第162話 造酒品評会③
「最後の参加者ブルーノさんの総合得点は94点。文句なしの優勝です!!やはり前評判通り、ビルシュワさんの後継者とまで呼ばれる彼の酒は圧倒的でした!!ブルーノさん感想はいかがですか?」
「まさか奉納祭という世界一の酒の品評会で優勝が叶うとは……感無量です……」
一人目から最後まで同じように酒の説明と試飲を繰り返して進行していき、最後に元々これまでの大会で最も優秀な成績を収めていたブルーノがその評判通りに最高得点をたたき出して優勝となった。
ブルーノは謙虚な性格のようで自分が優勝できると思っていなかったのか、涙を流しながら感想を述べた。
酒とおつまみをたらふく食べて、程よく酔って気持ちよく終わることが出来そうな雰囲気だ。
「ふーん、まぁまぁだったな。しかし、ケンゴが出すお酒の方が美味かったな!!ガハハハッ」
しかし、その雰囲気をぶち壊す一言を言い放つ人間がいた。
グオンクだった。
グオンクは強かに酔っており、顔を真っ赤にして陽気に笑いながら述べた。
うぉーい!!やめろいい雰囲気なんだからそれをぶち壊す酔うことを言うんじゃない!!
誰も聞いていませんように!!
「ふむ。それは聞き捨てならんな……」
しかし、グオンクの言葉を聞き逃さなかった人物がいた。その人物とは国王だ。
国王がそういうなり場がシーンと張り詰めたように静まり返った。
どうやら俺の願いは叶わないようだな……。
「おっと!!ここにきて賓客から思いもよらぬ言葉が!?いったいどういうことなんでしょうか?」
その雰囲気を誤魔化すべく司会が声を張り上げて実況風に叫ぶ。
「どういうこともなにももっとうまい酒があるって言ってんだよ!!」
グオンクは据わった目をしながら立ち上がった。
もうやめてくれ~!!
「そうか。それではその酒を持ってきてもらおうか?グオンクよ!!」
国王も立ち上がってグオンクを見下ろすように命令を下す。
ん?国王ってグオンクのこと知ってんのか?
最初から名指しで呼んでたけど。
「いいぜ?兄貴!!」
国王の言葉に口端を吊り上げて応えるグオンク。
しかし、グオンクの言葉の中に聞き捨てならない言葉があった。
兄貴?まさか!?グオンクって国王の弟?つまり王弟ってこと!?
いやいやいやいくらなんでもそれはないでしょ!?
あんな貴族の礼儀も知らなそうなドワーフの、しかも下町みたいな場所で鍛冶屋を営んでる男が王族なんてありえないだろ!?
「おい、ケンゴぶちかましてやれ!!」
頭の中が混乱の嵐吹きすさぶ中、グオンクの言葉を受けて意識を取り戻す。
「はぁ!?何言ってんだよ!!完全に良い雰囲気で終われるところだったのに、ぶち壊しやがって!!」
「ふざけんじゃねぇ!!さらにうまい酒があるってのに、アレが一番だなんて認められるか!!俺たちドワーフは酒に関しちゃあ妥協しねぇ!!」
今度は俺の頭に血が上り、グオンクに強く当たると、彼は俺の胸倉をつかんで鋭い眼光で俺を睨んだ。
はぁ……こうなったら酒を出さないと梃でも動かなそうだな。
それにこの件でへそを曲げられて鍛冶大会がうまくいかなくなっても困る。
「…………はぁ。わかったわかった。仕方ないな……」
しばらく沈黙した後、俺は呆れるように折れた。
「ちっ。最初からそう言えばいいんだよ。ほらさっさと出せ」
グオンクは舌打ちしながら俺を睨んで、顎でしゃくるように酒を催促する。
「はいはい。それで?どこに出せばいいんだ?」
「えっと……」
「おい、酒を受け取って全員に配れ!!」
「はっ!!」
俺は視界の方を見ながら尋ねると司会は戸惑うように言葉を失う。しかし、国王がフォローするようにロリメイドに指示を出した。
すると、俺の周りに何十人ものロリメイドが集まってくる。
なんとも微笑ましい光景にしか見えない。
「あの、私たちにお酒を渡していただけますか?ちなみにお酒はどこにあるのでしょうか」
「あぁ。酒はマジックバッグみたいなものがあるからそこに入っている。ここにだせばいいか?」
「はい」
恐る恐ると言った感じで話しかけてくるロリメイドの指示に従って目の前に樽をポンポンと出していく。ロリメイド達はそれを受け取ると急いで後ろに下がり、大ジョッキに並々と注いで審査員と賓客たちに配っていった。
十分ほどで全員に行き渡る。
「そ、それでは、ケンゴさん?でよろしいでしょうか?」
司会が困惑しながら俺の名を尋ねた。
「ああ」
「ケンゴさんが持ってきたお酒を飲んでみましょう!!かんぱぁああああああああい!!」
『かんぱぁああああああああい』
俺が頷くと司会の音頭で再び乾杯となった。
「全員度肝ぬかれてぶっ倒れんじゃねぇぞ!!ガハハハッ」
皆の様子を見ながらニヤリと笑うグオンク。
―ゴクリッ
全員が同時に俺が出したバレッタ特製の酒を嚥下した。
『………………………………………』
辺りを静けさが支配する。
うぉーい、なんとか言ってくれぇ!!
『うまぁあああああああああああああああああああい』
しかし、数秒か数十秒ほど経った時、会場が音で爆発した。
辺りを見回すと全員がとろけるような顔をしている。
その中には優勝したブルーノや他の参加者も雁首揃えていた。
しばらくその余韻に浸たりながら、全員がちびちびと俺の酒を楽しみ、全て飲み干したところでふと夢から覚めたようにハッとした表情になると、近くに居た人同士でお互いの顔を見合わせた後、全員が一様に頷いた。
『優勝!!』
そしてなんの合図があるわけでもなし、満場一致でその言葉が叫ばれた。
「グオンクの言う通りであった。これはまさに神の酒とも言えるべき酒。これほどの酒に私は出会ったことがない」
「私もだ。殿堂入りなどと言われて舞い上がっておったが、まだ先があったか……」
国王が代表して酒の感想を述べると、ビルシュワもそれに続いた。
「私もこの酒に勝ったなどとは恐れ多くて言うことができません。優勝はあなたにこそふさわしい」
そこに本来の優勝者であるブルーノも加わる。
「うむ。異議のあるものはあるか!!」
国王がブルーノの言葉に頷くと、会場の全員に問いかけるように叫んだ。
『異議なし!!』
誰一人として異議を唱えることなく、口を揃えて同意する。
「それでは、今回の品評会の優勝者はケンゴとする。そしてドワーフ国王として、ケンゴには『酒神の使徒』の称号を与えよう!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』
話が勝手に進んでいき、国王から俺が優勝者として指名され、なおかつ変な称号まで貰ってしまった。
辺りは興奮で盛り上がって叫び声を上げた。
これは嫌な予感がするぞ?
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
誰がコールを始める。
ほら始まった!!
『使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!』
そのコールは会場中に波及していき、
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
「使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!使徒!!」
名だたる審査員たちも一緒になって手を突き上げ始めた。
やっぱりだぁ!!どうしてこうなった!!
こうして俺は新たに「(酒神の)使徒」という二つ名を経ることとなり、品評会は幕を下ろしたのであった。
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