く変わってないし、目の焦点もちゃんとあってる。受け答えも至極普通だし、体温がほんのり高いくらいだ。全く酔ってないということはないだろうが、ほんのちょっと酔っている程度のものだろう。
おかげで俺の腕はカエデの涎まみれだ。全くばっちいな。
「いやそれ嘘だろ?」
「う、嘘ではないぞ。足がふらついて立ってられない~。主君肩をしてくれ~」
わざとらしく俺にしなだれかかってくるカエデ。
「わざとくさいんだよ!!」
「イタッ!?」
俺はひらりと躱してデコピンはお見舞いしてやった。カエデはおでこを抑えて恨めしそうに俺を睨んだ。
油断も隙も無い。
「やっぱり一度気絶させておくか?」
「主君!!
俺がすごんで見せると、カエデが土下座でもしそうな勢いで顔の前で手を合わせて悲しそうな表情で頭をペコペコと下げた。
なんか変な性癖に目覚めてないか!?あの誇り高い彼女は何処に行った!?
「いやそれは絶対気絶させた方がいいんじゃないか?」
「後生だ!!頼む、主君!!」
「はぁ……全くしょうがない奴だ」
すがりつくカエデに俺はため息を吐いて呆れるように首を振った。
仕方ないか……実害と言っても多少涎まみれになるだけだ。俺が我慢すれば何も問題ない。
「ねぇちゃん何してんだろ」
「うん、なんだか可笑しなポーズだね」
「面白そう!!私も混ぜてもらお」
「肉寄こせ!!」
俺とカエデがじゃれ合って遊んでいるように見えたのか、子供たちも楽し気に俺の足に縋りついてきた。
これ以上は怒りたくても起これなさそうだな……。
俺はしばし子供たちに付き合って足を軽く振ってやった。子供たちは満足げにキャッキャッと笑った。
「お前はこっちだ!!」
そんな俺たちを尻目に、国王がグオンクの首根っこをひっつかんで王城へと連れて行こうとしていた。
「俺もケンゴたちと行きたいんだが……」
「何十年も音沙汰もよこさなかったんだ。いいかげん家族に近況報告くらいをしろ」
俺たちの方を向きながら嫌そうに、それはもう嫌そうな顔で国王に抗議するが、速攻で拒否されてしまった。
ここは国王の方が正しいと思うが、外部の人間じゃ分からない何かがあるのかもしれない。
「はぁ……こんなことならあんなふうに声をあげるんじゃなかった。それならケンゴたちと帰れただろうに……」
グオンクはため息を吐いて天を仰いで目を細めた。
後悔先に立たずってな。
「そんなことしなくても連れて行ったぞ……」
「なんだと!?」
国王の思いがけない言葉にグオンクが驚きの声をあげて目を見開いた。
「当たり前だろ。家族が居て気づかないわけがないだろ。諦めろ」
「はぁ……分かった。ケンゴ、俺はちょっと行ってくる」
そりゃあ、数十年程会っていないとはいえ、兄弟のことは覚えているだろう。グオンクは国王と積もる話があるようで王城へと連行されていってしまった。
取り残された俺たちはそそくさと宿に帰ったのであった。
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