第158話 奉納祭
あっという間に今日は奉納祭開催日。
下見をした日から二週間程。俺たち、いや俺は奮起したグオンクに付き合わされて鍛冶の素材の採取や試作の手伝いに大忙し。さらに無限図書館に連れて行って新たな鍛冶の知識を手に入れたグオンクは、ほとんど寝る間も惜しんで鍛冶をし続け、ぶっ倒れた場合は治療薬をかけて酷使した体を回復させたこともあった。
それに付き合わされた俺は、体こそ魔導ナノマシンのおかげでなんともなかったものの、精神的には真っ白に燃え尽きたような状態。はっきり言ってへとへとである。
奉納祭は一週間開催され、鍛冶大会は後半の三日間を使って、予め用意された素材を用いていかに品質の高い武器を作成するか競われる。他に初日に酒の品評会。三日目に酒の飲み比べ大会が催される予定だ。ちなみにどちらもイベントの参加者と観客には酒や料理が振舞われ、特に初日は大会に提出される酒が審査委員と一緒に飲むことができる。
そして俺たちは、開会式とどちらの大会も観客として参加できるチケットを貰っていた。するとどうなるか……。
「お前ら準備はいいか!!」
『おー!!』
「旨い飯が食いたいか!!」
『おー!!』
「旨い酒が飲みたいか!!」
『おー!!』
「それじゃあ出発だ!!」
『おー!!』
大人たちは只酒が飲めるということでノリノリになり、子供たちは料理が食べられるということではしゃぎだして、グオンクの号令の元、宿屋から外に出るのであった。
「げっ!?」
時間的にはまだ開催までに時間がある朝なのだが、すでに道は人でごった返している。簡単に言えば有名な花火大会の会場の状態というのが分かりやすいだろうか。人が群れを成して道に流れを作っていた。
他の宿に泊まっていた連中はどうするのかと確認すると、満員電車ですでにパンパンに人が詰まった電車の中に無理やり入り込むように、この流れに入り込んでいるではないか。
「マジかよ……。グオンクあれが普通なのか?」
「ああ、昔からそうだ。力でごり押しして進んでいく」
俺が絶句してからグオンクに尋ねると、さも当然のように彼は答えた。
いやぁ、これは大人は良いとして、子供たちは気を抜いたら一瞬で迷子になるか、押しつぶされて大けが、むしろ最悪死ぬまであるぞ。それにこれだけこんでれば中にはスリとかもいるかもしれない。
「そうか。そしたら子供たちがはぐれたり、押しつぶされたりしないように、しっかりと守りながら城に向かうぞ。それからスリの類にも気を付けろよ!!」
『了解!!』
俺たち大人はお互いの顔を見合わせて頷きあった。
俺とリンネとカエデ、そしてグオンクがそれぞれ一人ずつ子供たちと手を繋ぎ、流れに入る。一応最悪の事態を考慮して組ごとにインフィレーネを付けて何かあれば障壁を即座に展開するように指示を出しておいた。
俺たちは流れに乗って宿が集まるエリアからでると、人の密集率が下がる。宿の区画には出店がなかったが、そこを抜けると、道の両脇には所狭しと出店が並んでいてまさに花火大会と言った様相を呈していた。
奉納祭期間中は酒や武具の記念セールや在庫一掃セールが行われたり、特別なオークションが開催されたり、至る所で只酒が振舞われたりなどなど様々な小さなイベントがあちこちで催されるのでお目当ての区画に向かって人が分散したのである。
そこからは出店を冷かしながら城の方へと向かっていく。子供たちが美味そうな匂いに涎を垂らしていたので、肉串やベビーカステラのような物を買ってやった。
品評会で料理が出されるとはいえ、奉納祭の開会式が終わって品評会が始まるまで何も食べられないのは可哀そうだからな。
それから俺たちはどんどん進んでいく。しかし貴族街に来ても特に変わることなく出店が続いていた。
「ホントに貴族とは名ばかりな称号になっているようだな」
「そうみたいね。人間の街なら貴族の家の前に出店を構えるなんて出来ないわ」
俺の呟きにリンネが同意するように頷く。
本当にその通りだ。貴族制のある人間の国でこんなことをやればおそらく物理的に首が飛ぶだろう。
そしてようやく城に辿り着くと、賓客らしい人物たちが城へと入場していっていた。
歩いているのは山の中という事情故に馬車の取り回しが難しい故だろう。
「おはようございます。チケットを拝見できますか?」
「はいよ」
俺たちの番になり、チケットを見せる。
「こ、これは!?超VIPにのみ配られるロイヤルカード!?はは!!失礼いたしました。これより賓客席へとご案内いたします!!」
チケットを見せた途端門番が慌てて姿勢を正し、敬礼しながら答え、門番の交代を呼んで俺たちを先導して城の中へと進んでいく。
なんか無駄に特別そうなカードだな。
まぁいいか。
俺は思考を切って兵士の後について入城した。ドームような大きさの空間に掘られている部屋へと案内され、俺たちは賓客の中でもさらに特別な者たちだけが許された席のエリアに連れていかれ、やたらと豪華な椅子へと腰を下ろす。
うわぁ……こんなことになるならもうちょっと格式高い服装の方がよかったか?
そんな思いがこみ上げたので、リンネの方を向くと、
「なによ?」
と彼女はきょとんとした何食わぬ顔をしているので気にするのを止めた。
暫くして招待された客がそろうと、開会式が進行し始める。
「これより、奉納祭を開催する!!」
賓客たちの長々とした話が終わると、ようやくドワーフの王らしき人物より開会の挨拶が行われ、開会式は締めとなり、遂に奉納祭が開催された。
子供たち、いや俺達全員余りの退屈さにぐっすりと眠りこけていた。
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